誰ガ為ノ魔術師
橘ふみの
天下無双の男(壱)
この幸せは、ずっとつづくと思っていた。
大切な人たちが当たり前に生きている世界。
けれどそれは、私の目の前で音を立てながら呆気なく崩れていく──。
一生恨んで、憎んでやる。
この世から魔霊という存在を駆逐するまで私は戦いつづけると決めた。それがどれだけ無謀で不可能なことだとしても、私にはこの道を突き進むしか選択肢がないの。
この身が滅びるまで、這いつくばってでも魔霊を祓って、祓って、祓いまくってやる。
だって魔霊は── 私から大切な人たちを奪ったから。
「殺す、殺してやる」
私には双子の兄がいた、名前は
そんなものが視えてしまう私たちの両親に特別で特殊な能力があったわけではない。あれが視えてしまうのは、私と悠馬だけ。
幼いながらに、人ならざるものが視えてしまうのは絶対におかしいし普通じゃないって、そう思って日々怯えて過ごしていた私たちは、このことを両親に打ち明ける勇気もなく、秘密にしておこうと約束した。
けれど、幼い私たちには抱えきれなかった……抱えきれるはずもなかった。私と悠馬は両親に全てを打ち明けた──。
「まま、ぱぱ……わたしたち、へんなのがみえるの」
「あれはおばけなんかじゃない、もっとこわいやつだ」
そんな突拍子もないことを言い始めた私たちにどう反応していいものか迷い、かなり驚いた様子の両親だったけれど、私たちの言葉を疑うこともしないで、私と悠馬の言葉を信じてくれた。
両親は「何とかしてあげるから」って、優しく抱きしめてくれた。私と悠馬はその言葉にどれだけ救われたことか。
それから両親は必死に調べた。私たち兄妹は何者なのか、視えているものの正体はなんなのか……を。
なにも分からないまま年月が無情にも過ぎ去る。次第に私たちは能力を開花させ、10歳になった頃、両親がある人物を家へ連れて来た。
── 数年前
「香菜恵~? 悠馬~? ちょっと来なさーい」
「「はぁーい」」
お母さんに呼ばれてリビングへ行くと、見るからにチャラチャラしていそうな若い男の人がヘラヘラしながら私たちを見て手を振っている。
「え、だれ」
「さぁ? 知らね」
「こら! 悠馬、香菜恵! ちゃんと挨拶をしなさい!」
お父さんに叱られて、『誰なんだろうこの人』と思いつつ、頭上にちらほら疑問符を浮かべながらも私と悠馬は軽く会釈をした。
「あ、えっと、こんばんは」
「ど、どうもっす」
「ハハッ! いやぁ~2人とも可愛いねぇ。双子なんだってぇ? こりゃまた美男美女で! あっ、俺は東京にある【
「「……は、はあ……」」
私と悠馬は若干ひきつった顔をしながら男の人を見て、そんな私たちをヘラヘラしながら見ている自称教師さん。
「んもぉ、そんな顔しちゃって嫌だな~。俺は不審者じゃないよ?
おちゃらけてるしヘラヘラしてるし『大丈夫なのかな、この人』そう思うと同時に、私と悠馬はひしひしと感じている。鬼鞍律輝、この人は“強い”と。
「ほら、2人とも鬼鞍さんに自己紹介しなさい」
お母さんにそう言われ、私と悠馬は顔を見合わせた。
「
「俺、五十嵐悠馬」
「オーケー、香菜恵ちゃんと悠馬君ね! ところで君達、これからちょーっと信じられないような話をするけど大丈夫かな? 君達のその能力について、知りたいでしょ?」
真剣な表情で私たちを見る鬼鞍さんに、私と悠馬はゆっくりと頷いた。この話を聞けばきっと私たちの人生は大きく変わる。何かが始まるんだって、そんな予感がして、それが少し不安で怖かったりもするけど、ちょっぴりワクワクもする。
「よぉしっ、なら簡単に説明しちゃおうか。君達が日頃視ているのは、人から放たれた欲の成れの果て【
「「((真面目に話せないのかな、この人))」」
「んでね、魔霊をやっつける=【祓う】って俺達は言ってんだけどぉ、その魔霊を祓うお仕事をしているのが【
「「……へ、へえ……」」
私たちは鬼鞍さんに疑いの目を向けることしかできない。だって怪しすぎるもん、そんなのいきなり信じられるわけがないよ。
「ハハッ! 信じらんなぁいって顔をしているね。まぁ分からなくもないけど~。でもさぁ、これは本当の話でこれが真実なんだって感じてんじゃないの~? だって君達……こちら側の人間なんだからさ」
核心を突くようにそう言われ、私と悠馬に緊張が走る。『こちら側の人間』とは何を意味するのか、そんなことは言われなくても察した。私たちは、魔術師になれる力を秘めている特別な人間なんだってこと。
「んじゃ、話を続けようか。魔術専門学園、略して【
「「……あ、ああ、はい……」」
鬼鞍さんの妙なプレッシャーにイエスマンになるしかない私と悠馬。
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