ここは別に読まなくても大丈夫です



「こんにちは。君が出頭してきてくれたっていう…鈴木、透利くん?」


「あ、あ…あの」


「…うん、ゆっくりで構わないよ」


「……じ、自分……あ、その、…あ、痛……ッ」


「……もしかしたら、皮膚が手袋の繊維に引っ掛かってるのかも…つけてる手袋外したら…外したくない?」


「あ、こ、これ、は、さっき、と、取られ…なくて…」


「……外したら、あのおじさん達から付けていろと言われたの?」


「……は、い…つ…つけ、とけ、って…」


「……君はそれで構わない?平気?」


「…あ、あ、んまり、怖がられ、たく、ないか……ので、これで、構わ、ないです」


「怖がる?」


「……その……ぅ…はい…」


「……分かった。事件当日…朝から、何があったか聞いても良いかな?」


「はい……朝、起き、たら、ぃ、家、に…か、鏡、あるんですけど、洗面所…あの、独、り、立、洗…面、だ…台?」


「…うん」


「それ、無く、なって、きれいに」


「……」


「鏡、が、こ、こう…べり、って、剥がされた感じ、という、よりかは、それ、ごと、無くなってるかんじで……」


「…それを、ストーカーの仕業だと思ったの?」


「……はい、そ、そのあと、でも、き、気にしちゃダメだと、思ったから…ぉ、大家さんのとこ、でかけて…かがみ、割ったって、い、言お…うと、して」


「家が賃貸だから、それが懸命だと思った?」


「う、はい…またおまわりさん来たら、大家さん怖がるし……あ、悪意はないんです、悪い意味じゃありません!おまわりさんとかが来てくれるのはお仕事だし大切なことだって分かってるけど、通報したのはこっちだから!でも、事件があったってなったら…って、大家さんが…」


「大丈夫、分かってるよ、ありがとう」


「…ご…ごめんなさい……」


「平気だよ。さっきのお話、続けてくれる?」


「は、はい…そ、その、そし…たら、大家さん、いらっしゃらなかったので、仕方ないから、そのま、ま、ご帰宅されるまで、時間潰そうと、買い物、して……休みだったから、本とか、見ようとした、ら、その、お店の、ガラスに」


「……ガラスに?」


「…自分が、映ってなかったんです……」


「……反射してなかったってこと?」


「……はい、あの、そう、です…お店の、ショーウィンドウとか、エレベーターの鏡にも、居なくて、でも、まわりの、人は普通にしてた、から、自分の目、線で、だけ、見えてなくて」


「……」


「その、自、分の足元の、影が、揺れてるように、見えて」


「……」


「昔見た、ピーターパンの、足の裏に、ウェンディが、影縫い、つけるやつ、思い出して」


「あったね…影がお茶目で、ピーターパンから逃げるんだっけ?」


「は、はい……あのかわいいやつ……その、そいつ……影に、動くなって、言ったら、にら、まれて」


「……影に?」


「……バカみたいですよね…」


「いいや、そんなことないよ。続けて」


「……ケンカも、し、したんです」


「……」


「そしたら、影、動かなくなった、から、買い物、して、帰ったら……大家さん、ご帰宅、され、てて…」


「……うん」


「おはなしして、たら、外、暗くなってて、荷物置いてから、コンビニ…行こうと、したら、突き飛ばされて」


「……影?」


「……直感で、そう、思いました」


「…暗闇だから、影が、大きくなって、君を突き飛ばしたんだね?」


「……はい、そのあと、喧嘩、して」


「……」


「噛まれて、掴み、あいの、喧嘩して」


「喧嘩、して?」


「ころしました」


「……」


「……」


「……手袋、外してくれる?」


「…はい…」


「ありがとう…一旦、手袋はこっちで預……」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

テーマ 嘘/宝 正 @Talkstand_bungeibu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る