第9話 彼との遭遇


          ○

あれから一ヶ月半程経ったある日、またもや全職員、メインホールに集合との放送が鳴った。


私達はその時委員会の活動中だった。


一ヶ月半もあったので私は委員会の雰囲気に慣れてきた。しかし、先輩はまだ慣れていないらしく、渋々参加しているようだ。


因みに研究は全く進んでいない。


最近名前を覚えた、メガネこと加藤が口を開く。


「何事だ? また新人類の奴らが暴れたのだろうか。

はぁ、委員会活動の邪魔は止めて欲しいのだが、行くしかないか」


「私達も行きましょうか、先輩」


「ん? ああ、行こうか」


と言い、私と先輩は拠点を出る。


辺りを見回すと、皆急ぎ足でメインホールに向かっているようだ。


二ヶ月前とあまりに同じ風景なので、少し面白い。


私達も小走りでメインホールに向かう。


今回は早めに着いたらしく、全員が集まるまで十五分程かかった。


全員が集まり、前回と同じようにサイト長である三鷹コウゾウが登壇し、話し始める。


「皆、迅速に集まってくれて感謝する。

今回集まってもらった理由だが、他でもない新人類の暴動の件だ」


前のスクリーンに世界地図が写し出される。幾つかの国が赤く点滅している。


「二ヶ月程前にアメリカで暴動が起きたのは知っていると思うが、その他でも今のところ、ソ連、フランス、ドイツ、インドネシア、ブラジル、韓国、それにインド、中国でも同じような運動が確認されている」


周囲が少しざわつく、サイト長は話を続ける。


「しかもそのうち、アメリカ、ドイツ、インドネシア、韓国、インドでは我々ARF側が敗北した。現在、約95万人の新人類が野放しとなっている状態だ」


「また、アメリカの新人類代表が新たに声明を出した。この映像を見てくれ」


前のスクリーンに鼻の高い男性が声高に叫んでいる映像が写る。


『全世界の自由を求める新人類の皆、私の声は聞こえているだろうか!

私達は勝利した、また、他の多くの国でも自由を得るための戦いが起きていると聞いた。

これは大変誇らしい事だ、この声明を聞いたのなら、そして、忌々しい壁を越えたいと思ったのなら、今こそ立ち上がるときである!

私達なら世界を変えれる。

私達は待っている。もう一度言おう、私達は待っている!』


後半は声が掠れ、声を絞り出すように話していた。


正直言って凄い演説だった。一瞬我々が間違っているとも思わせるような勢いとカリスマがそこにはあった。


皆のざわめきが増す。その殆どは不安によるものに聞こえる。


「静粛に、この声明は明らかに暴動を助長している。これにより、その運動がここ、日本で起きてもおかしくない。いや、ほぼ起こると思った方が良いだろう。

つまり、我々はそれを最大限に警戒しなくてはいけない。

皆、マニュアルを確認し、最低限の銃器の扱いを身につけるように。

話は以上だ」


と言い、サイト長がメインホールを出る。


瞬間、風船が破裂したように、メインホールは一気に騒がしくなる。前回と比べて圧倒的に五月蝿い。


殆どの人は不安の表情を浮かべていた。中には絶望したような人もいた。

加藤は委員会での活動内容を誇らしげにくっちゃべっていた。


「ーーーーー」


先輩が何か話しているが、周りが五月蝿くて聞こえない。


私達はメインホールを出た。

宛もなく誰もいない廊下を歩きながら話す。


「ひゃ~、皆焦ってるね。私も驚いたよ。新人類達の運動がこんなすぐそばまで来てるなんてね。

ユイはあんま驚いて無さそうだけど」


「んー、新人類さん達なら、そのくらいは普通にすると思いました。多分私達旧人類に負けるなんて思わないでしょうし。

あと、私は自分が死ななかったら無問題なので」


「ふ~ん、相変わらずユイは新人類が好きだね~。私は職場無くしたくないけどな」


等と暫く話しながら歩いていると、先輩が思い出したような顔をして、


「あっ、そう言えば、私今日医務室行かないと行けないんだった。

ごめんユイ、ちょっと今から行ってくるね」


と言い、医務室の方向へと走っていった。


「はーい。行ってらっしゃ~い」


と先輩の背中に告げる。


一人になった私は歩くスピードを速め、ラボの方向へ向かう。


(そう言えば、先輩最近よく医務室に行くような...私が入社した時から既に通ってたっけ?)


と考えながら少し歩くと、喉が乾いているのを感じた。


(そう言えば、朝から一滴も飲んでないな)


飲み物を買うべく、自動販売機がある休憩室へと向かう。


まだ多くの職員はメインホールにいるらしく、辺りはがらんとしている。


おかげで、休憩室へあっという間に行けた。


何を買うか考えながら休憩室のドアを開けると、


そこにはベンチに座りながらコーヒーを飲んでいる清掃員がいた。






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