第2話 スライム真田追い出される

長い黒髪が、枕の上に広がり、まるで寝ている間にどこかに冒険に出かけてきたみたいにふわふわとした形になっている。

寝顔は少しだけ口を開けていて、見ているこっちが恥ずかしくなるような可愛さだ。


って丁寧にこんなことを考えている暇ではない!!!


まずい、部屋から出よう。

一旦退散だ。


ガタッ。


「痛っ!」


俺は部屋に落ちているくしを踏んでしまった。

(なんでこんなところにくし落ちてんだよ!)


そして、物音を立ててしまった。

ヤッベ。

早く出よう。


「もう、お母さんうるさい。入る時ぐらいノックしてよね」


やべえ起きた!

でも、お母さん???

後ろ姿だから分からないのか?


「今日から家庭教師来るんだっけ?もうだったら早く起こしてよ。待って、今電気つけるから」


ピッ。


その物音と共に部屋は明るくなり、俺はスポットライトのように照らされた。


「え…誰!?」


ヤバイ、ヤバイどうしよう。

この状況の最適解は何だ?

どう、打開するべきだ。


俺の脳内は、とんでもないスピードで回った。

多分、今の俺の脳内は超高性能ゲーミングPC並みの処理能力!


「今日から、君の家庭教師になった幸村智です。よろしく!」


片手を差し出し、ニッコリスマイル!


どうだ!これが俺の最高スペックの脳の答えだ!


「出てってください!!!!!」


ガチャリ。


ですよねー。


俺は、大声と共に部屋を出された。


大声を聞いて、半田さんの奥さんは2階へと登ってくる。

部屋から閉め出されている様子を見て奥さんは口を開く。


「智くん、まさか…」

「誤解です!その、娘さんがベッドに寝てたので!!」

「ベッド…寝た?今日は、お引き取りください!!!」


ガチャリ。


俺は家の外へと追い出された。



恨むぜ、親父…。


□□□


「お前、花子ちゃんを襲ったのか…。父さん見損なったぞ…」


家族4人で夕食を囲っていると、急に親父が真剣に話し始めた。

親父の、話を間に受けた高校生の妹の、なほは心の底から軽蔑したような表情で一言。


「お兄ちゃん、ないわ。キモ…」


「誤解だ!無罪だ!襲ってねーよ!」


「ガハハ。分かってるよ!半田さんも早とちりしたって謝ってたし、俺も誤解は解いておいたから明日は頑張れよ!」


「…」


親父はおちょくってくるし、もう誰も信用できないな…。

もう辞退してえ…。

さっさと配信して寝よ。


「今日もスライム真田ラジオ始めまーす」


『なんか、今日テンション低くないですか?』


いつものように鼻からハンバーグからのコメント。


「そうなんだよねー。今日バイト初出勤なのに追い出されてテンションが低いです」


『ええ。そんな初出勤で追い出すような無慈悲人この世にいるんですね。最低ですね。クズですね。真田さんをいじめる人はハンバーグが許しません!』


鼻ハンだけだよ俺の味方は…。

なんか、こう女神が舞い降りた気分だ。


「ありがとうハンバーグさん。ハンバーグさんの家には今日家庭教師は来たんですか?」


『聞いてくださいよ。初出勤でその家庭教師、部屋に無断で入ってきたんですよ。許せませんよね』


「無断で!?それは許せませんね!人として最低の家庭教師ですね!」


『ですよね。これからもお互い頑張りましょう¥500』


いつもの500円か。


「ハンバーグさん500円ありがとう。ではまた明日」


500円の財源は何なんだ!

気になるな…。

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