第5話
「アイスティーをお持ちしました」
若い女性がカートを押して戻ってきた。カートからグラスに入ったアイスティーをテーブルに置く。コースターも添えられていて、思ったよりちゃんとしている店のようだ。
「そして、こちらが今月のスイーツです」
大きなお皿がカートからテーブルに移動する。カタン、と小さな音を立ててテーブルに置かれた皿に、俺の目は釘付けになった。
「向日葵……」
一輪の大きな向日葵の花が皿の上にあった。例えが悪いのだが、生首が皿に盛り付けられたみたいに感じられた。そのくらい、思わず息を呑むくらい、迫力がある。
「え、これ、ホンモノ?」
「まさか。チョコレートなんですよ。食べ切れますかね?」
食べ切れるかと聞かれて、俺は困惑する。四、五人で食べるホールケーキよりも直径は大きい気がする。高さもそれなりにあるものだ。
「ああ、一応、中は空洞なので、見た目よりは軽いですよ」
「お姉さん、片手で置いていたもんな」
そう返すと、彼女は気まずそうな顔をした。余計なことを言った。
俺はチョコレートでできた精巧な向日葵を見やる。
「食べ切れないって答えたら、どうなるんだ? こんなに綺麗なもの、残すのは勿体ねえよ」
俺が尋ねると、彼女は笑った。
「あらかじめ切り分けておけば、残りはお持ち帰りできますよ。そのときは、崩れないように空洞部分にスポンジケーキを詰めますが」
「へえ……」
「その分、持ち帰り料金は発生します。いかがしますか?」
無料のサービスだとは思っていない。俺は彼女を見上げて口を開く。
「言い値で構わねえから、土産に包んでくれねえか? アイスティーはここで飲んでいくから、この皿の向日葵を、食べやすいくらいに切り分けてほしい……いや、難しいのか?」
「幾つにお分けしましょうか?」
「とりあえず……四つ? あとは自力でなんとかするから」
「承知いたしました」
そう事務的に返事をすると、彼女は軽々と皿を持ち上げてカートに載せ、店の奥に戻ってしまった。
待っている間、アイスティーを飲んでいればいいな。
思いがけず素敵な向日葵に出会ってしまった。これなら問題ないだろう。
俺はよく冷えた美味しいアイスティーを飲んで、ゆったりとした気持ちでお茶の時間を楽しんだ。
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