第4話
「俺、言ったよな? エチュードはやめとこうって、それなのに普段の劇よりも良いっていう感想が多いのは、なぜなんだ!!」
俺たちは今、部室で文化祭の反省会をしている。この前のステージの上で演技したエチュードは、お客さんからの反響も良かった。
感想箱も、普段の演劇よりも多くの感想文が寄せられた。
俺の嘆きを聞いていたタカシこと高橋が、机の置いていたポテチの袋から何枚かポテチを出して貪っていた。
「仕方ないよ、モグ、だって今回の、モグ、劇は即興だったし、モグ、普段からしてる劇よりも、モグ、ギャグ要素が多かったし、モグバリ」
バリって聞こえた気がするけど、ポテチをどういう風に食べたらその音が出るんだ?
ポテチを貪ってる高橋に賛同するように、エリこと絵梨花はコップにジュースを注いでいた。
「まあ、確かにいつもの劇よりもギャグ要素が多かったのは、本当だわ。あとは、即興劇っていうワードに心を鷲掴みにされた人もいるんじゃないかしら?」
そうだろうか? まあ、弱小部である演劇部に入部する人が増えたらそれで良いのだけれど...
でも、今回の劇で改善点があるとするなら...
「登場人物のキャラがブレブレだったな。特に高橋が」
「え!? いや、僕もテンパってたんだよ! 仕方ないだろ!」
「テンパって、エリを魔王にしないでくれよ」
そう、実はエリは元から魔王という設定はなかった。でも、高橋が緊張でテンパったことによって、物語があらぬ方向へと向かってしまったのだ。
「でも、やっぱり今回の劇で一番、頑張っていたのは増田ちゃんじゃない? よく音響があんなふうに立ち回ったものね」
それはそうだ。あのあと、増田は俺たちに文句を言いにきた。バトルシーン用の音響を探していたらしい。どうりでエリが最初に打った呪文の時に効果音が入ってなかったわけだ。
「あの時は流石に、自分もビックリしましたよ。場面設定では、小屋の中だし、急にバトルし始めるし」
「わ、悪かったって」
「まあ、お客さんの反応の良いですし、別にいいですけど」
「そうだな」
しばらくして、お菓子とジュースを買い込んできた顧問の先生が部室に入ってきた。でも、先生方で打ち上げをするらしいから、十分も経たずに部室を出ていった。
その後にお菓子をパーティー開けして、ジュースをコップに注いでいる時に絵梨花があの話を持ち込んできた。
「ところで今度の市で開催される発表会でも、エチュードしますよね!! めっちゃ楽しかったし、お客さんの反応も良いですし!」
おいおい、何を言っているんだ?
「いいな! そのアイデア僕も賛成!」
「自分ももう一度、挑戦してみたいですね」
おいおい、高橋と増田まで何を言い出すんだ?
「まあ、エチュードでもいいけどな」
俺がそう言うと、高橋が歓声を上げた。
「よしゃああ!!! また悠馬より目立ってやるぜ!」
「ちょっと待て! あれ、わざとだったのか?」
俺の言葉に高橋は「当たり前だろ」と悪びれずに言った。
それよりも、いま俺が気になっているのは...
「ところで俺はどうやって、舞台の上にたどり着いたんだ? その前の記憶はないんだけど」
俺の言葉に絵梨花たちが顔を見合わせた。そして意を決したかのように、言った。
「実は......部長がいつになっても首を縦に振らないので、部長が部室の棚を見ている時に後ろから分厚い辞書で叩いてしまって...」
え? 可愛い顔から結構エグい暴露が出てきたんですけど。言われてみたら確かに後頭部にコブができているような...?
あれって、辞書で俺の頭を殴ったことが原因だったのか!? よくタンコブだけで済んだな、俺の頭!
「あとは体育の剛力先生に力を貸していただいて、あそこまで悠馬さんを運びましたよ」
感情が読み取れない声と表情で増田さんが淡々と言った。
「待て......やっぱり、今度の市での劇の発表はもう少し検討する」
「ええ!! なんでだよ? さっき良いって言ったばかりじゃないか!!」
逆ギレすんなよ、高橋。俺だって、お前らのことについて怒りたいよ。
「まあ、落ち着いて! まだ締め切りまで日があるし、今日は打ち上げを楽しもうよ!」
「そうですよ。自分も演劇のことを考えずに、お菓子を嗜みたいです」
絵梨花と増田さんがそう言うなら、じゃあ楽しむか。
「そうだな! とりあえず、今日はお疲れ様でした! 今後の劇が上手くいくことを願って...」
「「「「乾杯!!!」」」」
ジュースを高らかに上げて祝杯をあげた。俺たちの挑戦はこれからも続く。
エチュード 鳥羽 あかり @red_apple
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