第3話


「あと十本くらいある」


 タカシの言葉にエリは頭を抱えた。


「あの......交渉をしない?」


「「え??」」


 エリから、魔王から交渉するってことあるか? 聞いたことないぞ。


「あの......流石に、今のを続けてると、体力と魔力も保たないので、したいんだけど...ダメかな?」


 やばい、女の子からの上目遣いかつ首を傾げての「ダメかな?」は反則だろ。


 俺とタカシは、すぐに首を縦に振った。


「「はい! ぜひ!」」


*** *** ***


 座布団を敷いて、机を置いた。


「で? 具体的に交渉って何をするの?」


 タカシの言葉に俺も首を縦に振って、エリの方を見た。


「私だって、魔王ですから。願い事ぐらいありますし、それを叶えるために手段を選ばないつもりだったもの。せっかくのこういう機会も大切にしないといけないじゃない!」


 そういうもんか。それにしても、エリ(魔王)の願い事か。


「エリの願い事ってなんだ?」


「私? 私は普通の女の子になりたい!」


「「えっ?」」


 そうなのか? いや、でもエリは普通の女の子だとずっと思ってたし......


 え? 願い事ってそれ?


「何よ! 二人ともアホみたいな顔をして見てるの!? 私は真面目に話してるのよ!!」


 そう言って、エリは机をドンッと叩いた。俺も、俺の隣にいたタカシもビクッと肩を震わせた。


「で、なんでそんなことを今更?」


「い、今更って何よ!」


「じゃあ、普通の女の子ってどういう意味だよ?」


 俺の言葉を聞いたタカシが「そうだ、そうだー!」とヤジを投げた。


 エリは恥ずかしそうに下を向いた。


「そ、それは......可愛いお洋服を着ていたり、魔王みたいに世界を滅ぼすような職業に就いてなかったり......してるのが、普通の女の子じゃないの?」


 そういうものか??


 いやー、よく音響係の増田さんからは、女心がわかってない! とは言われている。こういう風な話を聞いてわかれば、女心っていうのがわかるということなのだろう。


 やっぱり、俺には難しすぎるなぁ。


「でも、普通の女の子だよな? っていうか、魔王って職業なのか?」


「うん、といっても、家系が継いできた職業に分類されるかな? 私はお父さんから引き継いだけどね」


「じゃあ、今の時代は魔王が主流か......でも、僕はやっぱり勇者に代行している騎士がいいなあ」


 やめろタカシ! 中の人の本音が混じってないか?


 でも、そっか。難しいなぁ。


「じゃあ、その職業やめて魔法使いの本業に就いたら、いいんじゃないか? そうすれば、エリの言う“普通の女の子”に近づけるんじゃないか?」


 俺がそう言うと、隣にいたタカシが「それな」と頷いた。エリはうーんと唸っていた。


「僕もユウマに賛成だよ。そもそも、僕らにとってエリは最初から“普通の女の子”だったわけだし」


 おい、タカシ。それ一番おいしいところじゃないか! 普通は勇者の見せどころのはずだろ、そこは。なんでお前なんだよ。


 タカシの言葉にエリは目を輝かせた。


「ほ、本当に? 嬉しい。ありがとう! 私、これから魔法使いとして名乗っていくわ!」


 おお〜いいじゃないのか? でも、やっぱりタカシに見せ場を全部、持っていかれた気がするし、そこは少し不満があるな。


「よし、これからどうする? 魔王は辞めて、

魔法使いに正式になるんだろう?」


「うーん、手始めにお父さんを説得しに行こう! 流石に、私一人ではできない気がするし...」


「そうだな!」


 答えてから気づいた。ん? 私一人ではできない? ってことは、もしかして...


「エリ、俺らも一緒に行くのか?」


 俺の言葉にエリとタカシは、目を合わせて笑い出した。


「ふふふ、当たり前じゃないですか! 勇者も一緒にきてくれると嬉しいですし、魔王に興味はないですか?」


 いいえ、ないです。今すぐ家に帰って布団にダイブしたいです。


「ガハハハ! ユウマ、何を言ってんだよ? 僕らまだ冒険してないし、このまま帰るわけにはいかねえだろ!」


 いや、怪我がなく、元気な状態で俺は家に帰りたいね。


「いや、冒険は...」


「ほらほら、いきますよ!」


「ユウマ、早く行こうぜ!」


 右腕をタカシに、左腕をエリに掴まれて、俺は舞台袖へと引きづられながら連れていかれた。


 そしてアナウンスが流れる。


『こうして、魔王は魔法使いになり、勇者の新たな冒険が始まるのであった』


 こうして俺らの文化祭は、終了した。

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