第4話 私をお飾り側妃にですって!? 2

「どーしよう。

 皆には秘密にしておくつもりだったのに。

 つい口がすべっちゃったわ」

 

 マリーは両手で口をおおいながら、

「マリーっておバカさんね。

 ヒョイ様。ごめんなさい」

とポロポロと涙をこぼす。


(絶対、嘘泣きだけどね)


「気にするな。マリー。

 側妃と聞いてショックを受けたんだろうから。

 けど約束する。

 もしオリビアを側妃にすえても、私はオリビアの寝室を死ぬまで訪れない、と」


「ヒョイ様あー」


 マリーは勝ち誇った顔で私をチラ見してから、ヒョイ様の胸にとびこんでゆく。


「ヒョイ様。マリーは世界1の幸せ者です。

 今度は喜しすぎて、また涙がでちゃいます」


「そーか。そーか。

 マリーはどうしてそんなに可愛いんだ」


 ヒョイ様はマリーを抱きしめると、片手でマリーの顎をグイと持ち上げた。


 ちょっと待ったあ!


 さんざんコケにされたあげく、キスシーンなんか見せられたらやってられない。


 2人の世界を壊すため、先ほどの話題をむしかえすことにする。


「ヒョイ様。

 側妃の件はきっぱりとお断りさせていただきます」


「そうか。

 やはり妹の下になるのは不満なのだな。

 オリビアらしいな」


 ヒョイ様は不満そうにフンと鼻をならせた。


 と同時にマリーが眉をつりあげ私を指さしする。


「ちょっと、お姉様ったら。

 せっかくヒョイ様が、お情けで側妃の席を用意してくれたのよ。

 まずはお礼を言うのが常識でしょ」


 常識か。


 それをマリーが口にするとはお笑いだわね。

 

「お黙り!

 まずはそっちが私に謝るべきでしょ。

 2人して私を裏切ったのだから」


 胸の前で両手をくみ仁王立ちする。


 これまで大人しく聞いていたが、もう我慢ならない。


「お姉様が怒るのは筋ちがいだわ。

 だってマリーみたいに可愛く生まれなかったお姉様が悪いんだもん」

 

「2言めには『可愛い、可愛い』って。

 もう耳タコだわ」


「『可愛いは正義』なのよ。

 だから、私みたいな可愛い子は何をしても許されるの!」


 「可愛いは正義」ね。


 それはマリーのゆるぎない信念のようだ。


「落ち着け、オリビア。

 私を奪われて悔しいのはわかるがしかたないんだ。

 どう考えもも、マリーの方が女として上なんだからな。

 ガハハハハハ」


「それは遺伝子の関係なのよ。

 だってね。

 お姉様のお母様より、私のお母様の方が女としては上だから」


 マリーが「ウフ」と両肩をすぼめたと同時に、私はマリーの頬をピシャリとうつ。


「オリビア。嫉妬に狂って妹に手をあげるとは見苦しいぞ!」


 ヒョイ様が太い眉をしかめて、私に腕を振り上げた時だった。


「グルルル」


 低く唸りながら、シロがヒョイ様の方へ勢いよくジャンプする。


 シロは名前どおり、真っ白な毛並みをした雑種犬だ。


「シロ!ダメよ。戻ってくるのよ」


 私の注意もむなしく、シロがヒョイ様の腕にかぶりつこうとした瞬間。


ーバーンー


 屋敷内にぶっそうな銃声が響く。


「あんなバカ犬。ワシが撃ち殺してやる」


「やめて。シロは私のたった1人の友達なのよ」


 声のする方に視線を移すと、そこには鬼のような形相をしたお父様がいた。














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