第37話「別れの港」
朝の港は、柔らかな陽射しと潮の香りで満ちていた。漁船が出ていくエンジン音と、遠くで響くカモメの声。その音を聞きながら、ノアは胸の奥に広がる切なさを抑えきれなかった。――旅の終わりが近い。
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町の人たちの笑顔
最後の市場巡り。魚屋のおじさんは、タイの切り身を紙に包みながら笑った。
「次はゆっくり来いよ!」
意味は分からなくても、その温かい笑顔が心にしみた。
子どもたちが「ノア! ノア!」と走り寄ってきて、小さな手に折り紙の鶴を握らせてくれる。
「オカエリ、ノア!」
ぎこちない日本語の発音が、胸の奥をじんわり温めた。
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家族との夜
出発前夜、ユウタの家では小さな送別会が開かれた。
マサエが作った煮物と炊き込みご飯、そしてユウタが釣ってきた新鮮な魚がテーブルを飾る。
ノアは拙い日本語で「ありがとう」を何度も繰り返した。
ユウタは缶ビールを持ちながら、ゆっくりとした英語で言った。
「Isamu… proud. You… come here. We… family.」
その言葉に、ノアは何も言えず、ただ深く頭を下げた。
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夜の縁側
港から吹き込む夜風の中、ノアは縁側でノートを開いた。
新しいページに書き込む。
•Step Thirty-Three: Time to return. But not to leave.
そしてページの隅に、小さな文字で添えた。
「この町は、もう僕の一部だ」
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港の朝
翌朝、ユウタと一緒に港を歩いた。波の音が静かに足元を洗い、漁船の灯りが遠くで瞬く。
「また来る」と言葉に出した瞬間、胸の奥が少し軽くなった。
――ここは、もう“遠い場所”ではない。
ノアにとって“帰る場所”のひとつになったのだ。I’m
風の家紋(かぜのかもん)—僕が日本へ向かうまで— 和泉發仙 @Nec81zumii
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