第33話「戦火の影」
翌朝、ユウタに連れられて町役場の資料室を訪れた。木の匂いが残る古い建物の中、分厚い帳簿や黄ばんだ書類が整然と並べられている。係の職員が手渡してくれたのは、百年以上前の戸籍簿と古い町内の記録だった。
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古い記録のページ
ノアが手袋をつけて慎重にページをめくると、「佐藤イサム」の名前が見えた。
生年月日、家族構成、そして「1918年 渡米」の記録。そこには、移民した年と、家から港に送り出した旨が淡々と記されていた。
ユウタが横から通訳する。
「ここに書いてある。『帰郷は果たせず』……」
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戦争の足跡
さらに資料を追うと、戦時中の記録が目に入った。
第二次世界大戦の間、この町は物資不足に苦しみ、多くの若者が戦地へ送られたこと。
そして、アメリカに渡った人々――その中にはイサムも含まれていた――が「敵国の人間」と見なされ、故郷との連絡が絶たれてしまったこと。
ユウタが静かな声で言った。
「だから、手紙が届かなかった。…たぶん、イサムさんも、もう戻れないと思ったんだろう。」
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古い写真
係の職員が、別の封筒を手渡してくれた。中には、港町で撮られたモノクロ写真が数枚。
若い男たちがスーツ姿で船の前に立ち、笑顔を向けている。その中に――間違いなくイサムの顔があった。
胸が詰まる。夢と希望を抱えた若き日の曽祖父が、そこには確かに存在していた。
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波打ち際の独白
その日の夕方、港に立つ。波の音が足元をさらい、遠くでカモメの鳴き声が響く。
ノアは写真を胸に当て、静かに目を閉じた。
「イサム……あなたは帰りたかったんだよね。でも帰れなかった。」
「その夢、僕がここで受け止めるよ。」
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ノートのページ
夜、縁側でノートを開く。
新しいページに書き込んだ。
•Step Twenty-Nine: Learned the truth of the war.
•Isamu wanted to return. War and life stopped him.
ページの隅に、小さく添える。
「悲しみも誇りも、全部抱えて帰ろう」
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