第32話「声を知る人々」
翌朝、庭先で風に揺れる桔梗を眺めていると、ユウタが声をかけてきた。
「Today… old people… talk… Isamu story.」
胸が高鳴る。曽祖父を知る人の記憶――それを直接聞けるのだ。
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神社での再会
神社の境内には、年配の男性が待っていた。白い髭を整え、柔らかな目をした宮司、森山さんだ。
ユウタがゆっくりと通訳しながら紹介する。
「This is Mr. Moriyama. His father… friend of Isamu.」
森山さんは笑みを浮かべ、桔梗の家紋の風呂敷を見つめた。
「やっぱり、イサムさんの家の印だな……」
その言葉は理解できなかったが、表情の温かさだけで十分だった。
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若きイサムの話
ユウタの通訳で、少しずつ物語が紐解かれていった。
イサムは若い頃から町一番の働き者で、港で荷運びをしながら母親を支えていたこと。
桔梗の花をこよなく愛し、家の庭を丁寧に手入れしていたこと。
そして――アメリカに渡る決意をしたとき、町の人々が心から応援して送り出したこと。
森山さんは、静かに続けた。
「でも、帰っては来られなかった……それでも、あの人の名前は、今もここに残っている」
その声は、どこか誇らしげでもあった。
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古老の記憶
午後は、町外れの小さな茶屋で古老の女性たちと会った。
「イサムさんはね、真面目で優しい子だったよ」
「出発の日は、みんなで桔梗を手向けて送り出したんだよ」
翻訳アプリを通して意味を理解するたびに、胸がじんわりと熱くなる。
ノアは小さく頭を下げ、「Thank you」と何度も繰り返した。
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ノートのページ
その夜、縁側で波の音を聞きながらノートを開いた。
新しいページに書き込む。
•Step Twenty-Eight: Learned Isamu’s story.
•Hard worker. Loved family. Loved this town.
そしてページの隅に、小さく添えた。
「イサムはここで愛され、ここから夢を追った」
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心のつながり
庭の桔梗を見つめながら、ノアは心の中でそっと呟いた。
「あなたの声、少しずつ聞こえてきたよ。イサム。」
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