第28話「はじめまして、ハリマ」
朝の光が差し込む宿の部屋。畳の匂いと小鳥の声に包まれて目を覚ましたノアは、スマホを確認して息をのんだ。
――親戚からのメッセージが届いていた。
「駅まで迎えに行きます。10時に改札で会いましょう。」
シンプルな日本語。でも翻訳アプリがしっかりと意味を教えてくれた瞬間、胸の奥がじんと熱くなる。
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駅までの道
チェックアウトを済ませて駅に向かう。通りには、朝市の露店が並び、焼き魚や味噌汁の匂いが漂っていた。通り過ぎる人々の会話は一言も分からないけれど、その響きが不思議と心地よかった。
駅のホームに着くと、改札口の前で背の高い男性が手を振っていた。短髪で、日焼けした肌。胸ポケットには「田中建設」と書かれたロゴが見える。
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初めての対面
「ノアさん?」
その言葉だけは、耳で分かった。
ノアは慌てて頷き、英語で答えた。
「Yes! I’m Noah. Nice to meet you!」
男性――親戚の田中ユウタは、一瞬戸惑ったように眉を上げたが、すぐに笑顔になった。
「オーケー、オーケー。カモン。」
片言の英語と身振り手振りで会話をしながら、駅前の駐車場へ向かう。車に乗り込んだ瞬間、潮風とエアコンの混ざった匂いがノアの鼻をくすぐった。
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車窓の景色
道沿いには田んぼと低い家々が広がっている。遠くに見える小さな神社、港町の静かな空気――そのすべてが新鮮だった。
ユウタが指を差しながら、ゆっくりとした英語で説明してくれる。
「This… my town. Harima. Your… great-grandfather… live… near here.」
その言葉を聞いた瞬間、胸の奥が熱くなる。窓の外の風景が、急に意味を持ち始めた気がした。
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古い家
車が停まったのは、古い木造の家の前だった。屋根瓦はところどころ色褪せているが、軒先にはきれいに掃かれた庭と桔梗の花が咲いていた。
ノアはスーツケースを下ろし、深く息を吸い込む。
――ここが、曽祖父が育った場所。
風呂敷の刺繍を指でなぞりながら、小さく呟いた。
「I’m here, Isamu…」
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ノートのページ
夜、親戚の家の客間でノートを開く。
新しいページに書き込んだ。
•Step Twenty-Four: Met family. First day in Harima.
ページの隅には、こう添えた。
「ここから、“物語”が動き出す」
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