第14話 「綴りの迷路」
翌朝、ノアは学校の図書室にこもっていた。シアトルの移民局から取り寄せた候補リストをプリントアウトし、ノートに並べて書き写していく。
――Sato Isamu。
その名前だけで十数件。年齢や到着港、出発地が微妙に違うものもあれば、ほとんど同じ情報のものもある。
曽祖父の存在が少しずつ近づいている気がするのに、同時に遠ざかるような感覚があった。
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困惑と焦り
ページを何度も見比べながら、ノアはつぶやいた。
「……どれが、曽祖父なんだ?」
「Sato」という名字が、アメリカでの「Smith」や「Johnson」と同じくらい一般的だということは、頭では分かっていた。それでも現実として突きつけられると、目の前が少し暗くなる。
机の端に置いたノートの隅には、父の字で書かれた「最後までやれ」の文字がある。それを見て深呼吸した。
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カイの助言
放課後、駐車場でカイに声をかけられた。
「顔、暗いぞ」
ノアは小さく笑って答えた。
「記録が多すぎるんだ。曽祖父と同じ名前がたくさんあって……どれが本当なのか、分からない」
カイはポケットに手を突っ込みながら、静かに言った。
「焦るなよ。俺の親父が昔言ってた。『家系をたどるのは、パズルを解くようなものだ』って。最初はバラバラでも、根気よくやれば必ず繋がるってさ」
その言葉に、胸の奥の緊張が少しほぐれるのを感じた。
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メールの返事
その夜、日系人会から新しいメールが届いていた。
Dear Noah,
Thank you for sharing the scanned images.
We believe that the combination of “Hyogo Prefecture” and the route through “Kobe Port” narrows the possibilities significantly.
To proceed, we suggest checking Kobe City Archives and the Japanese Family Registry (Koseki) for more information.
We can help you draft the request letter to the Japanese authorities if you like.
Best regards,
Mariko Takeda
画面を見つめながら、ノアは深く息を吸った。
――戸籍(Koseki)。
新しい単語が、まるで扉の前に立たされたように重く響いた。
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夜の決意
机の上でノートを開く。
ページの一番上に書き加える。
•Step Nine: Request Koseki (Family Registry)
•Kobe City Archives → contact
そして小さく、心の声を文字にした。
「絶対にたどり着く」
窓を開けると、冷たい夜風が頬を撫でた。その風は、遠い国の潮の匂いをほんの少しだけ運んでくるような気がした。
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