第12話 「西海岸の匂い」
ノアのノートパソコンには、見慣れない差出人からの新しいメールが届いていた。件名には**「Additional Guidance for Your Search」**とある。
心臓が跳ねる。震える指でクリックすると、画面に長文の英文が表示された。
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メールの指示
Dear Noah,
Thank you for the additional details you provided.
We recommend taking the following steps:
1.Request a copy of the Seattle Immigration Arrival Records for 1918.
2.Review any Japanese documents you have for names of cities, towns, or prefectures.
3.If possible, scan or photograph those documents and share them with us.
From the information you shared, the mention of “Hyogo Prefecture” suggests that your great-grandfather may have departed from the Kobe Port, which was a common departure point for Japanese immigrants at the time.
Please let us know if you need help contacting the archives.
Best regards,
Mariko Takeda
読み終えた瞬間、ノアの胸が熱くなる。メールの文章の一部――Kobe Port――その単語が、ただの地名ではなく、曽祖父の物語に直結するもののように思えた。
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カフェテリアでの共有
昼休み、窓際の席に集まった仲間たちにノートパソコンを見せる。
「見てくれよ、ここ。コウベポートって書いてある」
「コウベ? あのビーフの?」ジェイデンがすぐ反応する。
「そう、兵庫の神戸って場所らしい。そこから出発した可能性が高いって」
サラはスマホで地図を開き、指でズームアウトした。
「ここが神戸、ここが兵庫県全体……。港町みたいね」
「港町か……」ノアは呟く。
カイが静かに付け加えた。
「じゃあ、その辺りにまだ親戚がいるかもしれないな」
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夜の作業
帰宅後、ノアは机に木箱を広げ、写真と風呂敷をスキャンした。手書きの文字が薄れている部分を慎重に撮影し、メールに添付する。
送信ボタンを押した瞬間、ノアは深く息を吐いた。自分が少しずつ前に進んでいるのを、確かに感じた。
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父の気配
夜、ガレージを覗くと父が古いオイル缶を片付けていた。
「……ポートが分かったんだ」
ノアがそう言うと、父は手を止め、少しだけ頷いた。
「じゃあ、次はそこを追えばいい」
短い言葉。でも、その声の奥には確かな応援が込められている気がした。
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ノートのページ
その夜、ノアはノートにこう書き加えた。
•Seattle – arrival 1918
•Hyogo Prefecture – Kobe Port
•Graduation photo – Showa 6
そして、ページの下に新しい一行を記す。
Step Seven: Trace the port.
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遠い匂い
窓を開けると、夜風が部屋に流れ込んだ。どこかで潮の匂いがした気がして、ノアは目を閉じる。遠い国の港で、桔梗の家紋を抱えた青年が船に乗り込む姿が、ぼんやりと脳裏に浮かんだ。
「待ってろ、イサム……」
小さく呟いた声は、夜の静けさに吸い込まれていった。
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