第11話 「郵便受けとメールの海」
週明けの月曜。朝から空は薄曇りで、冬の気配が少しずつ忍び寄っていた。家を出ると、郵便受けに厚めの封筒が挟まっているのが目に入った。差出人の欄には見慣れない団体名――Japanese American Genealogy Center。
指先が一瞬固まり、心臓が早鐘のように鳴り始めた。
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封筒の中身
家に戻って封を切ると、中には数枚の資料と、丁寧な英語で書かれた手紙が入っていた。
Dear Noah,
Thank you again for reaching out.
Based on the year 1918 and the port of Seattle, we found records of several passengers with the name “Isamu Sato.”
However, to narrow down the search, we will need more details:
– Any possible hometown or family address in Japan
– Approximate age at the time of arrival
– Any related documents with Japanese writing
We look forward to assisting you further.
Sincerely,
Mariko Takeda
便箋を読み終えた瞬間、胸の奥にまた新しい火がつくのを感じた。
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放課後の作戦会議
その日の放課後、カフェテリアの隅の席でノアはジェイデンとサラ、そしてカイに封筒の中身を見せた。
「すげぇじゃん! ちゃんと返事来たんだな」
ジェイデンは紙をひっつかんで目を通し、目を輝かせた。
「でも、まだ“複数候補”ってやつなんだろ? だったらもっと情報が必要だな」
「どんな情報がいるの?」とサラ。
「日本での住所とか、年齢とか。あと日本語で書かれた書類があればって」
「じゃあ、あの写真の裏の文字とか、風呂敷の刺繍とかがヒントになるかもね」
「そうだな……」
カイは静かに頷いた。
「俺の親父も昔、日本の戸籍ってのを取り寄せたことがあったらしい。書類が複雑で諦めたって聞いたけど……たぶん、そういう公的な記録もあるはずだ」
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メールの嵐
その夜、ノアは机の上に木箱の中身を並べ、ノートパソコンを開いた。
資料を何度も見比べながら、候補になりそうな情報を一つずつメールに打ち込んでいく。
•1918年にシアトルに到着した記録
•卒業写真の裏にある「Showa 6」という表記
•「Hyogo Prefecture」という文字
•木製の印鑑に彫られた不思議な文字
送信ボタンを押した瞬間、背筋にぞくりとした感覚が走った。自分が確かに何かを動かしているという実感が、初めて鮮やかに胸に刻まれた。
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父の一言
夜遅く、ガレージに行くと父がエンジンを拭いていた。
「……進んでるのか」
父は顔を上げずに言った。
「うん。少しずつだけど」
「なら、最後までやれよ」
その短い言葉に、ノアはただ静かに頷いた。
⸻
ノートのページ
机に戻り、ノートを開く。
次のページに、こう書き加えた。
Step Six: Narrow the search.
Provide every detail.
ページを閉じたとき、遠い国から吹く風が、ほんの少しだけ近く感じられた。
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