第10話 「町境のサイロ」
週末の午後、町外れの農道を歩いていた。舗装の甘いアスファルトがひび割れ、道端の雑草は風に揺れて乾いた音を立てている。遠くに見える銀色のサイロは、この町の象徴のようなものだった。小さい頃はあれを宇宙船だと信じて、友だちと秘密基地ごっこをしたものだ。
でも今は、ただの“町の境界”にしか見えなかった。
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自分の居場所
シアトル、兵庫、そして祖父の名前。
少しずつ繋がり始めた点は、まだ細い糸にしかなっていない。それでも、僕をこの町の外へ引っ張るには十分だった。
ただ同時に、胸の奥に小さな痛みもあった。父や母、そしてこの町の仲間たち。ここを出るということは、それらを一時的に手放すことでもあるからだ。
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ジェイデンとの会話
その夜、電話をかけるとジェイデンがすぐに出た。
「お、探偵さんか?」
「……まぁ、そんなとこ」
「で、次はどうするつもりだ?」
「もっと情報を集める。港のこととか、出発した時代のこととか」
「ふーん。でもさ、ノア……お前、本気で日本に行くつもりなんだろ?」
ジェイデンの声はいつもより真剣だった。
「分からない。でも、行かないと分からない気がする」
「そうか……だったら、行けよ。俺はここで応援してるからさ。帰ってきたら、土産話だけじゃなくて、本物の寿司もよろしくな」
笑い混じりの声に、不思議と胸が軽くなるのを感じた。
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父の沈黙と母の微笑み
翌日の朝食時、母がコーヒーを飲みながら言った。
「あなた、また遅くまで起きてたでしょ」
「ちょっと調べ物してただけだよ」
父は新聞から目を上げなかったが、その指先がわずかに動いたのを見逃さなかった。きっと彼なりに気にかけているのだろう。
母は穏やかな笑みを浮かべて言った。
「どこに行くことになっても、帰ってくる場所はちゃんとあるからね」
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サイロの下で
放課後、ひとりでサイロの下まで歩いた。冷たい金属に手を当て、空を見上げる。
この町しか知らない僕が、遠い国へ行くなんて無謀かもしれない。でも――。
「行くんだ、絶対に」
声に出した途端、胸の奥で何かがはっきりと形になった。迷いはまだ残っている。それでも、初めて一歩を踏み出した気がした。
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ノートのページ
夜、自室でノートを開き、ページの一番上に書いた。
Step Five: Prepare to leave.
ペンを置くと、窓の外で風が強く吹いた。その風は、遠い海の匂いをほんの少しだけ運んできた気がした。
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