第7話 「最初の返事」
父からもらった封筒の中の紙片――“Seattle 1918 – arrival”。
その文字を見た瞬間、ノアの胸は妙な熱さでいっぱいになった。シアトル。自分が立っているこの中西部の片田舎からは想像もつかない遠い港町。けれど、その地名が曽祖父の人生のどこか大事な地点であることだけは、直感的に分かった。
⸻
メールの送信
その晩、ノアは机にかじりついてパソコンを立ち上げた。
検索窓に「Seattle 1918 immigration records」と打ち込む。英語の古い新聞記事や移民局のデータベースが山のように出てきたが、どれも手がかりになりそうなものは見つからなかった。
そこで、サラに教えてもらったキーワードを使ってみる。
“Japanese American History Center”
“Nikkei Genealogy Group”
ヒットしたページのひとつに、古びたデザインの「お問い合わせフォーム」があった。迷った末に、ノアはメッセージを打ち込んだ。
Subject: Help finding family records
Message:
Hello,
My name is Noah Miller. I recently discovered that my great-grandfather, Isamu Sato, came from Japan to the United States around 1918, possibly arriving in Seattle.
I am trying to learn more about his journey and family. Any guidance or resources would be greatly appreciated.
Thank you.
Noah
送信ボタンを押した瞬間、指先が小さく震えた。たった数行の英文なのに、呼吸が少し速くなる。画面には「Thank you for your message」の文字が表示され、その文字だけがやけに心強く見えた。
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学校での期待
翌日、学校ではジェイデンが真っ先に話しかけてきた。
「で、どうなったんだ? その……なんだ、ニッケイなんちゃら?」
「Nikkei Genealogy Group」
「そう、それ!」ジェイデンは笑いながら肩を叩いた。「返事来たか?」
「いや、まだ。でも送っただけでも少し気が楽になったよ」
「いいじゃん、前進だな」
カフェテリアの隅でカイが小さく笑った。
「返事、すぐ来るといいな」
その表情はどこか自分事のようで、ノアは胸の奥に小さな温かさを感じた。
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返事
その夜。
夕飯を食べ終えたあと、ノアは部屋でノートをめくりながらぼんやりしていた。机の上のスマホが震える。画面に見慣れない差出人名が表示された。
From: info@nikkeigenealogy.org
Subject: Re: Help finding family records
息を飲んでタップする。
Dear Noah,
Thank you for reaching out to us.
Based on the year and port you mentioned, there may be records in the Seattle immigration archives.
If possible, please provide any additional details such as his age at arrival, hometown in Japan (prefecture or city), or any documents with Japanese writing.
We will do our best to guide you through the search.
Best regards,
Mariko Takeda
Japanese American Genealogy Center
文章を読み終えた瞬間、胸の奥が熱くなった。誰かが、自分の曽祖父の存在を信じて、探そうとしてくれている――ただそれだけで、心が軽くなった。
⸻
ノートのページ
ノートを開き、返事の内容を書き写す。
そのページの下に、小さくこう書いた。
Step Three: Find the hometown.
窓の外では、乾いた風が夜の街を渡っていった。
それはまだ遠い旅路の始まりに過ぎなかったが、ノアの胸には確かな手応えがあった。
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