私たちの行き先

@Lisa_Chrono

作業員の記録

 「では、この動画を流しててください。他の場所点検してくるんで、動画が終われば少し待っていてくれますか。」

 閉店後の薄暗いハンドメイド雑貨店に、タブレットから厳かな儀式の音声が流れだす。高校を中退してすぐに霊返しの小さな会社に就職してから、もう十五年が経った。社長が現役だった頃は、まだ動画での霊返しは主流ではなかったらしく、苦労して儀式を覚えたそうだ。その頃はまだ霊返しは金持ち向けのビジネスだったし、俺みたいなのは雇わなかったらしい。お世辞にも品があるとは言えない俺は特にヤバい奴ばかり相手してきたが、今回の依頼人は珍しく丁重な人で、仕事もはかどるというものだ。彼のいるバックヤードに戻ると、彼と彼の子供らしい小さな男の子がいた。彼が立ち上がっても、子供は彼の足にしがみついている。

「あの、すみません。動画を止めてしまって。ほら、お兄さんに謝りなさい。」

「ごめんなさい……。」

「あ、そっすか、構わないっすよ。とりあえず続き再生しましょうか。」

 一応、動画を止めるのは良くないんじゃないかという程度の話にはなっていた。本物の儀式は中断しないからだ。動画で霊送りができる仕組みはよくわかっていないが、誰かが始めて今まで問題が起きずに定着した。金持ちはまだ儀式にこだわったりしているらしい。子供があまりに申し訳なさそうにしているから話しかける。六歳か七歳のように見える子だ。

「霊、やっぱ怖いっすか?」

「……ほんとはちょっとだけ怖い……。」

「ま、そっすよね。俺もガキんときはそうでした。でもまあこうやってあの世に送ることができる訳っすし、こいつらも元々生きてた人間なんでねぇ。」

 動画が終わって雑貨店を出る。外は雲一つない真夏。俺はあの霊をきちんとあの世へ帰れただろうか。それを知るすべはない。

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