はじめてのビールの苦さに「まだ大人になれない」とこぼす感覚。二十歳のわたしにもよく分かります。大人と子どもの境界に立っているはずなのに、自分の内側はまだ追いついていない。そんな曖昧さが、この作品全体に静かに流れていました。
月や観覧車、ファミレスのカウンターといった身近な景色が、どれも少し寂しく、でも温かさを残しているのも印象的です。とくに「雪が溶けるみたいに観覧車はまわる」の一節は、時間のやさしい残酷さを表していて心に残りました。
そして、ぬいぐるみの存在。大人になれないわたしと、ぬいぐるみにしか委ねられない心。それは決して幼さではなく、かろうじて自分を守るための拠りどころのように感じました。孤独と安心が同居する、この作品の核のように思います。
透明で、すこし切なく、それでいてどこか日常に根づいている詩。二十歳のわたしだからこそ、深く共感できる言葉たちでした。
『わたしは ぬいぐるみがいないと 生きられない
ぬいぐるみも わたしが居ないと生きられないの?』
最後の『?』が魅力的。
きっと、ぬいぐるみは私が居なくて生きていけるのだろうけれど、やっぱりぬいぐるみにもおなじように思っていてもらいたいという思い。ぬいぐるみに対してでさえ、自分の元から離れていってしまうのではないかという不安感が強調されているようです。
また、『居』という漢字。ぬいぐるみに対しては使われておらず、わたしに対しては使われている。
動物と静物のちがいがこの漢字には込められているのだと思う。
明確にわたしとぬいぐるみの差のようなものが感じられる好きな表現でした。
素晴らしい作品をありがとうございました。