生と死の曲

真夜中に散りゆく桜

生と死の曲

僕は昔から音楽が好きだった。

歌うことが、聴くことが、演奏することが好きだった。

それは高校生になっても変わらなくて自分で曲を作りたいと思うようになっていた。

そして高1の夏、自分の家にあるパソコンを使って作曲を始めた。僕は夢中になって作っていた。時間を忘れてしまうほどに。

そして試行錯誤を繰り返して高1の冬に完成した。ボーカルは僕が行った。作り始めたときによく聞いていたボカロに影響されて暗めの曲ができた。完成したとき大きな満足感と共に誰かに聴いてもらいたい気持ちが湧き上がってきた。

なので僕は中学からの友人でボカロ好きのやつに聞いてもらうことにした。初めて作ったものなので自信はないが何かアドバイスでももらえればいいと思っていた。




僕は早速、年の明けて数日経った日、昼に友人にLINEをして『作曲をしたから聴いてほしい。

良くなかった点もできれば教えてほしい』と送った。

しばらくして『オッケー』と返事が来た。そして僕はドキドキしながら彼の返事を待った。数分経って『すごいいいと思う』と来た。お世辞かどうかわからないが褒められるのは嬉しい。

だがこれからの作曲のために良くなかったことを聞きたいという文言を再び送った。だけどそのメッセージが既読になることはなかった。




新学期、彼は学校に来なかった。彼は行方不明になったらしい。

姿が見えなくなったのが僕が彼に曲を聴いてもらった日の昼頃らしい。僕は彼の友人だったので、彼が行きそうなところを聞かれたが心当たりはないと答えた。




数日後、彼が発見された。冷たくなった遺体として。第1発見者は僕。家からの最寄り駅から数駅離れたところにある海岸で打ち上げられているのを見つけた。

体は冷たく脈もなかった。だから僕は警察を呼んだ。警察の人たちが来て、僕は話を聞くために警察署へと連れて行かれた。僕は彼を発見したときの状況を話した。ひとしきり話し終えた後、僕は解放された。そのあとは迎えに来た親の車で帰った。

その車の中で僕はあることを考えていた。同じだな、と。僕の作った曲と状況が似ているのだ。状況説明中、聞こえた話だが彼は多量の睡眠薬を飲んでいたらしい。それだけで死ねるくらいの。

僕の作った曲では、致死量の睡眠薬を飲んだ主人公が海に飛び込むという結末となっている。まさかな、と思ったが気にせず僕は思考をやめた。




時間が過ぎていって僕は大学生になった。音大に入って作曲を専攻している。あれから作曲を続けていってYoutubeに動画を投稿している。

1番最初にあの曲は投稿していないが。再生数は1000前後を繰り返している。明るい曲調で暗さを感じないようなものを投稿している。だけど僕が作りたいのはこんなのじゃ無い。そんな気持ちが積もっていった。


ついに僕は自分の作りたい曲調で作って動画を投稿した。僕の欲は作りたいというだけではなく聴いてほしいという欲が出て来てしまった。


今回作った曲は最初の曲よりも暗いものだった。理不尽に晒されて続けそれでも耐えようともがいたものの結局無駄で諦めて電車に飛び込んで自殺してしまう。そんな曲である。


そして僕はその曲を投稿した。深夜の3時だった。そのときになぜか悪寒がしたが無視をした。しばらくして強くなる悪寒に耐えきれずに僕は動画を削除した。


そのときの再生回数は32回だった。


次の日、ニュースを見て僕は曲を投稿したことを後悔した。電車への飛び込み自殺が日本全国で起こったのだ。全部で31件。1回は僕が確認のために再生したのでそれを除いて31回。ほんとに起こるとは。僕の曲は呪いかなんかなのか。


そして僕は動画投稿をやめた。僕の曲のせいで人が死ぬのはごめんだ。大学は親の金で通わせてもらっているためやめずに続けた。




大学4年、卒業が迫る中、僕は考えていた。僕の曲はなぜ人を殺すのか。何が原因でそんなことになるのか。これからも僕の全力を出して投稿するにはどうすればいいのか。そんなことを考えていた。

僕は諦めきれなかったのだ。作曲を、曲を聴いてもらうことを。


気持ちだ。僕はそう結論づけた。多分曲にかける気持ちの違いだ。明るい曲を作る時の気持ちと暗い曲を作るときに気持ちが違いすぎるのだ。気持ちが強すぎるとその曲が聴いた人の心を動かせる。僕は心を動かす才能があったようだ。


だがこれで原因がわかった。そして良いことも。聴いた人のを殺してしまうほどの曲が作れるなら死にたい人を生きたくさせる曲も作れるはず。




これで目標が決まった。人の死ほど明確な指標は無い。生きたいとなったことを僕は知ることはないからだ。だけど僕の曲で人が救われるならそれは嬉しいことだろう。だから僕は作り続けよう、人を救う曲を。

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生と死の曲 真夜中に散りゆく桜 @sakura-tiru

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