第2話 傲慢な態度

 時刻は夕方5時半。男はそのまま家に帰るわけではなくこの時間から会社に戻って仕事をするのだ。仕事といっても何をしているのかはよくは分からないが。いつもパソコンに向かってカチャカチャと何かを打ち込んでいる。そしてようやく二十時くらいにやりたい仕事を済ませた後は、職場の同僚と酒を飲みに行く。


メンバーはいつも限られたメンバーだ。この男もそうだが、この酒の席に着くやつは皆暇なやつばかりなのか。酒を飲みながら話す内容だってたいしたものではない。いつもいつも似たようなことばかりだ。しかもその内容ときたらその場にいない他のメンバーの陰口などが多い。なんて退屈で陰険な者どもの集まりだろうか。昼間散々、


「有難うございました」


を繰り返していた男に関して言えば、この酒場ではいやに横柄で我儘で自己中心的だった。どういうことなのか、この変貌ぶりは。昼間あんなに低姿勢だったやつがここでは、仕事とは何か、営業とはなにかと後輩社員にネチネチと説教をしている。この男のやっていることは全くもって理解できない。正直な話、昼間のうっ憤をこの酒場ではらしているとしか思えない光景だった。つきあわされる後輩も後輩で、訳のわからぬ文句を謳われながら「はい、はい」と姿勢を正して聞いている。裏腹にその表情は拷問でも受けているかのように苦しそうで、辛そうだった。そして話が終わったと思ったら、今度はその後輩社員が、


「有難うございました」


馬鹿なのかこの連中はと毎回思うのだ。

 

日付が変わる時間近くまで男は飲み続け、満員に近い地下鉄に乗り込んで家路につく。吊革に掴まりながらこくりこくりとしながら今日も自分はよく頑張ったと自分で自分を褒めながら五つ程の駅を電車に揺られて帰路につく。いったい男は何を頑張ったというのだろう。昼間は頭を下げて周り、夜になると胸を大きく張って後輩社員に武勇伝を語る。こんなものどこの阿呆にだってできそうなものだ。家に帰るとまた惨めなもので妻にこんな時間までどこをほっつき歩いていたのかと問いただされる。男は「いや、飲み会が断れなくて。」と下らない嘘をつく。飲みに行こうといったのは貴様ではないか。風呂に入って、缶ビールをさらに一本煽って深夜一時過ぎに布団に入る。

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