音楽学校の同棲制度で落ちぶれ子役と組まされた俺が、密かに楽曲提供してるアイドルをライバルに取られた件

@ren-dreaming

第1話

第1章 くじが決めた僕らの未来


 シラベ私立芸能高校では、名声は夢じゃない。カリキュラムの一部だ。


 毎年、学校は悪名高い看板企画――**ハーモニーペア制度**を走らせる。二人一組で**コライト寮**に同居し、生活も創作もすべて共有。評価は容赦ない数値、\*\*共鳴度(レゾナンス・スコア)\*\*で決まる。ストリーミング、ライブ投票、講評――冷たい数字が、温かい拍手の行方を決める。


 勝者への報酬は、**メジャーデビュー枠**。

 敗者へのリスクは、再編成、あるいは停止処分。


 今年、その運命の抽選台に立つのは六人――その中に、僕もいる。


 ――夏の終わりの陽射しがまだ強い。僕はケイゴと並んで歩いていた。最近の彼はやたら人気だ。廊下を通れば、女子が小さく悲鳴を上げる。


「お前、なんでわざわざペア制度なんか出たんだよ。俳優やるんだろ?」


 ケイゴは得意げに笑う。


「まず訂正。**俺は**俳優。最近の映画、見てないの?」


「はいはい。女子にモテモテの人気急上昇中の俳優・ケイゴ様、で満足?」


「そうそう。それで――応募理由は簡単。**イロハに**出し抜かれるわけにいかないでしょ?」


「だろうと思ったよ」


「で、リョウは? もう十分売れてるじゃん。今さら出る必要ある?」


「……秘密。親友にも言えないやつ」


「はぁ!? だからこそ言えっての……はぁ、まあいいや。なら勝手にしろ」


 これがケイゴ。無駄に明るくて、競争心が強くて、どうしようもなく憎めない――そして、僕の親友だ。


 メインホールに着くと、空気が熱を帯びていた。配信スタッフのケーブルが床を這い、ステージ中央には**抽選箱**。客席には生徒と教職員、そして配信用のカメラが並ぶ。


 六人――僕、ケイゴ、ミナミ、サユリ、イロハ、ソウマ――が最前列に呼ばれた。


 壇上に上った校長がマイクを握る。落ち着いた声がホールに響いた。


「ようこそ、今期のハーモニーペア制度へ。諸君の実力、そして**パートナーと響き合う力**が試されます。評価は共鳴度。期末に一位のペアがデビュー枠を得ます」


 間。空気が張る。


「ただし――」校長の声がわずかに硬くなる。「今期は新たな条件を加えます」


 ざわめきが走った。


「ひとつ。**期中でのペア変更**の可能性。変更が必要と判断された場合、**ライブ配信での視聴者投票**によって決定します。

 ふたつ。**オリジナリティ加点**。パフォーマー自身が作者/アレンジャーとして**相応の関与を示した**場合に与えられます。

 みっつ。最後にして最も重要な――**ゴーストライティングの罰則**。自ユニット外への楽曲提供・創作関与が発覚した場合、特に期中の再編が絡む場面では、**参加停止**など厳正に対処します。公平性と信頼のためです。試す必要はありません」


 心臓が一拍、変な音を立てた。ゴーストライティング、ね。


「では、抽選を始めます。最初は――リョウ」


 僕はステージに上がり、箱に手を入れた。小さな紙片が、やけに重い。折り畳まれた名前を握りしめ、そのまま一歩下がる。


 続いてケイゴ、イロハ、ミナミ、ソウマ、最後にサユリ。彼女は囁き声を無視するみたいに、静かに歩いてきて、淡々と紙片を取った。*あの子役の子じゃない?*――客席のどこかでそんな声がした。


「では、最初のペアを発表します」


 ドラムロールのSE。


「――**ケイゴとイロハ**。二人とも、くじを掲示してください」


 歓声。ケイゴは王様みたいに笑って\*\*「イロハ」**の札を掲げ、イロハは完璧な所作で**「ケイゴ」\*\*の札を上げた。


 やっぱり、あの二人は火花が似合う。


「次――**ソウマとミナミ**」


 ソウマは勝者のような足取りで前に出て、\*\*「ミナミ」**の札を高々と掲げる。振り返って、わざとらしく僕にニヤリ。ミナミは控えめに**「ソウマ」\*\*を掲げ、客席に一礼してから、そっとこちらを見る。


 *大丈夫*――僕は小さくうなずいた。


 彼女も、わずかに微笑んだ。


「最後は――**リョウとサユリ**。前へ」


 僕とサユリは並んで進み、札を掲げる。**「リョウ」「サユリ」**。礼儀正しい拍手。期待と不安が半分ずつ混ざった音。


 横目に見えたサユリの横顔は、何も言っていないのに「笑うなら笑え」と言っているようだった。


 こうして、くじは僕らの未来を決めた。


 写真撮影が終わるころには、ライトの熱も、歓声の熱も、少し冷めていた。僕ら六人はそれぞれの**コライト寮のスイート**へ――ここからが本当の試練だ。


 これからサユリと僕は、**パートナー**だ。

 一つ屋根の下で暮らし、音を作り、もしかしたら、僕らにしか作れない響きにたどり着く。


 それが、ハーモニーペア制度の始まり。

 そして、僕がまだ想像もしていない未来への、第一歩だった。

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