一難去って
「スペル発動ユナイト! タンザの力をディオンに!」
施設入り口にてヤーロンと戦うシェダはスペルを発動し、魔神ディオンの瞳が細くなり首筋に銀の鱗が現れる。刹那に相対する毒大剣担ぐドラゴニュート・ダオレンが迫り、魔槍で真っ向から受け止め滴る毒が身体に触れても何も起こらず、それにはヤーロンもほぅと感心の声をあげた。
「銀蛇とは中々珍しい魔物をアセスにしてたアルか。でもそれで勝てると思わないことネ! スペル発動、デスバインド!」
ダオレンが力強くディオンの足を踏んで押さえつけ、その上で発動されるデスバインドの黒い渦が広がり始める。瞬間、大シャコのデウの背に乗り硬い甲殻に亀裂を入れていた鬼兵ヤサカがそれに気づき攻撃を中断し、手にする三日月状の刃を投げてダオレンを狙う。
当然ダオレンはそれを避ける為に離れ、すかさず刃に繋がる鎖をぐっと引くヤサカに合わせディオンが鎖を掴みそのまま引き寄せられる形でデスバインドを避ける。
さらにそのままディオンは魔槍を短く持ってデウへと向かい、それにヤーロンが気づいた時にはデウの片腕が切り落とされ、その反射で左腕が裂けて血が吹き出す。
「っぐ、やるアルネ……」
「あんたよりは真面目に戦ってきてるからな……!」
言葉を交わす瞬間にヤサカの刃がデウの甲殻を砕いてその身に傷を負わせ、さらにディオンが口から頭を刺し貫きデウを倒す。
アセスのブレイクに伴う強烈な衝撃がヤーロンを襲い、口から血を吐くものの残るダオレンが走り出してヤサカを切りつけ、切られた場所と同じ部分がシェダにも傷となって現れ血が飛ぶ。
刹那、毒の刃をまともに受けてもヤサカは踏みとどまってダオレンを切り返しその腕を切り裂くと、注意が逸れた一瞬を逃さずディオンが心臓を貫き通す。
勝負あり、それを悟りながらヤーロンは胸の痛みと共に崩れ落ち、カードへと戻ったダオレンとデウが戻ってきたのを見てそのまま倒れた。
対するシェダも傷はもちろんのこと魔力の消耗に伴う疲労で汗だくで肩で息をし、ディオンが一声かけると何も言わずにヤサカと共にカードへと戻した。
「殺しなんてしなくても……十分、強いじゃねぇか……あんたも」
「そう言われるのは、悪くは、ないアルネ……」
呼吸を整えながらシェダがヤーロンへ近づきながら声をかけ、ヤーロンも言葉を返し深呼吸を繰り返しながら何とか仰向けになり、空を見上げながら何かを悟り目を閉じる。
「ワタシらは殺るか殺られるか、それだけだったアル。リスナーの力はその手段でしかない……それが、当たり前の世界ネ」
勝つか負けるか、死ぬか生きるか、シェダはヤーロンらが身を置く世界というものを何となく理解しつつも、自分がその道に進むことはないと感じていた。一方で、道が違えばそうなっていたかもしれないとも。
「俺には、故郷を救いたいって夢がある。その為にこの力を使いたいって思えたし、使えるように教えてくれた人とかもいた……あんたらも、そういう奴がいたら……」
「今更あるネ……でも、そう、か……」
ヤーロンの脳裏に在りし日が蘇る。リスナー能力を使って生きてきた事、手段を問わずに生きる為だけを考えて来た結果が殺し屋稼業という道と。
そして、同業者であるトリスタンがどんな思いで逝ったのかもまた、その最後の相手となったシェダと戦ってわかったような気がした。
「最後……トリスタンはどんな顔をしてたアルか?」
「笑ってたよ。俺とお前らとは違うって……」
「そう、アルか……なら、少しは……」
がくっとヤーロンの全身から力が抜け、気絶したとシェダは悟る。このままトドメを刺しておく、というのも浮かびはすれど実行する気はなく、ヒーリングのカードを引き抜いて自分に使ってまずは回復をする。
それから少し落ち着くとカードを引き抜き、そのカードを使って事後処理を始めていく。
「スペル発動、ポイントリープ……」
ヤーロンの上に落とすようにして発動させたスペルの効果で彼と彼のカードが光と共にその場から消え、遠く離れた火の国フレイの留置所へと直接転移され、そのまま武装解除と確保とが行われていった。
まずは一人と思いつつもシェダは大きく消耗した事で一度片膝をつき、ヒーリング一枚での回復は足りないと思いつつも何とか前へと進み行く。
(シェダ、無理はするな)
(そうも行かねぇよ、エルクリッドを……助けねぇ、と……)
最初に会ったときは良い印象はなかった。だが戦いを経て認め合い、同じ師という点もあって共通点や似た部分を感じながら切磋琢磨してきた。
ディオンに心配されながらもシェダの思いはさらに強くなり、少しずつ足は早まり走り出すまでに至る。
先にクロスとバエルとが先行しその後ノヴァ達が進んだ事で障害はさらになくなっている状態だ。その点においては連戦ではないだけマシ、と思っていた時に足下の不自然な柔らかさに気がついて目線を向け、毛細血管のようなものが広がる床や壁に気がつき、すぐにその場から離れカードを抜く。
「なんだよこれは……!」
ゆっくりと伸びていく赤い触手が毛のように細かい触手を生やし、それが触れたものが取り込まれ侵食していく様子にシェダは目を見開き、同時に、触手の不自然に太い部分が裂けて何かが出てくる。
それが赤い髪の裸体のエルクリッドと気がつき一瞬シェダは駆け寄りかけたが、待て、と何かを察したディオンが制止させ、直後にそのエルクリッドらしきものは服のような突起と皮膚を作りゆっくり立ち上がってシェダに目を向けた。
「エルクリッド……じゃないのか!?」
(取り込んだ動物を複製する植物があるが、それと同じようなものだろう)
仲間と同じ姿をしたエルクリッドもどきを前にシェダは動じながらもカードを抜きディオンを召喚する。
それに対してエルクリッドもどきはにこっと微笑み無邪気な表情を見せるとゆっくり近づき、刹那、何か気づくディオンが魔槍で首を跳ね飛ばす。
「おいディオン! いきなりそんな……」
「攻撃態勢に入られて、攻撃しないわけにはいかない」
冷静なディオンの指摘を受けてシェダが膝をつくエルクリッドもどきを見ると、その両手の爪は恐ろしく鋭く伸びていた。
また、首を跳ね飛ばされたにも関わらず血は噴き出ず、床に落ちた頭も引き続き微笑み、身体の方も次の瞬間には新しい頭を生やして何事もなかったように同じ微笑みを浮かべる。
仲間と同じ姿の相手、不死身の相手、精神的に負担のかかる相手に戦慄しつつもシェダは覚悟を決め、それを受けたディオンが魔槍に黒い雷を纏いエルクリッドもどきを刺し貫き、さらに縦一文字に切り裂き傷口から雷撃が広がり身体を焼き焦がす。
それでようやくエルクリッドもどきの身体は痙攣を経て活動を止め、先に飛ばされていた頭もろとも赤い液体となってどろりと溶け、そのまま床を侵食する根の一部となる。
刹那、シェダの背後に別の触手がいつの間にか生えて同じようにエルクリッドもどきを産み出してるのにディオンが気づき、咄嗟に助けに入ろうとするも床から生える腕が足を掴み拘束し、それにシェダも気づいて振り返るも微笑みながらエルクリッドもどきが迫る姿が映る。
(間に合わねぇ……!)
気づくのが遅れたことや距離が近すぎた事でシェダはカードを使えないと判断し覚悟を決めて目を瞑るも、刹那、頭上を飛び越えた何かがエルクリッドもどきを踏みつけ身体を引き裂く。
ディオンが足を掴む腕を魔槍で切り裂きシェダの隣についてから共に前に目を向け、助けたのが白い毛並みに金の円環を背負う魔物チャーチグリムとわかり、そしてそれが見覚えのある姿と思い振り返った。
「あんたは……シリウス」
静かに歩き姿を見せたのはエルフのリスナー・シリウスであった。彼のアセスであるダンがエルクリッドもどきをバラバラにして撃破するも、姪と同じ姿の相手の痛々しい姿にはくるものがあるのか静かに手を強く握りしめている。
「ごめんなさい、俺達あいつを……」
「謝る必要はない、傍にいてやれなかった私の責任もある……急ごう」
謝罪に対してシリウスは冷淡気味に、しかし逸る思いを抑えてるのをシェダは感じて頷き、共に奥へ向かって走り出す。
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