仲間の為に
エレメ島に打ち込まれた白く美しい転移標の楔に施された青の宝玉が静かに明滅し、閃光と共にノヴァ達が到着し破壊されたネビュラの施設の入口と死に絶えた魔物達の姿とを捉え目を見開く。
「かなり派手にやってますね……流石というべきでしょうが」
クロスとバエル。二人のリスナーの実力はわかっていたつもりでもこうしてその痕跡を目の当たりにすると戦慄するしかなく、リオの言葉はより重くなる。
だがいつまでもそうはしてられないとノヴァは大きく息を吐いてから自分の両頬をパンッと叩いて気を引き締め、それを見たシェダ達も臨戦態勢となり施設へと向かっていく。
「エルクさん……無事ですよね?」
「生命を奪われる事は少なくともないと考えます。あとは……」
ノヴァに冷静な言葉でタラゼドが答えかけたその時、足下が盛り上がるのを察しすぐにノヴァを抱え後ろへ跳び、シェダとリオも左右へ跳び地面を割って現れる大シャコ・デウを捉え、施設の方からドラゴニュート・ダオレンを伴うヤーロンが姿を現し色眼鏡の位置を直す。
「これが最後の仕事と思うと侘しさもアルネ。でも、面倒な相手をさせられるよりは楽ネ」
「楽とか思ってるんじゃねぇ! ノヴァ達は先に、俺がここでこいつを倒す! デュオサモン、ディオン、ヤサカ!」
シェダが魔人ディオンと鬼兵ヤサカを同時召喚し、ディオンはヤーロンの方へ、ヤサカはデウに向かって行きそのまま戦闘へ。すぐに彼の意を汲んでノヴァ達三人は避けるように施設へと走るも、すぐさまヤーロンがカードを引き抜きシェダも即座に対応する。
「スペル発動リスナーバインドね」
「スペル発動バインドアウト!」
一瞬現れる黒い鎖が瞬時に砕け散り、刹那にデウの身体にヤサカが攻撃を当て、ヤーロンを守るダオレンがディオンと鍔迫り合う。施設内へノヴァ達が入ったのをシェダは確認し、彼を通してディオンとヤサカにも伝わるとそのままさらに武器で押し込み、しかしダオレンとデウも踏み留まり押し返して見せた。
毒の大剣操るドラゴニュートのダオレンと、堅牢強固な甲殻で覆われた大シャコのデウの二体を倒すのは少し難しいが、倒せない相手ではないのはシェダ自身がよくわかっている。
問題はヤーロンで殺し屋であり自分を直接狙う事や、リスナーバインドのような密造カードを使う事が唯一の懸念点。無論それらへの対抗策も練ってここに来てはいるが、施設内に入ってからも戦いがあるとなればと想定せねばならない。
(短期決戦で一気にやるか……? だが……)
(迷うなシェダ、仕掛けるならば一気にやれ。でなければやられるぞ)
わかっていると心に語りかけてくるディオンに返しつつ、無言で視線を向けるヤサカにも頷いてシェダは応えて目の前のヤーロンに集中する。
幸い彼が戦いを放棄しノヴァ達を追う素振りがない事はシェダにとっては好都合。そう思っていると、不意にヤーロンがシェダへある事を問いかけてきた。
「ところで……トリスタンと最後に戦ったのは誰かネ?」
「俺と、エルクリッドが」
そうか、とヤーロンは顎に手を当てながら何かを思案し、やがてため息をついて手を下ろすと共にダオレンとデウが彼の前に並び立ち、合わせるようにディオンとヤサカもシェダの前に移動し構えを取る。
「トリスタン、強かったかネ?」
「……あぁ、人殺しで手段も選ばねぇとこはあったし気に入らねぇが、強い奴だったのは間違いねぇよ」
同業者として思う事があるのか、そうではないのかはわからないが、シェダは幾度と相対し最後には自ら散ったトリスタンの事をヤーロンへ素直に話す。残忍非道ではあるが彼には彼なりの誇りが確かにあり、それは認めねばならない事はシェダは感じていたから。
気を緩めずとも答えてくれた事へヤーロンは感謝するアルとまずは礼を述べると、静かにカードを引き抜きながら自身の思いを語る。
「トリスタンはワタシが知る中で一番強い殺し屋のリスナーだったネ。そんな奴が長期契約結んだネビュラがどんな奴か興味あったのもアルが……今は、ワタシにとって強いと思えた奴を倒した相手を殺したいと思ってるネ」
「落とし前、みたいなもんか」
「そんなんじゃないヨ。ワタシらの世界は殺るか殺られるか、無様に死ぬかどうかだけ……そんな中で、トリスタンは最後まで誇り高く死んでいった、それが話を聞いてわかったアルネ」
色眼鏡の下のヤーロンの目つきが鋭くなり、滾る魔力の高まりが向かい風となってシェダを襲う。殺意、ではない純粋な闘志にも似たそれにはシェダも押し負けずに同じように魔力滾らせ風を呼び、ぶつけ合わせて応じてみせた。
「リスナーとして、トリスタンの殺り方でお前さんを殺る。それでちょっとはあいつの供養になる、そう思っただけネ……!」
「そうかよ。なら尚更負けられねぇよ、俺だって目標もあれば助けたい仲間もいるからな!」
最大限滾る魔力が暴風となり、ぶつかり合って弾け火蓋を切り戦いが始まる。双方のアセスが真正面から攻撃へ向かい、リスナーもまたカードを魔力を込めた。
仲間の為に、ただそれのぶつかり合いだと感じながら。
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