その場所へ
割れた空が完全に消え去り、ドマイアの街の魔獣も駆逐し終えた時にシェダとリオはエルクリッドが拐われた事を知り、それを伝えたノヴァとタラゼドもまた急ぎ向かおうとルナールから預かったカードを手渡す。
「これを使えばエルクリッドがいる所に……って、ポイントリープの為の楔はもう打ってあるんすか?」
逸る気持ちはあるがシェダは冷静にカードを使う前の確認を行い、タラゼドがちらりとクレスへ目を向けると腕を組んだまま目を閉じる彼女は何も言わず、そこから察したタラゼドはまだのようですと答え、シェダは思わず舌打ちし拳と掌を打ち合わせる。
「くそっ、すぐにでも行かなきゃならねぇのに……!」
「お気持ちはわかります。でもだからこそ準備無しで行くわけには行きません」
「そうだけど……!」
落ち着かせようとするタラゼドに対し気持ちが抑えきれないシェダであったが、ひゅっとクレスが投げてきたカードが額にあたり、落ちたそれをノヴァが手に取るとそれがコーリングという遠くの相手と会話ができるスペルであり、既に発動されているのに気がつく。
「えと……もしもし?」
「その声は……ノヴァか。タラゼドも近くにいるな?」
「その声……クロスさんですか!?」
カードに向かって声をかけると返ってきたのは十二星召が一人にしてエルクリッドとシェダの師であるクロスの声だった。思わず大声を出してしまったノヴァを見兼ねてタラゼドがコーリングのカードをひょいと取り上げ、代わりましたと一声掛けて改めて話を始めた。
「今楔を打ち込んだ、エルクリッドの事もクレスから聞いたが……」
「申し訳ありません、わたくしの力が足りなかったばかりに……」
気にするな、とクロスは沈着冷静に返しながら隣にいる誰かの方へ声をかけ、それからやや早口気味に現在地点の事やこれからの動きについて話す。
「今いるのは火の国サラマンカの南西にあるエレメ島だ。先に乗り込んで暴れておくから準備ができ次第すぐに来い、俺達との合流は無理にしなくていい」
「わかりました、あなたも気をつけてください」
「わかっている。お前達も気を引き締めて来い、じゃあな」
誰かと共にいる様子のクロスが会話を終えるとコーリングのカードも消え、タラゼドも深呼吸をしつつノヴァ達と顔を見合わせる。
皆思いは同じ、エルクリッドを助け出すこと、ネビュラを止めること、全てを終わらせる為に。
そんな一同へクレスが踵を返して意思を示すとノヴァが声をかけるよりも前に彼女が口を開く。
「お前達で決着をつけろ、それができなければ私達が出るだけの事だ」
「一緒に行ってくれないのですか?」
「お前は馬鹿か?」
呆れるようにノヴァにそう言ったクレスは振り返りつつ剣を抜き、その切っ先を向けながら言い放つ。
「自分達で守りたいものを己の手で守れなくて何になる、少なくとも今エレメ島に乗り込んだ二人はそのつもりでいる。お前らも仲間を思うなら私の力などアテにするな」
苛烈な言葉の中に垣間見えた思いがノヴァの心を打つ。クレスの言うように自分の大戦なものを守れなくて何になるとはその通りだと。
そして客観的に見れば十二星召達が離れた時に神獣がまた動き出したり、ネビュラのさらなる一手などもあり得る。四大国も魔獣被害のそれに追われるとなると、頼りにはならない。
ふと、リオはクレスの言葉に出た二人、という言葉を口にし、あぁと答えながらクレスは剣を引き踵を返しそのまま去りながら語るは、エタリラにおいて最強の名を得た二人の存在だ。
「一人は全てを制し神に会い役目を果たした者、もう一人は、今尚強さを求め研鑽し続ける者……その二人がいる限り、この世界は護られ続ける。だがそいつらに頼りすぎるのは愚かしい事だ」
立ち去るクレスへノヴァが一礼しながら彼女が語る二人を思い浮かべた。一人はコーリングのカードを通して話したクロス、もう一人の方は、該当するのはただ一人とすぐに浮かぶ。
ーー
陸から離れ遥か青い海の彼方にその島はある。最果ての島とも呼ばれるエレメ島、そこにあるのは平らで砂色の岩陸地帯のみで動植物は何一つ存在しない不毛の島だ。
立地的にも何の価値もないとされたそこに今、二人のリスナーがゆっくりと進む。そしてあるはずのないものを前に足を止めて見上げ、静かに口を開く。
「これは……城、にしては大雑把すぎるな。どう攻めるか」
「増改築を繰り返したといったところか。まぁいい、さっさと壊せばいいだけだ」
歪で色も素材も異なる建材が粗雑に混ざり合い、形を成すそれは城にも見えるほどの巨大な建造物。クロス・セラフィが慎重な判断をしようとする隣で、もう一人のリスナー・バエルは一人前へ進み呼びかけにも応じずカードを引き抜く。
「スペル発動、アセスフォース」
「待てバエル!」
制止も聞かずにバエルがアセスフォースのスペルを発動し、カードより放たれる巨大火球が赤い軌跡を残し放たれる。門に命中すると共に爆発炎上し、その衝撃が天地を揺らし風を巻き起こすもバエルは仮面の下の目を細め、破壊されながらも原型を留める門を見て硬いなと静かに漏らす。
「お前なぁ……」
「どの道奴らには気づかれるなら、こそこそしないで前進制圧していけばいい。少なくとも俺はそうしてきた、今までもこれからも……お前とは違う道で答えを出す、だから来た」
「バエルお前……そうだな」
我が道を行く好敵手に呆れつつも、彼に何かを感じクロスも口元に笑みを浮かべカードを引き抜く。
と、バエルのカードによる音を聞いて来たのか建造物の壁が開いて何匹もの魔物が現れ大群となって迫り、二人のリスナーは臆することなく前へと走り出す。
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