君と僕の〇日間

@f4sk0oon

第1話 美少女

「―――綺麗。」

 今にも崩れて消えてしまいそうな色白い肌。毛先まで手入れの行き届いた綺麗な黒髪。病人と思えないようなしっかりとした肉付き。彼女との最初の出会いで抱いた第一印象はその一言だった。



「ちゃんとみんな明日までに色紙書くようになー」

「何て書くー?」

「無難なこと書こうぜー」

 担任の掛け声でそんな会話が生徒の間で話されている。僕は田舎の高校に通う高校2年生 須藤茉祐(まひろ)。僕のクラスには不登校の女生徒がいる。その生徒はに罹っているらしく登校するのも難しく、まだ登校したことが入学式以降一度もないらしい。担任がそう説明していた。僕自身、名簿では何度か見たことがあったが実際に彼女自身を見たことがなく、担任に説明されるまでもなくなんとなく知っていた。そんな彼女のことを思い、クラスで色紙を作成することになった。

「はいどーぞ」

「は?」

「は?って何?」

「何これ?」

「何これって、例の不登校にあげる色紙。あんたが最後だから書いたら届けてってせんせーが言ってた」

 僕に回ってくるまでに僕以外のクラス全員が書き終わっていたらしい。しかも最後に書いた生徒がクラスを代表して病院まで色紙を届けてくれという担任からの言葉である。はっきり言って面倒くさい。僕にもやることがあるのに、そう考えている間に色紙は書き終わってしまった。翌日、土曜日という大切な休暇を使い、電車で1時間という離れた場所にある病院まで行くことにした。

(色紙をさっさと渡してさっさと帰ろう)

 そんなことを考えていたら1時間などあっという間だったらしく、病院に着いてしまった。担任から事前に聞いていた女生徒の名前を受付の看護師に聞き、病室を教えてもらった。

(どんな感じの人なのだろうか?めちゃくちゃ美人だったりして…)

 そんなことを考えていたら病室に着いた。

【4008号室 一ノ瀬怜泉】

 コンッ コンッ

「失礼します。城西高校2年B組の…」

 病室を開けて目に飛び込んできた光景。点滴のしずくの音が聞こえそうなくらい静かで落ち着いた雰囲気の部屋。部屋の隅々まで掃除され、整頓されたシーツ。そんなシーツの上で一人厚めの本を読む美少女がいた。病人と思えないほど健康的な体。色白とした肌。毛先まで手入れが行き届いている黒髪。美少女という言葉が彼女にぴったりなほどの外見。儚くもたしかにそこに存在している彼女の姿に僕は見入ってしまっていた。僕はここに来た目的も忘れ、彼女を見ていた。あまりの美しさに言葉が零れる。

「―――綺麗。」

 しばらくの沈黙のあと、彼女が口を開いた。

「…あの、どちら様でしょうか?」

 彼女の言葉を聞き、僕は我に返った。

「あ、あぁすみません。あなたと同じクラスの須藤といいます。クラスで一ノ瀬さんを元気づけようって色紙を作成したので、それを届けに来ました。」

 一瞬目をパチパチとさせたあと

「なるほど、そうでしたか。それは失礼しました。わざわざ遠くの病院まで、ありがとうございます。何もない場所ですが、どうぞ。」

 そういうと彼女はベッドのすぐ近くにあるイスに腰かけるよう案内をした。

 イスに座るやいなや

「ご足労いただきありがとうございます。遠かったでしょう。私のことは気にせず、気を休めてください。」

(なんて気遣いのできる美少女なんだ…!)

と感心して、彼女の言う通り楽な姿勢になった。

「わぁ…なんて素敵な色紙!こんなにも素敵な色紙をありがとうございます。そういえば、何故貴方がこんなにも遠い病院までこの色紙を届けにきてくださったのですか?」

 彼女の質問に答えようと思考を巡らせる。

(これは遠回しになんでお前なんかが届けに来たんだよってことか?しかしたった一度、しかも入学式だけ登校したやつにクラス全員の名前と顔を覚えるなんてできるのか?最初の感じからしてこの人ならもっといい言い回しをするだろ。しかし…)

なんて考えている間に

「あのー、大丈夫ですか?ここに来るまでに疲弊してしまったのでしょうか?」

 と僕を気遣ってか声をかけてくれた。

「へ!?だ、大丈夫ですよ!」

「あら、そうでしたか。」

 これ以上彼女の質問に答えないわけにはいかないので、担任に言われたことをそのまま彼女に伝えた。

「あ~、そういうことだったんですね!てっきり、こういうのは担任の先生が届けてくれるものだと思ってて…。そういえば、自己紹介がまだでしたね。私は一ノ瀬怜泉(れい)と申します。以後お見知りおきを。」

「ぼ、僕は須藤茉祐といいます!」

(彼女の自己紹介につられて焦って自己紹介してしまった。恥ずかしい。穴があったら入りたい…泣)

「ふふっ、そんなに焦って自己紹介しなくても大丈夫ですよ。時間はたっぷりとあるのでゆっくりお話ししましょ。」

(彼女のやさしさが痛い…。傷に塩を塗られてる気分だ…)

 僕はハッと思いついたように質問をした。

「そういえば、一ノ瀬さんは何の病気で入院しているんですか?」

「一ノ瀬さんなんて、そんなかしこまらずに怜泉って呼んでください笑」

「え、じゃ、じゃあ怜泉さん…は何の病気なんですか?」

「私は…」

 と何の病気か教えてくれようとした矢先

 コンッコンッ

「一ノ瀬さ~ん、入りますね~」

 という声が聞こえてきたあと、看護師が入ってきた。

「あ~、須藤君?だっけ。今日はここまでね。このあと私検査があるの。ごめんね~。また機会があったら来て!」

 そういうと一ノ瀬は病室をあとにした。

 僕は病室を出たあとすぐに帰りの電車には乗らず、少し街を探索してから帰路に着いた。帰りの電車の中で彼女の姿を頭の中で反芻していた。今までテレビなどで見たどんな女優やアイドルよりも美しく、神秘的だった。もしもう一度会うことができるなら今度はもっと色々な話をしたい、そう思いながら電車の中で眠りにつくのだった。

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