第17話
颯がシャワーからあがると、居間のソファに琴子が寝ていた。ソファの肘置きに覆いかぶさるような形ですやすやと無謀にに寝ている琴子を見て、颯は一瞬目をそらすが、また目を戻してしまう。
近づきたいけれど近づけない、自分の心臓が腕の先まで震わするくらいに打っているのがわかる。
そっと近づきその寝顔をみる。
睫毛が時々美しく揺れ、ふっくらとした唇から息が漏れる。
ふと腕を見ると傷がついていた。
(もしかして……)
疲れ果てている琴子にそっとタオルケットをかけ、颯は夕食を作り始める。
豚汁のいいにおいが香り、白身魚のソテーが香ばしく焼きあがる。
「あ、颯さん……ごめんなさい、私……」
琴子がゆっくりとソファに座る。
(推しが……料理してくれている……尊い……)
疲れた琴子の身体が推しの力で癒されていった。
「大丈夫?腕に傷がついてるよ」
颯はそっと琴子の横に座ると、
「ほら、見せて」
優しく声をかけた。
琴子は推しだった人が今、自分の隣に座っていることに対して自分がここまで揺さぶられているのか、それとも颯自身に対する感情なのかがわからなくなっていた。
でもただ一つ、思うのは―――
(もう、誰とも深く関わらないようにしなければ。)
颯は慣れた手つきで傷口を消毒し、絆創膏をはる。
「たぶん、傷にはならないよ、大丈夫。どんな奴だった?」
ぎゅっと琴子の手を握る。
まるで琴子を守るかのように手を優しく包む。
琴子は下を向き、重たい口を開く。
あの翡翠の瞳————口に出すのも恐ろしい感じがした。
「朧だった。刀と鬼になって……羅生門えい……って言ってたかな。銀髪で翡翠のような瞳の男性が出てきた。そういえば禍術も人が扱ってるんだなって、初めて実感したというか……」
それを聞いて颯の手に力がこもる。
「銀髪の男だったのか?間違いはない?」
颯の緊張感が伝わってくるようだった。
「え?あ、うん……颯も戦ったことあるの?」
「いや……でも、知っている男かもしれない……」
その日はやけに月が明るく、清園寺家を照らしていた。
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