〈発疹は楽しい くしゃみも楽しいよ 通販ばかりの夜のさなかに〉
この短歌を拝見した際に、なんて底抜けな明るさなのかと驚かされました。”発疹”も”くしゃみ”も”通販ばかりの夜”も陰を感じさせるフレーズ。にもかかわらず、それを”楽しい”と言ってのける。
この連作には諦観に、ありったけの希望をふりかけたような明るさが内包されています。そして私は、この作者のそんな見方や考え方に作品を通して心を惹かれました。
〈街路ゆくどの雪風もぐらぐらでいつか笑って死ぬ時の音〉
”雪風”も”ぐらぐら”もネガティブを連想させ(”死”なんて表現はまさにその象徴ですが)、それすらも”いつか笑って”なんて希望を作品の中に塗す。
〈OK、余裕。どれだけ寒い壁際に逆立ちしても春のキッチン〉
まるで春の色を宿しながら、寒かろうが逆立ちだろうが、余裕と放ちながらキッチンに立つ。もちろんそれらは、希望の言葉だけでは感じ難い。陰やネガティブの感情がそこに確かにあるからこそ、それらを排除するのではなく、ある種仕方のないものとして、希望を提示する。それも底抜けの明るさで。
〈二枚重ねたチーズが伸びる新しい街の光をとりこみながら〉
この眩さは読み手の勇気にもなり得るような力強さがあると私は思います。どうしようもない世界も、この連作のような在り方で生き進めていきたい。そんな風に感じさせる素晴らしい作品たちでした。