またね、と言えた日
朝凪るか
プロローグ
段ボールを開けると、奥のほうから色あせた封筒が出てきた。いつからあったのかは覚えていない。引っ越しのたびにただ移動させてきただけで、きちんと中身を確かめたことはなかった。
埃を払い、恐る恐る指をかける。中から出てきたのは、折り目のついた写真だった。
写真のなかには、制服姿の私と隣で笑う彼女が写っていた。
目を細めて、少し照れくさそうに笑う横顔。十年以上経った今でも、瞬時に名前が浮かんだ。
美咲。
胸の奥がきゅっと縮む。ずっと忘れていたはずの痛みが、ひどく鮮明によみがえる。
彼女が今どこで、どんなふうに生きているのか、私は知らない。卒業の日以来、一度も会っていない。
それでも――私のなかであの時間だけは、今も色あせていなかった。
光を反射する写真を、私はもう一度見つめた。
あまりに拙くて、幼い自分が可笑しかった。それでも隣にいる彼女の眩しさは、本物で。
思わず笑ってしまった。
――あの頃、私は確かに彼女を好きだった。
それだけは、今でも否定できない。
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