風邪ひき天気雨

猫小路葵

お題:葵は「見舞い」「天気雨」「苦学生」に関わる、「一人称視点」のSSを5ツイート以内で書きなさい。

 風邪で寝込んだ俺に、耕平から電話があった。

 これから見舞いにきてくれるという。

 うつるからいいよと断る俺に、耕平は『何か食べたいものある?』と聞いた。

『ついでにご飯も作ってあげるよ』


 そうして、俺のワンルームに耕平はやってきた。

 ドアを開けに立った俺を、耕平は挨拶もそこそこに、早くベッドに戻るようにと急かした。

「慎ちゃんはとにかくゆっくり寝てること。風邪は寝るのが一番なんだから」


 耕平の手には買い物袋が提げられている。

 耕平は床に袋を置くと、買ってきた物をせっせと冷蔵庫に移した。

 冷蔵庫を開けた瞬間、「何も入ってない! 苦学生か!」と耕平は驚いていた。

「慎ちゃん、おかゆ食べれそ?」

 俺が頷くと、耕平は「よし」と笑った。


 狭い部屋だから、ベッドで寝ている俺からも耕平の様子はよく見えた。

 耕平は米びつから少しだけ米をボウルに取り、シャカシャカと研いだ。

 米を洗い、水を流し、また水を入れ……

 その甲斐甲斐しい働きぶりをぼんやり眺めていると、不意に背後で雨音がした。

 窓を見ると、外は明るく日が射している。

 天気雨だ。


「狐の嫁入りだね」


 米を研ぐ手を止めて、耕平も外を見ていた。

 そう言う耕平のTシャツには、大きく「FOXY」とプリントされていた。


「なあ耕平」

「ん?」

「お前も――」


 嫁にこないか?


 と、思わず口にしかけた笑えない台詞は、やはり言わないことにした。

 耕平は「俺も……何?」と続きを待ったが、俺は「ああ……なんだっけ」と誤魔化した。

 耕平は、俺が熱でぼうっとしてると思ったのだろう。

 にこっと一度俺に笑って、再び流し台に向かった。


 花嫁行列の雨は降り続く。

 雨音を伴奏にして、耕平が木村カエラの「Butterflyバタフライ」を口ずさんだ。


 

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