ぼっち、ダンジョンへいく~TSする、みんなと仲良くなる、みんなの情緒破壊する~
朱鷺野理桜
番外編
【1000フォロワー記念】ハロウィンパーティー
※このエピソードは番外編です。本編は次話からです
「ハロウィンやねー」
「そ、そうだな」
「ハロゲン?」
「ハロウィンや、ハロウィン」
朝食の席で、巴がそんなことをこぼした。
時は10月も末。ハロウィンがやって来ようとしていた。
突然だなって話だが、やって来るんだからしょうがない。
「この世界でもハロウィンってやるんだね」
「西洋の方のお盆なんやろ? そらちゃんとやらなあかんやろー」
「あってるんだけどいまいち頷き難い表現だなぁ!」
巴の雑な表現にトレボーが微妙な顔をする。
実際、ハロウィンの原型となったサウィン祭はケルトにおいて祖先供養の面もあった。
そういう意味で、日本の祖先供養であるお盆に近しいとみるのは自然ではあるが……。
ちなみにサウィンは祖先に収穫物を捧げる収穫祭でもあり。
ケルトにおける新年は11月1日なので、新年祭でもある。
盆と正月がいっぺんに来たような騒ぎなのは自然なわけだ。
「まーま、トミヤの町は冒険者の町や。みんなお祭り騒ぎは大好きやろ? ハロウィンもやっとるよ。うちらもやろや」
「まぁ、うん、そうだね……せっかくの行事だからね……」
「さ、さんせー」
そういうことになった。
つまらない平日がサクッと流れ、金曜日がやって来た。
いつも通りの日々だが、同時にどこか町も浮ついている。
そして、五連星の昴はいつもなら土曜日朝に集合をするのだが。
今日に限ってはハロウィンパーティーと言うことで、金曜夜集合と通達されていた。
いつも通りに那由他が気合で埼玉からここまで飛んでくる。
同じく、光は電車で仙台の方からこちらへと。
最近は懐具合に余裕が出来たので、ハルの送迎ではなくタクシーで移動していた。
「ハーローゲーン! ここは代々木……常夏の国……!」
「なんのなんですって?」
「トレボーさん、イベントごとだとちょっとテンションおかしいのです」
シェアハウスを訪れた2人を出迎えるのは、タキシード姿のトレボー。
いったいどこで用立てて来たのか、コスプレ用のピラピラした安っぽいものではなかった。
本式の、生地もしっかりとした、普通に正装として使えるタキシードだ。
「僕は何事も本気なタイプだからね。タキシードを自分で縫ったんだ。最強のハロウィンを実行するぜ」
「なんですか最強のハロウィンって。意味分かんないこと言わないでくださいよ」
「はえー? ハロウィンの仮装なのです? 似合ってるのですよ!」
「ちなみにこのグラスに入ってるのはトマトジュースだぜ……」
タキシードにマント、そして手には赤い液体の入ったワイングラス。
そのあまりにもテンプレートなスタイルは、一目見ればすぐにも分かった。
「オペラ座の怪人ですね」
「怪盗ルパンなのです!」
「吸血鬼だよ!」
なぜか華麗に外す2人にトレボーがのけ反りながらツッコミ。
たしかにその2つもそれっぽいっちゃそれっぽいけども。
「ふふふ、わざとです。なかなかお似合いですよ、トレボー」
「ふふふふー! かっこいいのですよう、トレボーさん!」
「ああ、うん、ありがとう……最近どうにも僕の方が振り回されてる気がするな……」
頭をガリガリと掻いて、トレボーが首を傾げる。
自分はからかう側の人間であって、からかわれる側ではないはずなのにと。
「まぁ、気を取り直して……今日はハロウィンだからね! みんなでハロウィンパーティーするぜ! ハルちゃんも張り切ってるんだ!」
「ほほう、そうだったのですか。私たち何の準備もしていないんですが」
「私もなのです」
「心配はいらないぜ。僕がそのあたりはバッチリ準備済みだ! ハルちゃんの分のハロウィン衣装も用意してあるぜ! とくと御覧じろ!」
などとトレボーが自信満々に言うので、那由他と光は顔を見合わせる。
ハルのハロウィン衣装……そんなの見たいに決まっているではないか!
「お先なのです!」
「あ、ずるい!」
光がぴょーんと家の中へと飛び込み、那由他が一歩遅れて続く。
そして、いつものようにリビングへと飛び込む。
「し、し、しっかり、しろ! と、巴ちゃん! 巴ちゃん! し、しっかりしろぉ!」
そこには必死の形相で巴の胸をぐいぐい押しているハルの姿があった。
その異様な光景に那由他と光が顔を見合わせ、続いて入って来たトレボーも首を傾げる。
巴にはさきほどハロウィン衣装を渡して着替えるように言ったのだが。
なぜか巴は襦袢姿でソファーに横たわっているではないか。
「やぁやぁ、ハルちゃん。ミイラ男コス、似合ってるぜ。すべすべおなかがセクシーだ……巴ちゃんはどうしたんだい? キョンシー衣装用意しといたのに」
「と、トレ、トレボー! と、とも、巴ちゃん、い、息してない!」
「なにぃ!?」
ハルが泣きそうな顔で叫び、トレボーが慌てて駆け寄り。
そして、巴の首で脈を取り、巴のまぶたを指で押し開ける。
そこにはなんの光もなく、脈は一切感じ取れることはなく。
トレボーの種々の視点から見ても。
巴の肉体に生命の息吹が宿っていないことは確かだった。
坂額巴、享年不明。
若い命をトミヤの町に散らす……。
「成仏してクレメンス……」
トレボーがあきらめ気味に手を合わせて冥福を祈り。
そして、直後に上方から頭を引っ叩かれた。
「どあほう! 人のこと勝手に殺すな! 普通におもんないねん!」
「巴ちゃん!? いや、えっ、えっ!?」
トレボーが自分の上、空中に
そして、ソファーに横たわっている血色の悪い巴を見る。
空中にふよふよと浮かんでいる巴は透けて見えていた……。
「うわぁあああ! チュパカブラだぁぁぁあ――――!」
「チュパカブラ!?」
トレボーが異常な光景に叫び、巴は巴で謎の形容をされて叫ぶ。
「うちがほんまもんのハロウィンコスプレを見せたろう思うて、幽体離脱しただけや! そんな驚かんでもええやん!」
「驚くわ! なに普通に死んでんだ!」
「うちくらい強い剣士になると、幽体離脱くらいはサクッとできるんよ」
「そんなばかな……」
トレボーが唖然とし、いやもしかするとこの世界では普通……? と思い直す。
そこで那由他の方へと目線をやると、那由他が勢いよく首を振った。
巴みたいな剣士っぽいなんかといっしょにしないでくれよと。
「ええやろ~? おばけやよ~?」
「僕が用意したキョンシーコスプレは?」
「着方わからんかったわ」
「着方わかんなくて幽体離脱で代用するやついる???」
あまりにも無茶苦茶な話にトレボーが困惑。
ハルも勢いよく頷いていたし、那由他も深く頷いていた。
「まぁまぁ、うちのことはええんよ。なゆちゃんと光ちゃんもはよ着替えてきぃ?」
「え、ええ、はい……トレボー、私の衣装は?」
「ああ、うん……今持ってくるぜ……」
ハロウィンのコスプレが人を驚かせることが目的ならば。
巴のそれはこれ以上ないほどにハロウィンに相応しいものだったろう。
完全にコスプレの範疇を逸脱していることを除けばだが……。
トレボーが那由他と光に用意しておいた衣装を渡した。
そして、2人が自分の部屋で着替えて来たリビングに集合。
「お待たせしました。どうでしょう、似合ってますか?」
そう言って現れた那由他が纏っているのは、いわゆるゴスロリドレスだった。
真っ黒い衣装の中に浮かぶ那由他の真っ白い肌。
その赤い瞳がワンポイントとなって危うい美しさがある。
たっぷりとフリルがあしらわれたドレスは縫製も確かなもの。
那由他の体型にぴったりと合わせて作られ、コスプレめいた安っぽさはまったく無い。
ベール付きのヘッドドレスも着用すると、そこだけ空気が古めかしく感じられるほど。
衣装と同時に用意されていた付け牙も装着すれば、ゴシックドレスの吸血鬼の出来上がりだ。
「か、か、かっこいい……か、かわいい、もか? す、すごく、似合ってるぞ、なゆなゆ!」
「ふふ、照れてしまいますね……着心地もいいですし、気に入りました」
ゴテゴテして動きにくそうに見えるが、実際はそんなことはない。
那由他は衣装の余りの出来栄えに驚いていた。
「トレボー、高かったでしょう? 代金は払いませんが、お礼を言わせてください」
「せこいな……いいよ。僕が自分で縫ったからね」
「これもトレボーの自作なんですか?」
「なにを隠そう、僕は裁縫の天才でね……」
「私の体型を把握してるの気持ち悪いですね……」
「それはなんかごめん」
一目見れば体型などお見通しなトレボーが若干申し訳なさそうにする。
「着れたのですよ! どうですか!」
そこでバタバタと光がやって来た。
可愛らしいスカートにブラウスと言う点だけ見れば、どこぞの学校の制服のようだが。
その上に膝まである長さのローブを纏い、頭には高く折れ曲がったとんがり帽子、手には箒。
それはまったくテンプレートな、同時にどこか新しい魔女の姿で。
五連星の昴の魔法方面を一手に担う光にはピッタリの衣装だった。
「おお、似合ってるぜ、光ちゃん」
「か、かわ、かわいーな! 光ちゃん、か、かわいー!」
「えへへ、似合うでしょーか?」
被っていた帽子を外し、それを胸に抱きながらはにかむ光。
そのあまりに可愛らしい仕草に、思わずハルは光を抱きしめた。
「か、かわいーな!」
「えへへ、ハルおねーさんもかわいいのですよ! ミイラ男なのです!」
「へ、へへ、ちょ、ちょっと、恥ずかしいけどな……」
ハルのハロウィン衣装は光の言う通り、ミイラ男だ。
ボロボロに加工されたスカートに、同じくチューブトップ。
その上からたくさんの包帯を巻きつけた姿だった。
腕も足もお腹も露わで、露出度は随一。
トレボーが提案し、光が熱く推した衣装だった。
「ちょっと露出が激しいですね……ここは清楚な巫女服などいかがでしょう?」
「ハロウィンに巫女服はなんか違うだろ。そこはせめてシスターだね」
「なぜ……」
那由他の意見がにべもなく却下された。
普通にやむなしだった。
全員が衣装を着替え、リビングへと集合する。
そして、ハルが準備していたごちそうの並ぶダイニングへ。
テーブルの上にところ狭しと並ぶ種々様々のごちそう。
それはハロウィンらしく、どこかユーモラスな造形に整えられた料理たち。
卵の白身と海苔で作った眼を乗せられたハンバーガーはベーコンの舌をぺろりと出し。
かぼちゃを使ったカレーのごはんには海苔で幽霊の顔が描かれ。
ポットシチューには卵黄の塗り加減でうまく顔が描かれていた。
「おおー! おいしそうなのですよ!」
「いやぁ、今日は趣向が変わっていますが、美味しそうですね。これはたまりません」
「……はっ! うち、幽体離脱しとるから食べれへん……!」
「ばーか。早く戻りなよ」
「ふ、フヒヒ、み、みんな、す、座って、座って」
なんて、ハルがいつも通りの調子でみんなに着席を促す。
みんなは食べるのが待ちきれないと言った調子で着席。
が、その前に、ハルがパンパンと手を打って注目を促した。
「ふ、フヒヒ、そ、それで、実は、メ、メインディッシュをな、で、デリバリー、頼んであるんだ」
「へぇ? メインディッシュを? それはいったい?」
「ぶ、分厚い特製ステーキを、た、頼んだんだ! お、おねがいします!」
そうハルが声をかけると、ふわりと上から降り立つ小さな小さな影。
それはテーブルの上でその背に生えた翅を羽ばたかせて飛んでいた。
大きさはなんと手のひらの上に乗ってしまいそうなほどで。
薄緑の
その、まさに絵に描いたような妖精の出で立ちで。
金髪に紅い瞳をした彼女がくるりと空中で回った。
「はい、おまかせあれー! お招きいただきありがとう!」
その小さな妖精は、ミセス・アドベンチャラーその人だった。
「!?!?!?!?!?」
「は!?」
「えっ? えっ?」
手のひらサイズに縮んでるミセスとか言う意味不明なものをお出しされた面々が硬直する。
ハルはすでにお見せされていたので怯まないし、巴はそういうこともあるなと雑に受け止めている。
「どうかな、私のハロウィン衣装は!」
「衣装のレベル超えてるぜ!?」
「ど、どうやって小さくなったのです!?」
「マジモンの妖精みたいなんですが……ええ……」
「ふふふ、魔法だよ、魔法!」
手にした杖を軽く振って、いたずらっぽく笑うミセス。
杖のひとふりと同時、テーブルの中央に開けられていたスペースに大皿が現れる。
大きな皿に乗せられていた大きなクロッシュをミセスが勢いよく開けた。
「これは私からのプレゼントだよ!」
現れたもの。それはとんでもなく分厚い肉の塊。
1枚500グラムはあろうかという極厚ステーキがジュウジュウと音を立てていた。
それが人数分、つまりは5枚もそこに鎮座していたのだった。
「うわぁ! わぁ! でっっっけ!」
「すごいのです!」
「うわぁ、縦だか横だかわかりませんね!」
「す、すごぉ……」
「くわぁぁ……! うち、体に戻るわ! こんなん食べ逃したら泣くわ!」
そんな贅沢で豪快な料理にみんなが目を輝かせる。
金曜日の夜の贅沢に相応しい料理があって、気の合う仲間たちがいる。
そこにハロウィンと言うスパイスが加われば、楽しさは無限大だ。
「ハ、ハッピー、ハロウィン、だな。ふふふ、み、みんな、いーっぱい、食べろよ!」
そう、ハルが促して。
「いただきます! こんな分厚いステーキ食べ逃したら損ですからね!」
「マジでデカいなこの肉! ミセス、これなんの肉?」
「ふふふ、ハロウィンらしく、ドラゴンステーキだよ!」
「あっはっは! そりゃええねぇ! ほな、このシチューはドラゴンの卵やね!」
「楽しい楽しいハロウィンなのです! これなら毎月来てもいいくらいなのです!」
楽しい楽しいハロウィンパーティーが幕を開け。
にぎやかな夜が騒がしく、そして楽しく始まった。
「ところでミセス、これマジでなんの肉?」
「? ドラゴンステーキだけど?」
「……え? マジで言ってる? ドラゴン肉ってグラムウン万……」
「そうだね。1枚2000万円くらいかな」
「……味わって食べようぜ!」
そんな、肝の冷えるような情報もあったりしたが。
楽しいハロウィンのパーティーは盛り上がりに盛り上がった……。
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