性癖バトル
タノマヤ
性癖バトル
人類は進歩する。
大地にはびこり、大空を飛行して、大海の底まで闊歩する。
いずれは空の向こう側へすら駆けてゆくのだろう。
だがしかし、そうなってくるとエネルギー問題をどうするか。
地熱や風力といった自然の力は空の向こう側では使えない。なにせ地も風もないのだから。
高度に発達した人類は考えた。
難しいことをたくさん考えた。
えろい……偉い人たちが集まって、妄想……想像力を働かせまくった。
考えて考えて――え? いまドスケベ祭りって言った? あっ言ってない――考えた結果。
ついに見つけ出したのだ。
もっとも身近であり、とてもエネルギッシュなエネルギー。
人類に生来より備わっている力、その名は――精力。
そうして叡智たる人類は、幾多の屍(テクノブレイク)を越えて、ついに、精力をエネルギー化することに成功したのだった……!
ここはとある学園。
詳しくは言わないが、エネルギーを集めるために精力あふれる若者を集めた若者による若者のための学園なのである。
さすがに学園名までは言えないが、ここ性癖バトル学園ではその名のとおり、エネルギー収集が目的という大義名分のもと、自らの性癖をさらけ出し互いのリビドーをぶつけ合う
これはそんな性癖バトル学園に『な、なんてエロさなんだッ……』みたいな入学式イベントもとくになく、普通に義務教育的な感じで入学した普通のニーソ狂いのお話である。
なお彼はイラスト投稿サイトでニーソにタイツタグがついているとモヤモヤした気持ちになるし、毎日ニーソ、ニーハイ、オーバーニー、サイハイ、絶対領域、ストッキング、ガーターのタグで巡回を欠かさないし、ストッキングとパンティストッキングはまったくの別物なのに混合されがちだがストッキングタグに現れる神イラストを見逃すのも惜しく、しかたなくチェックするストレスのせいか若白髪が出てきた気がする程度には普通の青年なのである。
「――であるからしてぇ、ここ性癖バトル学園の敷地内では精力増強フィールド的なあれで妄想が具現化するんですねぇ、これから皆さんには具現化した性癖をぶつけ合って私たち教授のいる高みへと登ってきてほしいものですねぇ」
教壇に立っている教授がいつものねっとりとした言葉を吐いているかたわら、このおれ、自称ニーソ狂いは物思いにふけっていた。
というのも、性癖バトルで具現化する性癖が決まっていないからだ。
いやいや、自称ニーソ狂いなんだろ? ならニーソでも具現化しろよ。と思われるだろうが、ちょっと待ってくれ。
これ性癖展覧会じゃなくて性癖バトルだから。
たかが靴下でどうしろと? ってなるから。
おれだって入学前は性癖バトル!? なにそれおもしろそう! なんて思ったものだし、おれのニーソが火を吹くぜ……なんて妄想もした。
そして、意気揚々と学園の門をくぐった先には、自分の性癖を具現化させた変態たちが『己の性癖こそ至高である』と目を血走らせて群雄割拠していた。
え? ここに靴下握りしめて突っ込むの?
無理でしょ。
なんてことがあったので、おれは戦える性癖を、新たなるニーソを獲得せねばならないのだ……(ニーソは確定)
そういうわけで、おれは手元に具現化した30デニールのストッキング越しに授業風景を眺めながら、なにか手がかりはないかと入学してからのことを思い起こす。
いまもネチネチしゃべってる教授、初日に『わたしの性癖は
幼女のどこに惹かれるのか質問されると、『女性の生涯のうち幼女である期間はごくわずかなんですねぇ、その貴重な瞬間こそもっとも価値のあるものだと思うのですねぇ』などと供述していた。
デモンストレーションとして、生徒のひとりとロリコン教授が性癖バトルをしたときはもう驚きの連続だったな。
選ばれた生徒の性癖は
その脇フェチはここに来るまえ水泳をしていたとかで、泳ぐときに見える脇の下の筋肉がうつくしいと感じたとか熱く弁明していたのをいまでも覚えている。
それでいざ性癖バトルがはじまって、脇フェチが具現化した性癖は、クロールをするたびに脇の下を輝かせ、まるでジェットエンジンの奔流のように推進力を得ながら空中を泳ぐ女性だった。
『具現化された性癖は妄想の主が信じる魅力を戦闘力にする』
そう言っていたのはどの教授だったか。
つまりあれは水泳の妄想を戦闘力にした形……というわけか、水泳に魅せられたものの末路とも言う。
対するロリコンもロリコンの名に恥じぬ幼女を具現化していたのだが……
問題は、その幼女が立たされているのはジェットクロールで飛んでくるキラメキ☆脇女の目の前である。
幼女を盾にするつもりか、この鬼畜ロリコンがよぉ。と思いきや、ロリコンの考える幼女の魅力とは不可侵性、いわゆるイエスロリータノータッチというやつなのか。
突っ込んでくるイカれたお姉さんを、幼女はいともたやすくそのイカ腹で受けてみせた。
なんなら幼女であるはずなのに、母性すら感じさせる風格があった。
ポワポワした幼女のお腹に頭をこすり付けるお姉さん。事案かな? 事案だな。
結局、そのまま脇フェチとロリコン……教授は『やるな……』『お前もな……』みたいな雰囲気で意気投合していた。
あのー、つまりニーソを履いた幼女が脇でジェット飛行でふぁいなるあんさー?
しかしそうなると、おれが好きなのはニーソそのものであって、人間ではないので、うまく人間をイメージできるかどうか……
「おれの性癖どうすっかなぁ」
「おいニーソフェチ、おまえまだそんなこと言ってんのかよ」
「おう脇フェチ、おれはおまえみたいに人間が出てくるわけじゃねぇからな」
いつの間にか教授は授業を終えていて、ほかの生徒らはエネルギーをチャージするかリビドーをパージするかなんて話しながら講義室を後にしている。
そして今日も、特殊性癖同士仲良くしようぜ! なんて意味のわからん理由で脇フェチは絡んでくる。
おまえのような特殊性癖といっしょにしないでほしい。
「いっそのこと、ほかの教授らの性癖でも見てくれば? グレゴリウス・オパイスキー教授の『遺伝子に基づく本能と嗜好』は聞く価値あるぜ」
「ジークフリード・ケツゲッツ准教授の『三度の胸より尻が好き』は受講したことあるぞ」
「だれだよケツゲッツ」
「おまえケツゲッツさん知らねぇの!? あのオパイスキー教授に性癖バトル挑んだお尻研究会のケツゲッツさんだぞ!」
「無謀すぎんだろ、なにがおまえを駆り立てたケツゲッツ」
「いやぁ……名勝負だったぜ、巨乳美乳貧乳で三度の胸を構えたオパイスキーに
「……それでどうなったんだ?」
「貧乳のまな板が破れなかった」
「ケツゲッツ……てかおまえコスプレ系の講義とか受けてないの?」
「ニーソの魅力はふとももとかほざいててキレかけた」
「……そうか、まあなんだ、おれが性癖バトル付き合ってやるよ」
「……ありがとな、今日こそおまえの性癖を水着ニーソにしてやるよ」
「ふざけんな」
「すまん、やっぱり水着はいらねぇよな」
「いや水着はメインだろ」
「てめぇぶっ殺してやる!」
「「いくぜ性癖バトル!!」」
みたいな感じで、おれたちは今日も今日とて性癖をぶつけ合う。
もはや見慣れた飛び込み姿勢のお姉さんを具現化した、脇フェチ。
具現化されたニーソを握りしめた、おれ。
「……やっぱ無理だって」
「ああ! いいぞ! なんて僧帽筋なんだ……まるで折りたたまれた天使の翼! 広背筋! いつにも増して輝いて見える……おっおおぉぉ!! 大臀筋! ああっそんな……なんて魅力的なんだ……!!」
あの、勝手に盛り上がるのやめてもらっていい?
こっちは靴下握りしめた一般人ってこと忘れてない?
「なぁ聞いてる? おれのニーソじゃ戦えないからどうしようって話したの覚えてる?」
「take your marks――」
だめだ聞いてねぇ。
まぁ嘆いてもしかたない。
おれだって何度か脇フェチとは性癖バトルはしてるんだ。
――慣れた動作で真横に全力ダイブ。
すると背後を突風が通りすぎる。
初見のときは見て避けようとしてジェットクロールに巻き込まれたからな。対策済みだ。
キラメキ☆脇女が通りすぎたこの瞬間を逃さず、おれは全力で脇フェチへと駆け出した。
うだうだ考えてたら戻ってきたジェットクロールに巻き込まれるからな。
ろくな攻撃手段のないおれにできる攻撃方法、それは――ニーソで脇フェチを絞め落とす!
「おれは、イラスト投稿サイトでニーソを10万以上ブックマークしたニーソ狂いだ!」
「ニーソフェチ、お前の前にいるのは青春を水泳に捧げたスポーツマンだ」
――ズッキィィン!
そんな音がしたのはわかった。
なにが起こったのかはわからなかった。
痛みもない、視界良好、壁が倒れてきているのが見える。
……いや、なんで壁? あっ違うわ。あれ壁じゃなくて床だわ――
おれが地面に墜落する間際、視界の端で、クイックターンのように身体を丸めて空中を蹴って折り返してくる脇女が見えた。
「前に性癖バトルしたときもっと大きく曲がってたじゃ――んぶぇっ」
「ニーソフェチ、筋肉は常に成長する。おまえのニーソはその程度か!? 見せてくれ、おまえの筋肉……じゃなかった、成長を!」
へっ、言ってくれるぜ……言ってくれたな……言われて成長できたら苦労しねぇぜ。
あっ、キラメキ☆脇女がもうそこまで――なんか走馬灯も見えてきた。
――あれはこんな頭のおかしい学園に来るまえの普通の高校生だったときの青春の一幕、学校の文化祭で後ろ姿に一目惚れして追いかけたニーソの君、あまりにまぶしいニーソの輝きにそこが男子校であるという事実も忘れて、というかニーソしか見てなくて、ふり返ったニーソの君は男友達と男臭い笑みを浮かべる男だった――
「ニーソならばよし!」
もうニーソだったら性別種族なんでもいい、もうニーソだけでもいい。
それにニーソは長ければ長いほどいい。ニーソックスよりニーハイソックス。オーバーニーソックスよりサイハイソックス。
『具現化された性癖は妄想の主が信じる魅力を戦闘力にする』
いまこそ覚醒のとき!
「天まで伸びろ――
握りしめていたニーソがおれの想いに答えて長くなる。
サイハイソックスの長さなんてとうに超えて、天を衝かんと伸びてゆく。
「これが……おれの……愛の形だ!!」
――ペシッ。
振り下ろしたスーパーロングニーソもとい天魔羅剣はジェットクロール巻き込まれてどこぞへ飛んでいった。
「伸びただけか!? ニーソフェチ!」
「飛んでいったのは片ニーソだ! チャンスはもう一度ある!」
とは言ったものの、やっぱ無理じゃね?
もう心の支柱はバッキバキ、首の皮一枚状態。
もうだめだ、人の夢と書いて儚いんだ。
入学前はニーソを布教して人類の一般性癖にしてやるとか思ってたっけ。
敵情視察として乳と尻の2大派閥の講義も見に行ったっけな……
そのときにグレゴリウス・オパイスキー教授とジークフリード・ケツゲッツ准教授の性癖バトル見たんだったか……
オパイスキー教授がシャツを破って雄っぱいを露出させると胸の前に巨乳、美乳、貧乳が具現化されて、ケツゲッツ准教授の背後に巨大なお尻が具現化されたと思ったら、お尻から放たれた爆風の勢いで殴り掛かるケツゲッツ准教授。
そうだ、あれを見ておれも本体を狙えばいいんだと気づきを得たんだった。
そして、ケツゲッツさん渾身の拳をオパイスキーに叩き込んだが、オパイスキーの貧乳はとても硬そうな衝撃音を響かせて傷一つなし、対してケツゲッツの背後にそびえる巨尻は貧乳から跳ね返った衝撃波にスパンキングされて消えてしまった。
ケツゲッツさんにもっと火力があれば……
おれもどうにか身体能力を上げられれば……
ニーソを巻いてミイラ男みたいになる?
……ダメだ、それで強くなれるイメージができない。
身体強化、ドーピング? 筋肉を膨らませる……どうやって?
血液……血流で強くなるもの……男根?
いやいや、おれはニーソに興奮するんであって、男根には……
いや、いけるか? ニーソに興奮するということは男根があれこれするわけで、そのエネルギーを局部ではなく全身に回すイメージ。
脳みそニーソ漬けにしすぎて人間はイメージできんが、おれ自身に起こる現象を過大解釈するくらいなら……
見えた光明に顔を上げると、キラメキ☆脇女のピンと伸ばされた指先が迫っているのがスローモーションで確認できた。
走馬灯すげぇ。
「いまならいける気がするッ――ニーソ神よ! おれにご加護を! トレンカとフェイクニーソは認めねぇ!
おれの愛にニーソが答えてくれたのか、普通の中学生のときニーソを狂おしいほど求めてスクールソックスを切りドラゴンの裁縫セットでニーソに縫い合わせたものをニーソ神に奉納したのがいま報われたのか――
「おい、ニーソフェチ……おまえ……燃えてね?」
「なんか体めっちゃ痛い」
――おれの体は黒煙に包まれていた。
なにこれ? 黒煙が出るほど肉体を燃焼させてる感じ? あの……断魂墨気ってのは当て字であって、夜露死苦が夜に濡れて苦しんで死ぬわけじゃないように、魂を犠牲にしてまでの強化は望んでないってゆうか……
「おれが燃え尽きるまえにくたばれ脇フェチぃぃいい!!」
文字どおりの全身全霊、決死の覚悟、というか早く保健室に運んでもらわないと死んじゃう。
そんな覚悟で特攻した。
断魂墨気からの天魔羅剣!! ――みたいなことを絶叫したような気がする。
振り下ろした天魔羅剣はキラメキ☆脇女に通じたのだろうか、暗くなる視界で見届けることはできなかった。
だがしかし、おれの新たなる性癖がこれからの学園生活に輝かしい一歩を踏み出したことは間違いないだろう。
ありがとうケツゲッツさん。
さすがケツゲッツさん。
あっ、もしかしてケツゲッツさんの性癖ってオナラなの? やっぱこの学園にいるやつら頭おかしいぜ。
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