第20話過去
家に帰ってお風呂を入って夜を迎えた。
「いい湯だった~」
「ご飯食べますか?」
「うん」
今夜はコンビニ弁当で済ませて、ビールを飲む。
「じゃあ話そうか」
「何がですか?」
「過去のこと聞きたいって言ったじゃん、忘れたの?」
「ああ、今話すんですか?」
「うん、お酒の力をもらわないと話せそうにないから」
「分かりました」
「どこから話すか」
「じゃあ、出会いから」
「分かった」
柚葉さんは遠い目をしながら、ビールを一口飲んで話を始める。
「出会いは私が高校二年生の時だったから、輝は一年生の時だね」
「なるほど」
「最初はお互い文化祭の委員会だったの、それで話す機会は最初はなかったんだけどある日私が書類を落としてしまってそれで話すの」
「そこで初めて話したんですか?」
「うん、最初は色々意見を出せて頼もしい後輩って感じだったけど。文化祭が始まるまで遅くまで仕事をする日々が続いてその度に飲み物を持って来て、自分は仕事終わってるのに私の仕事も手伝ってくれた」
「今の俺からは想像もつかないですね」
「でしょ、でも真実」
「そうですか」
「うん、それで文化祭が近づいてくるまで一緒にいることが増えたね」
「確かに文化祭の準備がある時の部活は準備優先だった気が」
「私達の高校は強い部活はなかったからね、だから部活より文化祭を優先だったの」
「そうだったですね」
「うん、それで文化祭前夜にも夜遅くまで学校にいてその時も傍にいてくれたの、その後に井の頭公園で少し話してそこで打ち解けた感じ」
「その内容は?」
「恥ずかしいから嫌だ」
「え~」
「まあその時に連絡先を交換して文化祭二日目に一緒に周ることを約束したの」
「青春ですね」
「なんか話してて恥ずかしくなってきた」
「まあ良いじゃないですか、過去のことですし」
「そうね、まあそれで文化祭も仕事をしながら時間を作って二日目に一緒に色々周って仲は良くなっていってそれで、付き合ったの」
「端折り過ぎでは?」
「そう言うのは自分で思い出して」
「そんな無茶苦茶な」
「無茶ではないよ」
「え?」
「だって神様は私達をまた出会わせてくれたし、こう言う恥ずかしいこと言いたくないけどさ、運命ってあると思うんだよ」
「それで、記憶も思いだせると?」
「うん、まあ相乗効果ってやつだよ。まあ私はいつでも待ってるから」
「分かりました」
「まあそれでね、お互い一緒に出かけることが増えてクリスマスに青の洞窟で告白されたの」
「一緒なんですね」
「うん、その時にクリスマスプレゼントでくれたのがあの真っ赤なマフラー」
同じ道を辿っていることを感慨深く感じながらも今でも昨日のことのように、去年のクリスマスのことを思い出す。
真っ赤なマフラーと同じように鼻を真っ赤に染めて、冬が似合う女性だった。
「でも一つ不安があるの」
柚葉さんは話すずらそうにだがしっかりと口を開く。
「あの時と同じ結末が待ってるんじゃないかって」
「それは事故でまた柚葉さんを忘れちゃうかもってことですか?」
「うん」
「そんなこと考えないでくださいよ、僕は何度記憶を失っても、何処にいても必ず僕は柚葉さんと出会います」
「そうね、輝のそう言う真っ直ぐさに惚れた、でも怖いの」
柚葉さんの手は少し震えていた、あの時の衝撃はやはり凄かったのだろう。
「気持ちは分かるとは言えないですけど、俺は多分今柚葉さんが記憶を失ってしまったらショックです」
「でも輝はそれでも私から離れないでしょ?」
「はい」
真っ直ぐ柚葉さんの目を見て話す。
「でも私は離れた」
「でもこうしてまた一緒に居られてるじゃないですか」
「違うの、あの事故は私の所為なの」
「子供を守って道路に出たことですか?」
「うん、私が待ってる交差点で子供が飛び出してそれを守って」
「でも、柚葉さんの所為ではないでしょ?」
「私は変わってしまった輝に耐えられないで、病院に足が向かなくなってしまった」
「俺は柚葉さんを責めることはしませんよ、絶対」
「そうでしょうね、でも私はこのことはずっと忘れないし自分を許せない」
柚葉さんが今までどれだけ自分を責めて、苦しんでいたのかが伝わる。
「なら一緒に背負いませんか?」
「え?」
「一人で抱える闇ではそれは大きすぎる、なら僕が半分背負います」
「どうやって?」
「分かりません、でももうあの時とは違ういつだって俺は柚葉さんの傍にいます」
「ありがとう」
柚葉さんは少し俯いて、ビールの泡が消えていくのを見つめていた。
そして、柚葉さんの瞳から涙がゆっくり流れた。
それは闇が大きく重いことを記しているかのようで俺はそれを手で拭いた。
いくら重くてもこの手があればいつでも柚葉さんに手を差し伸べられる。
そうして、俺は柚葉さんと出会う前の“僕”を取り戻すために、少しずつ記憶を辿る旅に出る。
「二度目の恋は、マッチングアプリでした」 やと @yato225
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