第17話誕生日
今日も今日とて仕事だ、最近はきはき働くことに段々体が受け付けてきている感覚がある。
入社してからは貰う仕事を必死になってやって、目の前のことばかりで周りを見る余裕はなかった。
でも最近佐久間に俺がこなしているのは他の社員よりも多いと聞いた、なので周りより余裕はないのが当たり前だった、そうして段々体に仕事が馴染んできたそのおかげで俺がやるべきことも見えて来た。
特に昇進したいとかそう言うことは考えてはいないのだが、周りからはそう言われる。
正直嬉しいけどそれでも今でも目の前の仕事を丁寧にこなすことが大切だと思う。
そうして家に帰る、いつものように家でビール片手に煙草を吸う生活だったが今は違う。
ただいまを言えばお帰りが帰ってくる、そんな当たり前に心底嬉しい。
「ただいまです」
「お帰り、ちょっとそこで待ってて」
「え、分かりました」
基本俺は残業は多いがそれでも柚葉さんは残業が殆どない、ホワイト企業だ。
流石大手は違うなと思いながら玄関の中で待つ。
数分経った。
「もう良いよ」
「じゃあ」
リビングに向かとでかでかと数字型の風船とローマ字の風船でハッピーバースデーと壁に貼ってあった。
「これなんですか?」
「貴方今日誕生日でしょ?」
「え?」
「まさか、忘れてたの?」
「はい、特にそう言う会話もしないので。全く」
「自分のことは二の次なのは変わってないわね」
「そうですか」
「うん、ほら今日くらいはさなんでもおねだりして良いんだよ」
「なんでもですか?」
「うん、なんなら一緒にお風呂でも入る?」
「それはなんかやめときます」
「そう、ならどうしようか、こう言う時輝は決めるの時間かかるからね」
「そうですね、基本的に物欲とかないですし」
「そっか、じゃあどうしようか」
「じゃあ、柚葉さん」
「ん?」
「立って両手を広げてそのままじっとしててください」
「分かった」
柚葉さんは俺の言う通りにしてくれた。
俺は柚葉さんにハグをした。
「へぇ?」
「なにそんな間抜けな声出してるんですか?」
俺は顔を下に向けた。
柚葉さんの身長が大体百五十五で俺が百七十三なので二十三cmくらいの差で大体、顔一個分くらい違う、柚葉さんが顔をかたくなにあげないかった。
「どうかしました?」
「いや、何でもない」
「もう少しだけこのままで良いですか?」
「えー」
「だって誕生日って柚葉さんが言ったんですよ」
「分かったよ、もう意地悪」
「はいはい」
なんとなく察して、頭を撫でた。
「頭撫でるな」
「はいはい」
そうして時間にすると三分くらいこのままだった、時間にすると短いのか長いのか分からないがそれでもこの時間だけは誰も介入も出来なければ俺が一番幸せだと感じる時間だった。
普段の仕事などで受けるストレスも今では体中の細胞が幸せだとサインを出しているかのような、感覚でいつかの俺と柚葉さんもこうして恋人らしいことはしていたのかは分からないがそれでもこの時間はどんなに記憶を失ってしまっても脳裏に刻み付けられて消えないだろう。
そうしてシャワーを浴びて、ようやくご飯だと思いリビングに行くと。
「おお、これは」
「良いでしょ、輝の好物変わってないと良いって思ってたけど」
皿の上にはこれまでかと言わんばかりにから揚げとスパゲッティとお寿司が並んでいた。
「これ全部準備したんですか?」
「お寿司だけは頼んだけどから揚げとスパゲッティは」
「こんなに食べきれるかな?」
「食べられなかったら明日食べれば良いのよ、その方が幸せ感が続くでしょ?」
「そうですね」
「うん、じゃあ食べよう」
「はい」
椅子に座って手を合わせた。
「いただきます」
「いただきます」
そうして最初に食べたのはスパゲッティだった。
ミートソースが麺に染みてて、そして小さいお肉も味もきちんとスパゲッティにあっていて美味しかった。
「美味いです」
「それは良かった、これね大学の時に一人暮らしの時に開発したのよ」
「そうなんですか?」
「うん、どうにか美味しくしたくて色んなサイトを見てやっと黄金比を見つけたの」
「へー」
「意外と時間かかるんだよ」
「なるほど」
そうして次はから揚げだ、口に居れるとカレーの味がしてその他にもニンニクなどで脂もなく俺が世界で一番好きなから揚げだった。
「これって…」
「うん、輝のお母さんのから揚げ、前にレシピ教わってたからそれにニンニクを入れて作ってみました」
「ご飯が美味しく食べられるのが一番幸せです」
「そうだね、腹が減ってはなんとやらでしょ」
「はい、それに一番好きな人が作ってくれたんですから。効果倍増ですね」
「そうね、私が誕生日の日は次は輝に頑張ってもらわないと」
「分かりました、所で誕生日いつですか?」
「覚えてないの?」
「はい、すいません」
「別に良いよ、九月七日」
スマホにメモを残した、これでばっちりだが問題は料理だ。
俺は料理は全く持ってしないので困ったものだ、今から習得するか?
こんだけ期間があるのだから問題はないだろうがそれでも心配だ、それも基本的に俺の部屋に柚葉さんが来るので練習してるのを見られたらばれてしまう、それだけは回避しないといけない、どうしたものかと考えこんみながらご飯を食べていると…
「どうかした?」
「はい?」
「いやなんか考え込んでるなって、もしかしてご飯美味しくなかった?」
「違います、ご飯はとても美味しいです」
「じゃあ仕事のこととか?」
正直なんと答えればいいのか、正解はない気がした。
そのまま答えてしまえばそれこそ計画がパーになってしまうし、仕事だと言えば家に居る時くらい考えるなとか言われそうだし、そんなことを考えていると柚葉さんが俺のおでこに手を当てた。
「なんですか?」
「いや、また熱かなって」
「いやいや、健康ですよ」
真面目にそんなことをするから可愛いったらありゃしない。
「じゃあなに、正直に教えて」
「分かりました」
俺はここで脳をフル回転して答えを出した。
「今度俺の会社の同期と飲みに行こうって話したじゃないですか」
「うん」
「三人は知ってるけど柚葉さんだけ知らないのはなんか気まずいかなと」
「そんなこと?」
「はい」
「これでも社会人よ、人とのコミュニケーションは取れるって」
「そうですか」
「うん、心配しないで」
「分かりました」
そうしてご飯を食べて腹八分目くらいでもから揚げとスパゲッティは残ってる。
「この辺でお腹いっぱいです」
「そう、まあお寿司は全部食べ切ったし冷蔵庫に入れとこう」
「はい」
そうして皿をキッチンに持って行く柚葉さんを見て俺も立ち上がった。
「手伝います」
「ああ、良いから良いから輝はそのままで」
「分かりました」
そうしてラップが斬れる音がしてテレビに集中していると、部屋の電気が消えた。
「え、停電?」
「ハッピーバースデー、輝」
柚葉さんがホールケーキを持っていた。
「この為に電気消したんですか?」
「うん、じゃあ蝋燭に火つけるね」
「もう、そんな年じゃないですよ」
「こう言うのは雰囲気が大切なんだから」
「そうなんですか?」
「うん、ほら」
蝋燭につけられた火を消して電気が再びつく。
「急に電気消さないでくださいよ、びっくりしたじゃないですか」
「それだと雰囲気作れないでしょ」
「それはそうですけど」
「さあ、食べよう」
「はい」
俺はなんとなく気になったことを聞いてみた。
「柚葉さんの誕生日ってどんな感じだったんですか?」
「私?」
「はい」
「うーん、友達と一緒が多かったかな」
「それは家族と一緒に居たくないとかそう言うことじゃなくて?」
「違うよ、プレゼントとかはくれたけど、仕事で居なかっただけ」
「そうですか」
「うん、輝とも一緒に過ごしてたよ、一回だけだったけど」
それでなんとなく分かった、柚葉さんは強いけど寂しがり屋で繊細だってことも、風邪を引いた時もずっと居てくれたのはそう言うことも理由だったのかもしれない。
「これからは、ずっと一緒に居ましょう、何回も誕生日を一緒に過ごしてそれで何個も思い出作って」
「どうしたの急に」
「いや、なんか伝えとかなきゃって思って」
「そう、まあ言われて嬉しいことではあるけど」
「なら良かったです」
「そう」
そうしてスマホを見ると佐久間から連絡が来ていた。
【急だけどさ明日仕事終わった後に、佐伯さんと橘の彼女さんと四人で行かない?】
【聞いてみる】
「明日飲みに行けますか?」
「四人でってやつ?」
「はい」
「随分と急だね」
「ですね、俺も今連絡来ましたから」
「そっか、良いよ明日場所が決まったら連絡して」
「分かりました」
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