第12話水族館

翌日。

それから、俺達は水族館に行くために準備をしていた。

《そろそろ出れますか?》

《ちょっと待って》

俺は普段来ている普段着にコートを羽織っていた。

この時期はもうそろそろ二月になろうとしていた時期なので、まだまだ肌寒いコートにマフラーをして行こかと思ったが、それはやめた。

女性の準備はメイクなど時間がかかることは分かっていたがそれでも、時間はかかるものだと理解は出来るが準備をすると言ってから、はや三十分が経つ。

俺は優雅に珈琲を飲みながら、ベランダに椅子とテーブルを用意してこの服装で寒くないかのチェックをしながら、朝を堪能していた。

「優雅に朝を迎えてるんじゃない」

ベランダの隣から小言が飛んできた。

「柚葉さんが遅いからでしょ」

「女の子には準備って言うものがあるんだよ」

「もう女の子って歳じゃないでしょ」

小声で言う。

「なんか言った?」

「いえ、それより終わったんですか準備は?」

「うん、とりあえず一服と思って」

「終わったなら言ってくれればいいのに」

「はいはい、じゃあ行くよ」

「はい」

それから珈琲とか諸々片付けて家を出た。

同じタイミングで柚葉さんも家を出た。

鍵を閉めた所に柚葉さんがこちらを見て動かない。

「なんですか?」

「何か言うことないの?」

「なんですか?」

「今日の私何か違くない?」

出た、女性が気づいてほしいサインだ。

こう言う時適当に言っても駄目だしはぐらかしても怒られる。

下から上まで見て服がいつもより違うよりかは顔に変化が見えた。

「分かった、いつもよりメイク薄いでしょ?」

「おお、良く気付いたね」

「ナチュラルメイクってやつですか?」

「うん、前から試してみたかったんだ」

そう言うとなんだか嬉しそうにルンルンと歩き出した。

「今日は車だから」

「車持ってるんですか?」

「家から持って来てもらった」

「え?」

「なに?」

「いや、どう言うことですか?」

「だから使用人に持って来てもらったの」

なんか色々説明不足だと思いながら、駐車場に向かうと黒塗りの車が一台止まっていた。

「本当にある」

「こんなことで嘘言わないって」

「でも使用人ってなんですか?」

「あー、まあ家金持ちでね居るんだよ。そう言う人」

「いやいや、実家金持ちなんですか?」

「うん、言ってなかったっけ?」

「一言も言ってもらってないです」

「そう、でも言わなくても良いかなって思って。ほら突っ立てないで乗るよ」

柚葉さんが運転席に乗った。

「失礼します」

「はい、じゃあ行こうか」

「はい」

そうして車が動き出した。

「輝は免許持ってなかったっけ?」

「大学の時に合宿で取りました」

「そうなんだ」

「はい、でも運転なんて暫くしてないからペーパードライバーです」

「そっか、じゃあ今度運転してよ」

「えー、怖いな」

「何が?」

「だって柚葉さん、逐一文句言いながら助手席にいそうだし」

「私のことなんだと思ってんの?」

「まあ事故がなければ良いんですけど、それより柚葉さんは良く運転してるんですか?」

「久しぶりだけど、前の家に住んでいる時は休みの時は良くドライブしてたよ」

「そうなんですね」

「うん、運転できる人はかっこいいです」

「おだてても何も出ないぞ~」

「後でなにか驕ります」

「それなら良し」

二人で笑った、笑いながらもスムーズに運転す柚葉さんはかっこいいし素直に惚れ直した。

「柚葉さんってどんな会社で働いてるんですか?」

「どんなって前に広告の仕事って言ったでしょ?」

「そうですけど、気になったので」

「ネクサリンクって会社」

「え?」

ネクサスリンクと言えば都内で大きなビルが建っていて、大手企業で入社には有名大学で入社試験も非常に厳しい会社で有名だった。

「そんな大手に?」

「うん、親が経営しててそれでそこ以外に入社は認められなかったから」

「なるほど」

「あ、でもコネ入社じゃないよ。なんなら入社して一年くらい隠してたし」

「そうなんですか?」

「うん、親の力で社会人生きてくのが一番嫌だったから」

「そうなんですね」

柚葉さんが親の力を使うなんて思えなかったし、そんなことを一瞬でも考えるほど弱い人間ではないと俺は知っている。

柚葉さんが煙草を取り出した。

「此処で吸うんですか?」

「うん、私の車だし。輝も吸いたかったら勝手に吸って良いよ」

「じゃあお言葉に甘えて」

俺も煙草を取り出した。

「水族館楽しみだわ」

「僕もです」

「なんか水族館も良いけど今度旅行とかも行かない?」

「良いですね、何処行きます?」

「うーん、沖縄か北海道かな」

「ミーハーですね」

「悪い?」

「いえ」

「でも沖縄は行ったことあるから北海道行きたいな」

「僕も行ったことないし行きますか」

「うん、でも今の時期だと寒いかな?」

「ですね、雪とかもあるし」

「なら夏に行く?」

「夏は涼しいんですかね?」

「そうかも」

そう言えば北海度に友達が居たことを思い出した。

「そう言えば、友達に北海道住んでる奴いました」

「そうなの?」

「はい、高校の同級生なんですけど大学に行ったんですよ」

「へー、何やってんの?」

「確か、獣医だったと思います」

「凄いじゃん」

「そうですね、僕も応援してよく集まって皆で勉強してましたよ」

「そうなんだ」

「はい、親戚が牧場やってるみたいなこと言ってましたね」

「牧場か」

「はい、興味あります?」

「うん、牡牛さんの牛乳とか飲みたいかも」

「じゃあ連絡してみます」

「うん、よろしく」

「はい、夏なら季節的に飛行機も安いと思いますし」

「そうだね、じゃあそうしよう」

「はい」

「北海道って夏には冷房要らないって聞いたことあるけど」

「確かに冷房機能付いてないエアコンが売ってるのは知ってますけど、普通に暑いらしいですよ」

「そうなんで」

「はい、多分東京よりは涼しいとは思いますけど」

「服とか悩むな」

「今度買いに行きますか?」

「そうね、なんか恋人らしいデートね」

「僕ら恋人ですよね?」

「うん」

「じゃあ何もまちがってないじゃないですか」

「そうね」

そんな北海道で何をしたいかとかそんな会話をして、車で移動して池袋に着いた。

「此処に止めよう」

「はい」

車から出て、歩き出した。

「はい」

「なんですか?」

「手繋ご」

「良いですよ」

右手と左手を繋ぐ、何も言わなければ手を繋ぐことはなかったけどそれでも、こうやって恋人みたいなことを段々していくことでこう言うことが普通になって行くことが出来れば嬉しいなと思う。


少し歩いてサンシャインに着いた。

チケットを買って中に入る。

「私が来た時はも少し安かった気がする」

「僕も同じこと思ってました」

「だよね、やっぱり物価って上がって行くのね」

「そうですね、マックも昔の値段調べたら驚愕しましたよ」

「スタバも安かったしね」

「煙草も」

「あー値段だけ昔に戻らないかな?」

「タイムマシンは無いんですから無茶言わないでくださいよ」

「でも、一度は考えたことあるでしょ?」

「タイムマシンがあればってことですか?」

「うん、輝はもし過去と未来にどっちか行けるならどっちに行く?」

「んー、難しいですけど僕はどっちにも行かないかもしれないです」

「どう言うこと?」

「だって今が幸せだし、大事にしないといけないのって今じゃないですか」

「なんかかっこいいな」

「柚葉さんは?」

「そんな答えが来た後に答えずらいよ」

「そうですか?」

「うん、輝は過去に行くと思ってたよ」

「何でですか?」

「だって記憶が無くなる前に行きたがると思ったから」

「あー、それはありますね」

「やっぱり」

「記憶無くなる前に俺がどんな風だったのかは気になりますね」

「そうでしょ?」

「はい、で結局柚葉さんはどっちですか?」

「うーん、あ、そろそろ水槽出てくるよ」

この人、話題変えやがったと思ったがまあ良いかと思い水族館を満喫することにした。

水槽に顔を近づけてにこにこ笑いこちらを振り向く、ペンギンを見れば上だけを見て首が痛くなったと言い、カワウソがいればこの世で一番尊いと言いだし海月がいれば神秘的で美しいと言い、チンアナゴを見れば小さくて細くてスタイルが良いと言う。チンアナゴでスタイルが良いと言うのはこの世で柚葉さんだけではないかと思うがそれでも、アザラシを見ればキュートで癒されると言った。

どれも、俺が全て柚葉さんに言いたいことだらけだった。

でも俺は、弱いからそんなことを素直に言えなかった。


「ほら見て、サメ。かっこいいね」

「そうですね」

「あんなに大きいのに他の生物も怖がることなく一緒に居れるって良いね」

「でもジンベエザメって水槽が小さいと死んでしまうから、水族館にはいないらしいですよ」

「そうなんだ」

「はい」

「そろそろお昼だし何か食べよっか」

「そうですね」

そうしてフードコートに行ってご飯を食べた。

満腹になって次は何を見るのかと考えていたら。

「今度は映画でも見る?」

「映画ですか?」

「うん、殆ど見切ったし映画見て帰ろうか」

「分かりました、何見ます?」

「そうだな、今は…」

そう言って選んだのは今話題のイケメンアイドルと女優の恋愛映画だった。

俺は特に見たいものはなかったし、女性はこう言う恋愛映画が好きなんだなと思ってたし承諾した。

そうして、映画館まで行ってチケットを買って席に着いた。

「人多いね」

「そうですね、今は正月休みだしそれにこの映画自体人気なんでしょ?」

「うん、隣の席が空いてて良かった」

「ですね」

そうして映画本編が始まるまでのCMが流れた。

これからやる映画や今やっている映画まで流れた。

時間が経って本編が始まって、冒頭から途中まで楽しかったしキスシーンでは気になって隣を見ると目をキラキラさせている柚葉さんがいて、なんだか可愛いなと思った。

そして最後は病気で亡くなってしまう主人公と残された恋人のシーンで泣いてしまった。

俺は感受性が豊なのでこう言うシーンには弱くボロボロと涙が流れた。


そうして主題歌が流れて映画が終わった。

「はー、面白かった」

「ですね」

「輝最後めっちゃ泣いてたね」

「見てたんですか?」

「うん」

「そこは映画に集中してください」

「良いじゃん、可愛かったよ」

「やめてください、ほら出ますよ」

「はーい」

映画館を出ると夕陽で空が淡い夕陽で覆われていた。

「綺麗ね」

「そうですね、あんまり気にしたことないですけど。今日はなんだか綺麗って思えます」

「映画見たから心が浄化されたんじゃない?」

「馬鹿言わないでください、僕はいつでも純粋な心を持ってる大人です」

「本当か~?」

「疑う余地もないでしょ」

「まあそう言うことにしといて上げる」

「そう言うことにしてください」


そうして駐車場に行き料金を払って柚葉さんの運転で、池袋を出た。


「そう言えばさ、水族館でなに考えてたの?」

「え?」

「だって上の空って感じだったし」

「まあ色々と」

「もしかしてつまんなかった?」

「退屈なんて思った瞬間はありません」

そう言うと安心した表情してくれた。

「でも、何考えてたかは気になるな」

「恥ずかしいので嫌です」

「えー、私のビキニ姿でも考えたてたの?」

「なんでそうなるんですか?」

「だって海とか一緒に行きたいなとか考えてのかと」

「それは行きたいですね」

「じゃあ夏は北海道に旅行に行くのと、海に行くのと、花火大会に行こう」

「なんか色々追加されてますね」

「良いでしょ」

「はい、思い出は幾つあっても足りないことはないですから」

「そうよ、で何考えてたの?」

「まだ話すんですか?」

「だって気になるもん」

「柚葉さんが可愛いなって思ったんです」

「え?」

「だって見る生物の感想、全部が可愛らしくてそれで水族館と彼女に行くのって王道ですけど良いなって」

「確かに王道だけどいつまでも、デートプランで外れることはないよね」

「そうですね」

もう一つだけ、水槽を見ている柚葉さんの後ろ姿を見て思ったことは言わなかった。

それは、柚葉さんが儚く見えてこれまでい以上に守りたいなと思ったことだった。

まるで、ラブソングのMVのようで一人で何処かに行ってしまうのではないかと思えてしまう。

それに、感想も可愛らしくて俺はなんでこの人との記憶を無くしてしまったのだろうと思った、忘れたくない、離れたくないと思っていたはずなのに。

神様がいるのなら聞いてみたい、数ある内の一人がなんで俺だったのか?

もしそんなことがなければずっと一緒に居られたのかもしれないのに…

でも、一つだけ感謝があるとすればもう一度会うことを許されてもらったことだ。

記憶も感情も消えてしまったけど懐かしいと感じたと言うことは、頭の何処かの隅に喜多川柚葉は俺の中に居たと言うことだ、それは消えたのではなくどんな障害があってもどんなに時間が経過しても出会う人には出会うし、俺の中で喜多川柚葉と言う存在はずっと頭の中に消えずに存在したいたことの証明だった。

でもそんなことは口が裂けても言えない、恥ずかしいし何よりこんな考えて引かれたらショックで寝込む。


そうして、当たり障りのない談笑をしてコンビニに寄った。

「取り合えずビールとそれから何かいる?」

「夜は何にします?」

「うーん、鍋とか?」

「良いですね、それなら素を買わないと」

「スーパーの方が安かったかな?」

「まあコンビニは高いでしょう」

「じゃあスーパー行く?」

「いや、ここは僕が出すので好きなのも買ってください」

「じゃあこれと、これと」

驕りだと分かると淀みなく籠にどんどんとビールを入れていく。

「あの~」

「なに?」

「取り合えずビールから離れてください、ほら、スイーツとか。今はどこもコンビニスイーツは美味しいって言うし」

「じゃあこのくらいで、後はデザートと鍋の素だね」

「はい」

それからそれぞれを買って会計が三千円を超えた時は正直驚きいて声も出なかった。


そうして家に帰って鍋を作り、ビールを飲みながら正月特番のバラエティー番組を見てデザートの前に柚葉さんが実家から大量に送られてきたと言う餅を入れて締めを食べてデザートを食べて、もう食べれないと言いながら最近買った炬燵に足を入れて温まった。

こんに幸せな正月を送った記憶がないので、今年は良いことが沢山あると良いなと思いながら炬燵の温もりで深い眠りについた。

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