「二度目の恋は、マッチングアプリでした」

やと

第1話二時間遅れの出会い

マッチングアプリ。それは恋人や友達を探す、最近の人間の流行りだ。

そして俺も、そのアプリで恋人を探していた。そう、脱・童貞のために。


二十代中盤。友達は片手で数えられるほどしかおらず、彼女いない歴は年齢と同じ。そんな人生はもう御免だと思い、マッチングアプリに手を伸ばした。

始める前は「自然な出会いが一番」と思っていたが、学生時代にそんな出会いはなかった。しかも、周りの同級生は結婚して子供までいる。焦らずにはいられなかった。


友人の結婚式でふと、俺は一人孤独に死んでいくのかもしれない、そんな妄想が頭をよぎる。でも、恋愛経験のない俺は、女性とどう接すればいいのか分からなかった。


そんな中、始めて数日で女性とマッチした。

俺は喜んだ。プロフィール写真は盛れているものを使った。詐欺ではない。ただ、ビジュアルの良い瞬間を撮っただけだ。角度や照明の問題もあったが、まあ仕方ない。


待ち合わせ当日。ネットの情報によると、夜に会うとヤリモクだと思われることがあるらしいので、昼の15時に渋谷のカフェで会うことにした。

俺は15時の少し前、ハチ公前の手すりに腰かけて待つ。


そして15時になっても、姿は見えない。少し電車が遅れているのだろうか。待つこと1時間……16時になっても連絡は来ない。

二時間……17時。俺は不安と焦りでいっぱいだった。「……これ、捨てられたのか?」


何度も連絡したが、既読すらつかない。

「はー、これがドタキャンってやつか……」

肩を落とし、下を向く俺の前に、突然声がかかった。


「あの?」

顔を上げると、びっくりするほどの美人が立っていた。


「はい?」

声が裏返る。


「あの……もしかして、マッチングアプリで約束ぶっちされました?」


「え?」


「え、もしかして違いました?」


情けなくなった俺は素直に答えることにした。

「そうですけど……」


美人局か何かの仕業かと思い、今度こそ立ち去ろうとしたとき。


「あの……実は私もドタキャンされちゃって」


「え?」


「えっと、その、傷心者同士、今から飲みませんか?」


「は、はい?」


「変ですよね、ごめんなさい。忘れて…」


「あ、いや、いいですよ」


「本当ですか?」


「はい」


俺はどうしてしまったのか。恋愛経験のない俺が、こんな怪しい誘いに応じてしまうなんて。


「どこ行きましょうか?」

「じゃあ、歩きながら適当に店を探しますか」

「そうですね」


数分歩いて、居酒屋チェーンに入った。道中、緊張でほとんど会話はできなかった。

生ビールを頼み、乾杯する。


「乾杯」

「乾杯」


「そういえば、まだ名前聞いてなかったですね」

「そうですね。僕は橘輝です」

「私は喜多川柚葉です」


お互いに笑顔になる。初対面のぎこちなさを少し忘れさせる瞬間だった。


「橘さんはどんな人を待っていたんですか?」

「清楚系の女性で、僕より少し年上の人……二十七歳くらいかな」


「年上好きなんですか?」

「まあ、そうかも……もうショックで」


「悲観的にならないで。女性はいくらでもいますよ」

「なんか、それ聞いたことあります」


「相性なんて文字じゃ伝わらないものよ」

「しっかりしてますね、キャリアウーマンって感じ」

「スーツ着てるからじゃない?」

「そうかも」


少し酔いも回って、普段なら聞けないことも自然に話せた。喜多川さんも少し顔を赤くしていた。


「私は家には仕事持ち込まない主義なのに……本当もう最悪」

彼女は生ビールを一気におかわり。俺も三杯目を流し込む。初めて会ったのに、なぜか居心地が良かった。


一時間後。

「喜多川さーん?」

「うーん、まだ飲む」

「もう無理ですって」


「じゃあ、家で飲みましょう」

俺は彼女を家まで送ることにした。


「エッチ」

「馬鹿なこと言わないでください。場所を変えるだけです」


タクシーで俺の家に到着。酔いも手伝ってか、安心感から眠りにつく喜多川さんを見つめる。

「着きましたよ」

「うーん……」

気がつけば、俺も一緒に眠っていた。

「変わんないな、輝」

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