体育祭3



体育祭当日。


朝から生徒会は大忙しだ。




「蒼真、それ本部のテントまで運んで。杏子ちゃん、用具の最終チェック、お願いしていい?私は今から井口先生のところに行って、最終確認してくるから、何かあったら飛鳥に聞いてね。」


これまでの準備期間とは比べ物にならない慌ただしさに、とうとうこの日がやってきたんだという実感がこみあげてきた。




「よしっ。」


こぶしをにぎって気合いを入れる。




本番はまだまだこれからだ。




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「次、大玉転がしだから準備お願い!」


「退場の人こっちから出てくださーい!」


「入場者、全員集まったー?」



体育祭が始まると、休む暇もなく声を張り上げ、グラウンドを駆け回る。


汗が止まらないのに、まだ半分も終わっていない。



もっと頑張らないと。





「瑞稀先輩、これ。」


突然首筋に冷たいものが触れて振り向くと、ペットボトルを差し出している蒼真がいた。



「俺ここやっとくんで、一回テントの方で休憩してきてください。先輩、朝からずっと走り回ってますよね。」


正直体力は限界に近かった。それでもまだ大丈夫だと自分に言い聞かせ、ごまかしていたのが、あっさりと見抜かれた気がした。



思わずなんだか泣きそうになった。




「…ありがとう。」


「どういたしまして。」




蒼真の笑顔を見ていると、不思議と力が湧いてくる感じがした。




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「次は二年生男子、借り物競争です!」





「確か蒼真が出るって言ってたな。」


そんなことを考えながらふとトラックの方を見た瞬間、こちらに向かってまっすぐ走ってくる彼の姿が目に入った。



「え?なんで…」


驚いて固まる私の前に立つと、蒼真は息をきらせながら笑った。




「瑞稀先輩、ちょっと借ります。」




そう言って、そっと私の手を取った。



周囲が一斉にどよめき、黄色い歓声や冷やかしの声が響く。


けれど、そんなことも気にならないぐらい、私の頭の中は、大きくて力強い蒼真の手の温かさでいっぱいだった。





2人並んで審判の元に駆け込む。


「さて、お題を読み上げます。お題はーーーーー「大事な人」です。」



心臓が大きく跳ねた。



「えっ…」


慌てて隣の蒼真を見上げると、彼は少し照れくさそうに笑っていた。


「大事な人って言われたら、瑞稀先輩しか思いつかなかった。」



その言葉に顔が一気に熱を持つ。



「もっと他にいるって…。」


恥ずかしさに思わず小声で返すが、顔が赤くなっていくのを止められない。


そっぽを向いても、耳まで熱いのが自分でも分かった。




ずっと弟のようにしか見ていなかったけれど、私の手を引いて走る姿がどこか頼もしく、大人に見えた。





そんな私の気を知ってから知らずか


「次、女子リレーでしょ?頑張って?」


そう言って、蒼真は何事もなかったかのように笑う。






観客席から歓声が再び大きく響いた。


その声に紛れるように、私は小さく呟いた。





「こんなのなしだって…。」




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