…ゾクリ…~ガーデニング~

兎馬

ガーデニング


夫は昔から女遊びが激しい人だった。


「それ、なんの花?」


「…スノードロップよ」


いつもなら話し掛けもしないくせに、わざとらしくガーデニングをしている私に向かって声を掛ける。


「ふーん」


いかにも興味が無い反応をすると、夫は鼻歌交じりに車のキーを指で回しながら家を後にした。


こういう日は決まって浮気相手の女に会いに行く日なのだ。


「・・・随分機嫌がいいのね」


私は、夫に聞こえないように小声で呟き、シャベルで土に小さく穴を開けた。


そこに、先程のスノードロップを植えると、


ふう、と息を吐く。


周りを見渡すと、だだっぴろい庭に今まで埋めた花達が綺麗に咲き誇っていた。


「綺麗・・・」そう呟いて、私は軍手を外すとパンッパンッと土を払う。


…今頃浮気相手の家に着いた頃だろう。


そんなことを思いながら、私は時計を見る。


結婚する前はこんなに女遊びが激しい人だとは思わなかった。


噂では耳にしていたが、愛情深い人だったので、若かった私はそれにほだされてしまったのだ。


釣った魚に餌をやらないタイプの人間、とはまさしく旦那そのもので、愛されていたのは最初だけ。


今ではもう、まるで相手にされていない。


昔の事を思い出しながら、私はソファーに腰掛けると読みかけの小説を手に取り途中まで読み進める。


ふと、再度時計を確認すると、夫が家を出てから1時間が経っていた。


往復時間を考えると、そろそろー…か。


そんな事を考えているとガチャンッと玄関が開く音がする。


やはり、帰ってきた。


帰ってきた夫はしきりに携帯を気にしながら落ち着かない様子だった。


「どうかしたの?随分と早いお帰りだったんだね」 と、わざとらしく聞いてみる。


「ん?嫌。別に何も」


余裕が無い顔で私を見る夫に、笑いを込み上げるのを必死で我慢した。


あなたが会いに行った相手、 居なかったでしょう?


いくら連絡しても無駄よ。


だからいい加減、大人しくしなさいね。


これ以上、花が増えないように。














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