第38話備えあれば憂いなし
夏休みが始まってから2日が経った。
今日から咲夜が俺の家で生活をすることになっている。
ここ数日、新しいベッドやら棚といった家具が毎日のように家に届いたこともあり、何不自由なく咲夜の新生活はスタートが切れることだろう。
しかしまぁ、咲夜と一緒に暮らすことになるとはな……。
進学校に通う高校生なんだから、勉強しなさいって毎日のように尻を叩かれるんだろうなと思うと何とも言えない微妙な気分だ。
さてと、これから向かうって連絡が来てたけど……
ガチャリ。
玄関のカギが開いたような音が聞こえてきた。
俺が廊下に出ると、そこにはもちろん……
「珍しいわね。玄関までお出迎えなんて」
今日から俺の家で暮らすことになっている咲夜が居た。
そして、珍しくお出迎えした意味はあったようだ。
「荷物とかあったら運んであげようかなって。にしても、随分と大きいキャリケースだな」
大きなキャリーケースを引いて現れた咲夜に答えた。
「1か月はこっちで暮らすんですもの。洋服とか色々と必要でしょ? ま、こんなに大荷物になるなら宅配すれば良かったわって後悔中よ」
「さてと、それを運ぶ先は2階でいいよな?」
「ええ、お願いするわ」
今日の外気温はすでに30度を超えている。
駅から歩いてきた咲夜の額には汗がじんわりと浮かんでいた。
「汗凄いしシャワー浴びちゃえば?」
「それもそうね」
「まだギリギリ7月なのに本当に暑いよな……」
話しかける俺の傍らで、咲夜はキャリーケースから着替えを取り出そうとする。
しかし、途中で手が止まった。
「ん? どうかしたか?」
「下着を出したいからちょっと後ろ向いてくれないかしら」
「ああ、そういうこと……」
俺は後ろを向いた。
そして、咲夜に俺は相談を持ち掛ける。
「下着とか俺に触れられるの嫌だろうし、洗濯当番は咲夜にお願いしてもいい? 他のことは俺がやるからさ」
「輝明が洗濯当番をしたら、私のパンツが盗まれちゃうものね。ま、やるならバレないようにしなさいよ?」
「咲夜じゃあるまいし盗まないって。いいか、女の子のセクハラは可愛いで許されるけど、男の子のセクハラは可愛いじゃ許されないんだぞ?」
「……それはそうね。っと、もうこっち向いていいわよ」
無事にキャリーケースから下着などを取り出し終えたのだろう。
俺は背中を向けるのをやめて、咲夜の方を向いた。
「キャリーケースは咲夜の部屋に運んどけばいいよな?」
「悪いわね。それじゃあ、私はシャワーを浴びてくるわ……」
咲夜は慣れた足取りで脱衣所の方へと歩き始めた。
俺は咲夜の姿が見えなくなった後、キャリーケースを咲夜の部屋へと運ぶ。
「ふぅ……。にしても、あいつめ1か月しか暮らさないのにちゃんとしたベッドに棚とテーブル、どでかいソファーになるクッション、ほんと生粋のお嬢様だよな……」
咲夜の部屋を見渡しながら俺はぼやいた。
父さんは俺が生まれる前に亡くなった爺ちゃんと流血沙汰を起こしたくらいに仲が悪くて『クソじじいの金はいらん!』と遺産をすべて相続破棄してしまった。
これが、うちは裕福ではあるものの、咲夜の家ほど大金持ちではない理由である。
さてと、荷解きするんだしエアコン入れといてやるか。
咲夜はキャリケースの中身をこれからきっと整理するはずだ。
部屋が暑くては大変だろうと思いエアコンを点けてあげる。
冷風が出始めたのを確認して部屋を後にしようとしたのだが、キャリーケースの中身が気になってしょうがない。
正直なところ、俺は咲夜のことを良く知っている。
それこそ、アイツは身に着けていない下着を見られたところで、俺に恥ずかしがるような姿を見せないはずだ。
なのに、下着を取りだすからと言って俺を後ろを向かせたのは、きっと俺に見られるのが恥ずかしいであろう何かがキャリーケースの中に入っているのだろう。
「……ま、バレないだろ」
俺は恐る恐る咲夜が何を隠そうとしたのか暴こうとする。
期待してキャリーケースを御開帳すると、そこには……
避妊具が入っていた。
うん、なんで? と一瞬だけ思ったものの別に何らおかしなことじゃないと、すぐに俺は気が付いた。
「従兄妹だとはいえ、年頃の男の子と一つ屋根の下だからな……」
万が一に備えておくべきなのは言うまでもない。
が、しかし、なんかモヤモヤする。
「そんなに俺のことを信用してないのか……。いや、気持ちは分かるけどさぁ……」
咲夜の考えもわかる。
けど、なんか俺が軽薄な男みたいに思われてるようでちょっとショックである。
さてと、他には面白そうなモノもないしキャリーケースを元通りにして……
「人の荷物を漁るのはどうかと思うわよ?」
急に後ろから声を掛けられた。
恐る恐る振り向くとそこには咲夜がやれやれと言わんばかりに呆れた様子で立っていた。
「ず、随分とシャワー浴びるの早かったな」
「だって軽く汗を流しただけだもの」
「すみません。なにを隠したいのかな~って気になって漁りました」
「それで、漁った感想は?」
「一応、ちゃんと男の子と一つ屋根の下っての想定してるんだな~って」
避妊具を見つけた。なんて口にするのは少し恥ずかしくて、誤魔化したような物言いで俺は言った。
すると、咲夜は、はぁと溜息を吐きながら俺に教えてくれる。
「今朝、いきなりお父様に渡されたのよ」
「叔父さんが?」
「念のために持っておきなさいってね。心配だからとはいえ、さすがに親としてこういうのを普通に渡してくるのどうかと思わない?」
「まあ、うん。てか、咲夜が自ら用意したんじゃないんだな」
「当たり前でしょ? 誰がこんなものを用意するもんですか」
咲夜に信用されてないようでちょっとショックだった。
けど、どうやらそうではなかったようだ。
胸のつかえがとれて晴れ晴れとした気分になる。
「そりゃそうだよな」
「なによ。その晴れ晴れした顔は」
「いや、俺って信用されてないんだな~ってちょっとショック受けてたんだよ」
「まったく、だから見せないようさっきは隠したのよ。意外と繊細な輝明が見たら絶対に『俺って信用ないのか……』って落ち込むから。まあ、単純にこういうの持ってるの見られると恥ずかしいってのもあったけどもね」
なるほどなと俺は頷いた。
地味に咲夜に信用して貰えていたのが嬉しかったのかもしれない。
「これから荷解きするんだろ? せっかくだし、手伝おうか?」
俺ってチョロいなぁとか思いつつも、気が付けば俺は咲夜にそう言っていた。
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