第24話佐藤千恵里その1

 家では勉強に集中することができない。

 周りからの視線がなければ、スマホの誘惑に抗うことのできない俺は試験勉強のために放課後になっても学校に残ることにした。

 というわけで、教室に残って勉強を始めたのだが…… 

 なんというか、学校に残って勉強している子の顔ぶれが怖い。


 学年でトップクラスの成績の子ばかりが教室に残っている。


 俺がここにいるのは場違い感が凄いな。

 とか思いつつも、俺も負けじと勉強に精を出した。

 そしてまぁ、あっという間に19時20分だ。

 19時30分に校門が閉まるし、そろそろ帰り支度をするにはいい時間だ。

 そんなこともあってか、さっきまで静かだった教室も少し騒々しくなってきた。


「今回の試験範囲広すぎだよな~」

「だよね。っと、借りてた消しゴム返すね」

「別に持ってていいよ。私心配性で消しゴム3つ筆箱に入れてるから」

「そう?」


 他愛のない誰かの雑談を耳にしつつ、俺は帰り支度をしていたときだ。

 背後から大きなため息が聞こえてきた。


「はぁ……」


 あまりにも大きなため息ということもあり、俺は振り向いてしまった。

 ため息を吐いたのは同じクラスの佐藤さんだった。

 ちょっと目が合ってしまったこともあり、俺は佐藤さんに声を掛ける。


「随分と大きなため息だったけどさ、どうかした?」


 さっぱりとしたショートカットにメガネという清楚な見た目の佐藤さんは俺に苦笑いで溜息の訳を教えてくれた。


「家に帰ったら今日も勉強の邪魔をされるんだろうなって思うと憂鬱なんです」

「邪魔されるって?」

「小さい弟がいて、私が勉強を始めると構ってと邪魔しにくるんですよ」

「それは大変だな」

「今ってカフェもファミレスも勉強すると怒られますし、ワーキングスペースもここら辺にはないのが本当に最悪です」


 勉強したいけど、静かに勉強できる場所がない。

 なんか可哀そうだなとか思いつつも、俺は佐藤さんに聞いた。


「佐藤さんって毎回成績上位だけど今回も上位狙ってる感じ?」

「はい、指定校推薦狙いですから」

「地味に良いところの指定校推薦をうちの学校は持ってるもんな」

「私はそれ目当てでこの高校に入学したまでありますね」

「っと、そろそろ施錠されちゃうし出ないとな」

「ですね」


 完全下校時間も迫ってきている。

 話の途中だけど、俺達はカバンを手に持って学校を後にする。


 そして、どうやら佐藤さんと俺の帰り道は一緒のようだ。


 互いに無言で同じ道を歩くのもアレなのか、帰り道が一緒な佐藤さんは俺に話しかけてきた。


「それにしてもあれですね。輝明くんが学校に残って勉強するの珍しいですよね」

「頑張らなくちゃいけない事情が出来た。でも、家だとスマホとか弄ったりして集中できなくてさ」

「へー、そうなんですね」


 何とも当たり障りのない会話を繰り広げていたときだ。

 いきなり佐藤さんが聞いてくる。




「そういえば、輝明くんの家に水谷さんがお邪魔してるところを目撃したんですけど、いったいどういう関係なんですか?」




 ……そりゃ隠してもないし誰かに見られるよなぁ。

 佐藤さんにガッツリと水谷さんが俺の家にお邪魔するところを目撃されたようだ。

 冷や汗をかきながらも俺はひとまず水谷さんのためにも曖昧な返答をしておいた。


「遊びに来てるだけだよ。意外と水谷さんとは仲良しでさ」

「へー、そうなんですね」

「まあ、うん。ほんと、別に恋人だとかそういうのじゃないからな?」

「そんな焦らなくてもいいですって。別にちょっと気になったから聞いただけで、何かしようってわけでもないので安心してください」

「それならいいけど……。てか、良く俺の家に水谷さんが入ってくの目撃したよな」

「それはそうですよ。だって、私の家は輝明君の家のご近所ですから」


 え? 佐藤さんってご近所に住んでるの?

 意外な事実に驚きが止まらない。


「マジか……」

「はい、大マジですよ。その証拠として帰り道が一緒です」

「ちなみにどこら辺? あ、言いたくなかったら言わなくていいから」

「第4公園の近くですね。ちなみに、築4年なのでまだまだ綺麗なのが自慢です」

「……めっちゃ近いな」


 佐藤さんと俺の家はかなり近かったようだ。

 クラスメイトにご近所さんが居たなんて本当にびっくりである。

 なんて思っていたら、さらに佐藤さんは思いだしたかのように俺に言う。


「あ、そうえいば、この前は咲夜も輝明くんの家に入ってましたね」

「……そっちも見たのか。なんか説明した方がいい?」

「いえ、なんとなくわかるので良いですよ。あれですよね、咲夜とは学校では赤の他人とか言ってるけど実は親戚とかそういう感じでしょうか」


 大正解すぎて怖いんだけど。

 まあ、変に隠してもあらぬ憶測を生むだけだよな。


「そうそう。実は普通に親戚なんだよ。うるさくされるの嫌だから、学校では他人ってことにしてるけどさ」

「やっぱりそうでしたか」

「それにしても、こうして輝明くんと話すの初めてですね」

「同じクラスでも話す機会がないとあんまり喋らないもんな」

「ですね」


 うーん、当たり前のことを当前のように話してるだけで、イマイチ会話が盛り上がってる感じがしないな。

 別に盛り上げる必要はないのだろうけど、せっかく滅多に話さないような子とお喋りしてるし……。

 よし、ちょっと場を盛り上げるような冗談でも言ってみるか。



「家に帰ると弟に勉強を邪魔されるって言うなら、俺の家で勉強してく?」



 俺の予想では『さすがにそれは遠慮しときますね』とくすっと笑われて、断られるはずだった。

 しかし、佐藤さんは目をキラキラとさせて俺の手を握って言う。



「いいんですか!?」



 思っていた反応と全然違うんだが?

 あまりにも想定してなかった反応が帰ってきた俺は苦笑いになってしまう。


 いやいや、これは遊ばれてるだけだ。

 きっと、俺をからかっているだけだ。


 佐藤さんは最後の最後で『いや、冗談ですよ』と笑うに違いない。

 水谷さんみたいに、まさか本当に俺の家に上がり込んでくるわけが……




「お母さんに帰りがちょっと遅くなるって連絡しておきました!」




 あったようだ。

 俺の周りの女の子ってさ、意外とこう大胆な子多いよな……。

 今更になってやっぱり冗談だよなんて俺は言えるわけもなく、佐藤さんを家に招き入れることが決まってしまうのであった。

 





 

 

 

 





 

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