第20話―芽吹き―その2
水谷さんに、わりとアリなのでは? と言われてしまいドキドキとする。
だがしかし、この雰囲気はあまり良くないと水谷さんは察したのだろう。
『あ、一応補足をしておくと、アリなのでは? って思っただけで、恋人になりたいとか思ってるわけじゃないからね~』
思わせぶりな水谷さん。
今のはまるで俺のことが好きで告白したかのように見られてもおかしくない。
そんなこともあってか、ちゃんとあくまで『ありなのでは? と思った』に過ぎないと口にしたというわけだな。
「知ってるよ。確かにアリと思ったっと好きになったはちょっと違うよな。俺だって、水谷さんと付き合うのは『あり』って普通に思うし」
『ま、期待しちゃったのならごめんね?』
「さすがにアリなのでは? って思われてるくらいで、俺のこと好きなのでは? と勘違いしちゃうような能天気じゃないですって」
薄れゆくじれったい雰囲気。
顔の火照りも少しおさまってきたこともあり、俺は水谷さんをからかった。
「ま、俺と恋人になりたければ、まだまだ頑張れ! って感じですかね……」
冗談だとわかるように、やたらと上から目線で俺は言った。
するとまぁ、私の真似? と水谷さんは笑ってくれる。
『ぷっ、普段は自分でしてることを、逆にされるのなんか面白いね。んで、どう頑張れば輝明君の好感度は上がるのかな~?』
「教えてもいいですけど、絶対にしないでくださいよ?」
『なんで?』
「好きになるんで」
『んでんで、輝明君はどういう風にされたらときめいちゃう感じなのかな?』
こいつ、俺をからかうつもりで、俺が言ったことをやる気満々だな?
こうして、俺は水谷さんと夜中まで楽しくおしゃべりを繰り広げるのであった。
※
夜中まで水谷さんとお喋りをした翌日。
いつも通りに学校が終わった。
今日は水谷さんも陸上部の活動はないし、シャワーを浴びる必要もないので俺の家には来ない。
ちょっと寂しいなと思っていたのだが……
「電車が動いてないから遊びに来たよ!」
唐突に水谷さんが俺の家に遊びに来た。
どうやら、俺は水谷さんとかなり仲良くなったようだ。いきなりやって来られたが全く嫌な気がしない。
俺は水谷さんを家に招き入れながら話をする。
「電車止まったっていうけど、動くまで時間が掛かる感じ?」
「復旧目途は20時くらいだってアナウンスあったよ。でもまぁ、駅で待つのもな~って感じで輝明君の家に行っちゃえ! って感じ。あ、迷惑だった?」
「全然平気だよ。むしろ、今日は水谷さんも部活ないし、来ないのちょっと寂しいな~なんて思ってたところだ。って、水谷さん?」
リビングではなく、お風呂へと向かった水谷さん。
そんな彼女を俺は呼び止めた。
「えへへ、今日はシャワーを借りに来たんじゃないんだっけ」
いつもの癖で水谷さんはお風呂場へと直行してしまったようだ。
今は梅雨だが、もう夏ってくらいに暑い。
水谷さんはどこかじんわりと汗ばんでいる。
「今日も暑かったし、シャワー浴びちゃえば?」
「そういうことなら今日もお借りしちゃおうかな?」
「んじゃ、俺はリビングに行ってるな」
「うん、ありがとね~」
そうして、水谷さんは流れるように脱衣所へ消えていった。
かと思いきや……、水谷さんが俺の目の前に戻ってくる。
「どうかした?」
「……咲夜ちゃんにも連絡してあげたら?」
「あー、電車が動いてないって言ってたもんな」
「そうそう。駅で立ち往生してたら可哀そうじゃん」
言われるがまま俺は咲夜にメッセージを送信した。
『帰れそうにないなら俺の家に来てもいいよ』と。
すぐに返信が来る。
『まだ動きそうにないし、そうさせて貰うわ』
どうやら、咲夜も電車が動くまで俺の家でゆっくりしていくようだ。
スマホをのぞき見していた水谷さんは俺に言う。
「……残念だったね?」
「何がですか?」
「可愛い美少女な私と二人きりじゃなくなっちゃって」
「また昨日の夜みたいに思わせぶりなことを……。ほんと、俺が本気になっても知りませんよ?」
水谷さんに少し呆れたように言った。
今日もまた大胆不敵な水谷さんは俺に胸を張って言い放つ。
「好きになっちゃえば?」
すっかりと聞きなれたセリフに俺は笑ってしまった。
そして、いつも通りに俺は水谷さんに聞く。
「ちなみに、水谷さんを攻略するには、あとどれくらい頑張ればいいの?」
「ん~、このまま頑張れ! って感じだね」
「また、そんな思わせぶりなことを言って……。ったく、先にリビングに行ってるからな……」
水谷さんにも困ったものだ。本当に俺をからかうのが大好きなんだから。
俺はリビングへと先に戻ろうとしたのだが……
水谷さんが気まずそうに頬を掻きながら俺に告げた。
「思わせぶりじゃないよ。だって、このまま頑張られたらさ、私ね、輝明君のこと好きになっちゃいそうなんだもん……。えへへ、言っちゃった」
今はまだ好きじゃない。けど、ずっとそうとは限らない。
水谷さんは恥ずかしそうにそう言い切るや否や、呆然と立ち尽くす俺を置き去りにしてシャワーを浴びに行ってしまうのであった。
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