第3話:「イケメンにときめいた!?そして正体ばれたあああ!?」

 ――その日も、僕は変身していた。


 理由は簡単。


 今日の怪人は、「自販機のボタンを全部押して中身をシャッフルする怪人」。


 地味に迷惑。いや、じわじわ腹立つ系。


 でも緊急性は低い。普通なら無視できるレベルだ。


 だけど、ミュンがうるさいから出動するしかない。


「ハートリボン・スプラッシュ!(仮)!」


 ぴかーん!と浄化ビームが発射される。


「飲みたかったメロンソーダ……!」


 そう言い残しながら、怪人は淡く光って消えていった。


 ちょっとだけ胸が痛んだのは、僕が甘党だからに違いない。


 ――と、そのとき。


「どけ。」


「え?」


 背後から、低くて鋭い声が飛んできた。


 振り向いた僕の視線に飛び込んできたのは、一人の男子生徒。


 黒色の髪に鋭い目つき。乱れた学ランに腰のチェーン。


 “ザ・不良”な出で立ちなのに、どこか静かで圧のある雰囲気。


「……西園寺さいおんじ……れい……!?」


 クラスメイトで、学年でも有名なヤンキー。


 なのに成績は常に上位、運動もできる、ピアノも弾ける。謎すぎる万能型イケメン。


 その彼が、突然僕の前に立ちふさがった。


 次の瞬間――


 影から飛び出してきた、さっきの怪人とは比較にならないほど禍々しい巨大な影。


 ギラつく牙、触手のような腕。まるでホラー映画のラスボスみたいな異形が僕に飛びかかってきた。


「ひっ――!」


 反応が遅れた。ドレスの裾が邪魔で、足がもつれる――!


 ……と思った、その瞬間。


 ズドン!


 衝撃と共に、怪人が吹き飛んだ。


 風圧が僕の髪を乱す。


 そこにいたのは、西園寺だった。


「怪我、してないか?」


 その手が、そっと僕の肩を支える。


 顔が近い。思ったよりも穏やかな目をしていた。


「……えっ。あ、う、うん」


(な、なにこれ……なんか、ドキドキしてる……?)


 心臓が跳ねる。顔が熱い。


 いやいや違う! これは吊り橋効果だ! 命の危機→救出→ドキドキ=錯覚!


(……僕は男だ。相手も男。これはただの脳の誤作動!!)


 でも、彼の瞳はやたら優しくて。


 しかも、今の攻撃――素手であの怪人を吹き飛ばした!?


(なんなのこの人、強すぎない!?世界観違うよ!?)


 数分後。


 怪人は完全に消滅し、現場には安堵の空気が戻っていた。


 僕――魔法少女カナタ(Ver.)は、顔を赤くしながら全速力でその場を離脱した。


 心臓がまだドクドクいってる。


 混乱と動揺で、変身が解けそうになる。


「ちょ、ちょっとミュン!? 西園寺くん、僕のこと絶対見てたよね!? 好きなタイプが特殊とか、そういう話じゃない!?」


「落ち着くミュン。西園寺零、ただ者じゃないミュン……! あの素手の破壊力、世界観がズレてるミュン……!」


「だよね!? ね!? あれ絶対“人類”じゃないよね!?」


 ――そして。


「……カナタ?」


 背後から、聞き慣れた声が聞こえた。


「――え?」


 振り返ると、そこにいたのは朝比奈美香。


 制服姿のまま、こちらをじっと見ている。


「今の……声。目の動き。仕草。あれ……全部、彼方と同じだった」


 全身に電流が走った気がした。


 頭の中が真っ白になる。


「…………あー」


 ミュンが小声で囁く。


「ま、まさかの正体バレ展開ミュン……!!」


「……ねぇ、もしかして……魔法少女カナタって、彼方なの……?」


 沈黙。


 風が吹いて、スカートがふわりと揺れる。


 僕は、ただ――


「……バレたああああああ!!!?」


 しゃがみこんで頭を抱えるしかなかった。

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