六年一組のけものクラブ

佐藤ちり

第0話 プロローグ

 わたし、佐々木はるかはシンデレラではない。


 そう気がついたのは、小学生として最後の一年が始まる、始業式の日だった。


 うちばきを家に忘れてしまったわたしは、来客用のスリッパで階段を下りていた。

 靴下でスリッパを履くと、滑ってすぐ脱げちゃいそうになるよね。だから、わたしはつま先をなんとかスリッパに引っかけながら、ゆっくりと一歩一歩踏み出していた。

 それなのに、気を抜いた一瞬で、スリッパが脱げてしまった。


 ここでもう一度履き直したとしても、階段を下りるのにはまた時間がかかってしまうと考えたわたしは、脱げてしまったスリッパをそのままにして、とりあえず靴下のまま踊り場まで下りてみた。

 そして、生き残っていた右足のスリッパを脱いではじに寄せて、靴下のまま階段に取り残されたスリッパを取りに戻る。


 そのときだ。わたしがシンデレラではないと気がついたのは。


 もしわたしがシンデレラだったら、きっと白馬の王子様がガラスの靴______とは似ても似つかないけど、このスリッパを拾ってわたしに手渡してくれただろう。

 シンデレラじゃなくてもいい。もしわたしがお姫様だったら、こんなふうにひとりで困っているわたしを助けるため、王子様が駆けつけて来てくれるのに。


 それと比べて今は……。

 ひとりでスリッパを拾う自分がなんだかみじめで、どうか知り合いに会いませんようにと願ってしまった。


 素敵な王子様に一目ぼれされるなんて、ファンタジーだとは思うけど、どこかでそんなハッピーエンドを期待するわたしもいた。

 でもこれは今日で終わり。


 今日から六年生になるし、大人にならなくちゃとは思いつつも、わたしにはシンデレラのようなビビデバビデブーなミラクルはないと考えると、なんだかため息が出てしまう。


 でも、それは間違っていたのかもしれない。

 だれにだってチャンスは必ずやってくるよ、なんておとぎ語は、本当にあるのだ。


「佐々木さん」


 目の前に立つクラスの王子様がまっすぐわたしを見る。


「今日一緒に帰りませんか」


 運命の王子様がわたしの目の前に現れた。


「俺、佐々木さんと、仲良くなりたいんだ。佐々木さんのこと、いいなって思ってて」


 この手を取れば、わたしはプリンセスになれる。憧れのお姫様に。

 だって王子様に選ばれたんだから。それなら、わたしがやることはただひとつだ。


 そう、わかっていたのに。


 わたしはその手を取れなくて、再びこう思う。

 やっぱりわたしはプリンセスにはなれないのだ、と。

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