第19話 暗冥の泉
――須田とのダンジョン探索当日。待ち合わせ場所に行った俺は目を疑った。
現場には、聞いていた通りのC級シーカーらしき人が三人、D級くらいのシーカーが二人。
そして、須田と、
「あー!おはようございまーす!!」
とたとたと元気よく駆け寄ってきた小柄な少女。この顔は、見覚えがある。
美人過ぎるシーカーと言われ、モデルとして活躍もしている動画配信者。
亜麻色のツインテールを揺らし、彼女は頭を下げた。
「初めまして、動画配信者のミルティーです!今日はよろしくお願いします、佐藤 歩さん!」
「……よ、よろしくお願いします」
彼女はチャンネル登録者数、300万人越えの人気インフルエンサー。こんな子が来るだなんて聞いて無いぞ、俺は。
俺と目が合った須田。こちらへ歩きてきた。そして須田は俺へとこう切り出した。
「あ、佐藤さん」
「さんはやめて」
あの一見後、深い謝罪と共にありえんくらい腰が低くなった須田。あまりにキャラが違い過ぎて誰だよってレベルだった。
「そ、そうか?なら、佐藤……今日は来てくれてありがとな」
「いや、まあ契約してるからね。っていうか、お礼を言うのはこっちの方だろ。誘ってくれてありがとう須田」
――どうして、あの攻撃を防げたんだ?
あの日、須田は謝罪に家へ訪れた時、そう聞いてきた。
「それは、殺気を感じたから。あの距離でなら反応できる」
「……殺気……だが、お前はあの武器を持っていた。例え反応できたとしても、防げるとは限らないだろ。賭けにでたのか?」
「いや、防げると思ったよ。俺はあの瞬間確信していた」
「……なんだと」
「須田は無意識に放っているから気が付いていないんだと思うけど、あの時の『矢雷』は本来の火力には遠く及ばない威力だった」
「!?」
「あの技は確りとした魔力のタメがあって初めて高威力の雷になるんだ。あの時、須田は焦るあまり十分な魔力のタメを作らず速射した。だから、魔力量的にパリィができると思ったんだ。……まあ、手を魔力ガードで集中的に覆わなければ手は消し飛んでいたけどね」
「…………まじかよ……」
目をまん丸に見開いて呆然とする須田。
更に言えば、あれはタイミングが最も重要だった。けど、俺はそれを合わせられる自信があった……これまで彼の『矢雷』を今まで何度も見てきたから。彼の放つその雷撃は、スキルのない俺には羨ましく眩しかった、その軌道と速度は脳裏に焼き付いていてずっと離れない。
だからこそ、ぴったりとタイミングを合わせパリィができたんだ。
――とまあ、その時から須田はこんな感じだった。
「……で、須田。なんでここにあの人が?」
「ああ、それなんだが。実は、今日のダンジョン探索は一緒に動画撮影をしようと思って組んでてな……」
「俺、そんな話聞いて無いんだけど」
「すまん。だが、もう組んじまってた以上断るわけにもいかなくて」
「……はあ、仕方ないか」
「悪い」
要するに今日のこれはライブ配信のために組まれたダンジョン探索だったってわけだ。
黒緑竜を倒したってことで話題の須田。美人で大人気配信者のミルティーさん。
そして、ダンジョン遭難帰還にスキル無しからのスキル発現+初回認定C級で注目されている俺。
世間で注目度の高い三人を使って数字を稼ごうってわけか。いや、俺だけちょっと目立ちすぎてないか?嫌なんだけど。
……ま、でも一度引き受けた仕事だしな。一日くらいは客寄せパンダにでもなってやるか。出来る限りひっそりと。
「今日のミッション説明を始めます。皆さん、集まってください」
パーティリーダーが集合を掛け、集まり各々自己紹介をした後今日のダンジョン攻略についての話をした。
その内容は一層を今日で全て地図に起こしてしまいたいというもの。だいたい八割程度が完了していて、あとは二層へ続く道だけだという。
ちなみに一層は魔物はほぼ出てこないらしい。なので、思う存分ダンジョン内を配信していいとの事。
須田とミルティーさんが小型ドローンを起動させ飛ばした。ドローンの下からは垂れ幕みたいな感じでホログラムのチャット欄が表示されていた。
流れる無数のコメント。そしてそれに返事を返している二人。どうやら配信が始まったようだ。
(……ああいうのも金になるんだろうな。やろうとは思わないけど)
そんな事を考え最終準備をしていると、ダンジョン突入五分前に。
ちなみにアリスは俺の部屋で本やネットで現代魔法の知識を調べ貪っている。スキルレベルを上げたら別行動ができるようになったので置いてきた。俺の側に拘束して連れまわすのも可哀そうだし。
肉体があったらお菓子でも食いながら寝そべってそうなくらいだらけてたな。だらだらと俺のベッドの上で本を寝転んで読んでた。
「あの」
「!」
先生から譲ってもらった杖から巻いた布を外し武器を準備していると、ミルクティーがひょっこりと現れた。上目遣いで可愛らしく俺の顔を覗き込む。この角度、口角の上げ方……あざといな。
側を浮くドローンに目をやると一時停止されているようだった。
「あたし、ニュース見ました。ダンジョンで遭難されたんですよね。お身体の方はもう大丈夫なんですか?」
「あ、はい。まあ、大した怪我も無かったので……」
……これは、もしかして動画のネタに中層の話とか聞きたいのか。
「そうですか、なら良かったです。今日は私がちゃんとお守りしますので、安心してくださいね!こう見えてC級の先輩なんで!」
「え、そうなんですか」
「あー、その顔!もう、そんなに驚かないでくださいよ!」
頬をぷくうと膨らませるミルティーさん。ウザあざと可愛いな。
彼女は携帯を取り出し、自分のデジタルシーカー登録証を表示させてみせた。そこにはしっかりC級と記載されていた。
「ねね?」
「……本当だ」
「まあ、結構そういう反応されること多いんで慣れてるしいいんですけどね。ってか、動画のネタにもしてるし。『美少女が実は中級シーカーだったら!?』みたいな街の人をびっくりさせるリアクション企画」
「へえ、そうなんですか……」
「ちょ、反応薄っ!!今度あたしの動画みてみてくださよ~」
どん、と軽く体当たりをされ困惑する俺。こういうの、ちょっと反応に困る。
「ってなわけで、リラックスして楽しんでいきましょうね!」
「あ、はい……」
そう言って彼女は、手を振り須田の方へ行ってしまった。明るい子だな。
……なんだか、誰かに似ているような気がする。彼女と話していると不思議な既視感がある。
ダンジョン内へ突入。ごつごつした洞窟を列になって歩いていく。
先頭はリーダーであるC+級シーカーの男性、大北さん。近接戦闘のスペシャリスト。その次にE+級の須田でDの木村さん、多田さん、C級ミルティーさん。C+級俺。後ろにC-級高尾さん。
ちなみにいうとこのシーカーランクは絶対的な強さというわけではない。経験、ノウハウ、状況、相性やその日の調子になんかよってもシーカーの優劣は変わってくる。
だから、C級のミルティーさんがC+級の俺より強いってのも十分にあり得るってわけだ。
(ま、大北さんはぱっと見だけで勝てそうにないことはわかるけど。纏うオーラが今の僕と比べ圧倒的に格上だ)
わいわいと雑談をしながら歩く一行。まるで遠足かのような和やかな雰囲気だ。
魔物がいないからって事なんだろうけど、ちょっと緩すぎやしないか。
一時間くらいが経過した頃、奥の方に光が漏れ出しているエリアがあるのを見つけた。
「つきました、湖畔エリアです」
そこは巨大な地底湖だった。透き通った青い湖。空にある雲のようなガスの隙間から、光が差し水面へと反射している。暗い洞窟でキラキラと光るそれは幻想的で美しく、中層の夜空を思い出させた。
「おおおお、すっげえな!!」「きゃー、めっちゃ綺麗ですね!!」
ライブ配信中の須田とミルティーさんのテンションがぐんと上がる。
最近発見されたばかりのEランクダンジョン『暗冥の泉』はこれが映像に納めるのは世界初だという。
「どうですか」
大北さんが俺の隣に来る。筋肉質でごついので近くにいるとちょっと圧があって怖い。190あるらしい。しかしその体格とは正反対に優しい性格をしている。
道中もなんども俺達に疲れてないか確認してくれてたり、疲労回復の飴玉をくれたりしていた。
「凄いですね。降り注ぐ光がオーロラの様で圧巻の景色です」
「そう言っていただけると頑張って未開ダンジョンを調査した甲斐があります」
未開のダンジョンは危険が多い。大抵は低ランクの魔物が現れる低階層が入口となっているが、稀にいきなり下層に通じている物もあり、最初に突入するシーカーはまさに命がけである。その分、手付かずの資源が豊富で得もあるが。
「ほんと、開拓者の方々には頭が下がります」
「いえいえ。しかし、此処にはもっと凄いエリアがあるんですよ。奥の方なんですが」
「そうなんですか?これ以上の?」
「はい、無数の滝がある場所で虹がそこら中に掛かっているんです。初めて発見した時は見惚れてしまいましたよ」
「「ええ!?そんな場所があるんですか」」
「うおっ」
いつの間にか俺と大北さんの会話を聞いていた須田とミルティーさん。目を輝かせながら大北さんに詰め寄る。
「あ、は、はい!二時間程歩かなければならないんですが。あと他にも結構見どころが……全部まわるのであればもう出発した方がいいですね」
「行こうぜ!!今同接15万いったとこで良い感じなんだよ!!早く次の絶景に行こうぜ!!」
「行きましょう行きましょう!!チャンネル登録者もぐんぐん伸びてきてます!!」
「俺もSNSでバズってるぜ!!」
「あ、ホントだ!良い感じですね、この勢いでどんどん伸ばしましょう!!」
二人とも楽しそうだな。まあ上手くいっていて何よりだけど。
(しかし妙な感じがするな、ここ)
この地底湖、これだけ濃い魔力のガスが天に掛かっていてるのに、魔物の気配がない。
普通は魔力の濃さに比例して魔物は出現するんだが。
「ねね、佐藤さん」
「はい」
ミルティーさんが隣を歩き始めた。
「あとでSNSにアップするようの写真撮っていいですか?大滝の前とかで」
「……わかりました」
「あ、もしかして写真NGです?」
「まあ、あまり得意ではないですけど」
「ふんふん、成る程。わかりました」
「まあ、でも配信で既に映っちゃってるので別にいいですよ」
「そうですか?やた」
手を合わせて微笑むミルティーさん。
「でも、SNSに投稿するのはやめときましょう」
「え?」
「個人的な記念写真という事で。えへへ」
「……いいんですか?そんな感じで」
「はい!SNSに上げられるの嫌って気持ちあたしもわかりますから。経験あるんですよ、勝手に撮られてSNSに上がっててびっくりみたいなの。無断でって地味にショックなんですよねー、はは」
「苦労されてるんですね」
「まあそれなりに。でも、この道を選んだのはあたしなので受け入れてますけどね。佐藤君とは違って、意図的に目立ってそれをお金に変えている。しかも、シーカーという立場を使って。色々言われても仕方がないです」
シーカーの役割は本来、ダンジョンを管理し人の暮らしを守ること。命がけの仕事だということもあり、こうした娯楽のための配信は人気の反面避難する人も多い。
けど、なんでそんなリスクを取ってまで配信をするんだろう。須田は完全に承認欲求モンスターと化してるけど、ミルティーさんはなんとなくそうは見えない。
「……なんで配信をやり始めたんですか?」
視線が左右に泳ぐミルティーさん。唇に指を触れ一瞬何かを思案する仕草をみせた。
「……ちょっと重い話になるんですけど、そういうの大丈夫ですか」
「え、ああ、はい」
「実はあたし、歳の離れた弟がいて」
え?……あ、話始めちゃった。別にそれなら話さなくてもいいですよの「はい」だったのを許容する方で受け取っちゃったか。ほんとは同業の身の上話とか聞かないほうがいいんだけど。ここで止めるのもあれだしまあいいか。
「弟さんが」
「はい。小学生の弟なんですが、数年前突然、意識不明になってしまって」
「意識不明?」
「色々と検査したところ、どうやら魔力が原因みたいで」
「……『魔力中毒』による昏睡状態?」
「ええ、そうです。そう最終的に診断されました。体が許容量以上の魔素を取り込むことで発症する症状。専門施設で治療を受けてるんです。回復の見込みは無いんですけどね」
年々ダンジョンが増え、そこから漏れ出す魔素によるこうした被害は多くなった。彼女の弟さんもまたその被害者か。
「専門施設での治療となるとかなりお金がかかるんじゃ」
「はい。なので頑張ってこうして稼いでます」
「それで、配信者か……」
「今ブームが来ていてかなり再生数回りますからね!すごい稼げますよ!どうです、佐藤さんも一緒にやりませんか?」
「え?……あー、いや。俺はそう言うのはあんまり」
「えー、そうですか?一緒にやりたかったのにぃ」
とん、と体当たりしてくるミルティーさん。やめろ。そのスキンシップは無駄に心が揺れる。
っていうか、冗談で誘ってんだろうけど、こういう絡み方対応困るんだよやめれ。
と、内心困り果ているとミルティーさんの笑顔に陰りが見えた。
「……ま、ホントは高ランクの任務で稼いだ方がお金にはなるんですけどね。でも、弟残して死ぬわけにはいかないんで」
「え?」
「ウチ、両親がシーカーで、数年前ダンジョンで死んだんです。なので家族は弟だけ。弟にとっても家族はあたし一人。あたしが死んだら、弟が困るんです……なので、こうしてランクの低い比較的安全な任務で配信してるんですよ」
なるほど。そして低いランクでも配信なら稼げて弟さんの治療費代にはなると。だが、いくら稼げるのかはしらんけど、多分きついだろうな。
専門施設での治療費ってとんでもなくかかるから。俺がこの間まで入院していたとこがまさにそこで、たった一週間程で数百万。
そこで数年生……生命維持装置とか色々な治療をされていると考えると……いや、考えたくない。ぞっとする。
ウチレベルの借金は無いだろうが、それに似た恐怖を感じる。なんか変なとこで親近感が……。
マジで大変な状況で頑張ってるんだな、この人。人は見かけによらんというかなんというか。
「まあ、そういう感じなんでアンチも多いんですけどね」
「え、そうなんですか?」
「C級ならCランク以上のダンジョンにいけ!楽してんじゃねえ!とか、もっと強い魔物と戦えよ雑魚!とか、書き込みされてるのをよくみますからねぇ、はは」
「そんなことを……よく心折れませんね。流石C級シーカー」
「いやいや、心はいつも折れてますよ」
「あ、折れてるんだ……」
「あはは、はい実はばっきばきだったりします。でも、弟のこと考えるとまた復活するんですよ。こう、しゃきーんって折れた心が!」
「……くっ、くく」
両手を合わせて点に突き出すミルティーさん。きりっとしたそのどや顔に俺はおもわず噴き出してしまった。
「あー、なに笑ってんですか!いいこといったのにぃ!!」
「や、ごめん、ふふ」
「むむむー。……ふふ、あはは!なんかあたしまで笑けてきちゃった、あはは!」
謎にツボに入ったようで腹を抱えて笑うミルティーさん。それをみて更に笑いがこみ上げてくる俺。なんだこの笑いの循環は。
彼女はひとしきり笑った後、目尻の涙を拭い俺をみた。
「ね、今度弟の顔見に来てくださいよ。中央の魔力研究施設」
「あ、そこ俺がこないだまで入院してたとこだ」
「え、そうなんですか!名前は鈴木 蒼汰っていって、すっごく可愛い顔してるんですよう。もしかしたら将来アイドルになれちゃうかもーみたいな?」
「へえ……なら、お姉ちゃんのチャンネルでコラボ配信とかできるかもね」
「あ、それいーかも!企画力ありますねえ!さっすが佐藤さん!」
「いや別に企画提案してないけど」
「しかしそうなったら三人で何しますかね」
「うーんゲームとか?いや、待って三人?」
「あたしと、弟と、佐藤さん!」
「さらっと加えられてる!?」
また笑い出すミルティーさん。三人でってのは冗談だろうけど、未来に希望を抱くのは重要だ。シーカーがシーカーとして生きていくには尚更。
ミルティーさんがこちらに顔を向け、微笑む。
「でも、いつか弟の目が覚めて、ホントにそうなったらいいなぁ」
「……きっとそうなるよ、頑張ろう」
「うん、ありがとうございます。じゃあ佐藤さんの出演決定って事ですねえ」
「え、それは冗談でしょ?ムリムリ」
「えー?いやいや、やりましょーよー」
きらきらと希望に輝く彼女の横顔を見ながら、中層での事をふと思い出してしまった。俺は彼女の気持ちがわかりすぎてしまう。儚い夢を見るその眼差しに、俺の姿が重なった。
(……諦めないことが大事だからな)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます