第11話 ハンバーグ
「――ちょっと、歩。なんでこんな時間まで起きてるの?」
日付が変わる寸前。母さんが仕事から帰ってきた。
半分寝かけていた小学六年生の俺。机に突っ伏していた俺は、涎を拭い立ち上がり、目をこすりながら準備を始める。
「ふぁーぁ……おえりなさい、お母さん」
「お帰りじゃなくって。明日学校でしょう、寝ないと」
「……うんー」
「うんーって、ちょ……ちょいちょいちょーい!待って、なんでレンジ回しだしたの!?」
――チン
俺は温めたそれを電子レンジから取り出す。火傷しないように慎重に。
コト、っと机の上に置いたそれは。
「……え、ハンバーグ?これ、歩が作ったの?」
「そう。そんで、こっちは買ってきたやつだけど」
「ケーキ」
ぽかんとしてる母さん。冷蔵庫の中から俺が取り出したのは、母さんの大好きなモンブランケーキだった。
「んで、これ」
「ハンカチ……」
そこまでしてやっと俺のしてる事の意図に気が付いた母さん。
「誕生日、おめでとう。いつもありがと」
「……歩」
涙ぐむ母さん。なんだか照れくさくて俺はごまかす。
「まあ、でもそれ俺が刺繍したやつだからさ。ハンカチも安物だし。ごめんね」
「へ?こ、これ……歩が、刺繍したの?すごいじゃない!わぁ」
涙を止めることに成功したはいいが、今度は違うベクトルで恥ずかしくなってしまった。
「……や、まあでも、そのうちさ。俺がちゃんとしたの買ってあげられるようになるから」
「ふふ。ありがとう。でも、母さんこのハンカチすっごく嬉しい」
「そう?結構下手くそになっちゃったから……」
「確かにそうかもね。ここの花柄もちょっぴり歪んでる。でも、これが良いのよ」
「え、そう?」
「うん。そう。この手作り感がね、母さんのために一生懸命作ってくれたんだって。温かい気持ちになるから。気持ちが嬉しいんだよ」
「……気持ちが」
「そ。このケーキも、手作りハンバーグも、こんな時間まで頑張っておきててくれたことも。全部が大切な想い出で、母さん嬉しい」
苦しい中で、それでも一つずつ重ねた日々。大切な記憶。想い出。
それは俺にとってかけがえのない物。
――ガキィイイイインン!!!!
「――ぐっ、おおおあ!!?」
目にもとまらぬスピード。デュラハンの大剣の振り抜きに俺は吹き飛ばされ、後方の壁へとぶち当たる。だがその威力は途轍もなく壁をぶち抜き、俺は二部屋向こうへと飛ばされた。
「……が、は……くっ」
……な、なんだこの力は……!?
デュラハンが現れ、漆黒の短剣を二刀にし構えた瞬間。デュラハンの魔力が跳ね上がった。
これまでに会ったどの魔物より遥かに強大で禍々しいオーラ。
身体強化系スキルをフル活用して、奇跡的に攻撃を受けれた……完璧なタイミング。だったのに……完全に力負けして吹き飛ばされた。俺では勝負にすらならない異様な膂力。
「……ぐ、く……ってえ……『ヒール』」
痺れた腕、折れた指……口からこぼれ落ちる赤い血液。
(ガード越しなのに、衝撃が体の芯まで駆け抜けダメージが……どんなパワーだよ)
向こうでウルが必死にデュラハンを引き付けている。しかしあの猛攻、数分と持たないだろう。俺は急いで立ち上がる。
しかしその時、吐き気が襲ってきた。
(……っ、……)
死への恐怖。強くなり薄れかけていたそれが、臓腑の底から湧き出す。
そして、これは今までのそれとは比較にならない程の強大なものだった。
あのデュラハンはどういうわけか、力を増し数段上の強さになった。この中層に来て初めて目の当たりにする本物の化物。
そして、
(……今の、一撃で理解させられた……あいつは、俺より遥かに強い)
今、俺はこれまでのどの窮地よりも死に近い場所にいる。
強くなったからこそ、はっきりわかる。今の奴には絶対に勝てない。
震える指と脚を必死に抑え込み、叫ぶ。
「――ウル!!逃げるぞ!!!」
魔力の塊は惜しい。だが、それ以上にウルの命の方が大切だ。
俺の声に反応し、踵を返したウル。
俺も出口を目指して部屋の壁を破壊し、最短ルートで向かう。
「……な、に……」
外には出られなかった。出口を覆う高位の結界。
さっき出口の結界は破壊したはず。しかし、今ここに張られているのは古城全体に巡らされているものと同じだ。
これは『千里眼』で調べた時、古城自体に刻まれている術式だったのがわかった。建物に直接刻まれているタイプの結界。正面扉もそうだった。
(……扉が破壊された時、もう結界を張られることはないと思った。なぜなら結界術というのは組むのに時間がかかる上、繊細な魔力コントロールが必要で難易度が高い術だからだ。だからこそ中に入っても閉じ込められることは無く、逃げられると思っていたのに……この僅かな時間で)
これは、このデュラハンの能力なのか?……いや、聞いたことがない。そんな力を持った個体なんて……。
――ガシャン……ガシャン……
ゆっくりと近づいてくるデュラハン。
更に魔力が増幅され、その鎧の形状が変化していた。俺の『彗星』で斬り落とした腕も再生され、本来頭のないはずのそこに二本の角のような装飾がある兜が出現していた。
目と口の部分から黒い煙が噴き出している。
まるで闘気を放つ黒い鬼か悪魔だ。
凄まじい圧力。奴の放つ魔力だけで気を失いそうになる――。
汗が噴き出す。のに、寒気が止まらない。
(……高位結界を使えるという事は、Bレート以上……いや、Aクラスか……?)
ガチガチと奥歯が鳴る。初めて対峙する本当の化け物に、俺は発狂しそうになる。
しかし、
「わんわん!!」
横から飛んでいくウル。敵の気を引こうと駆け回る。それに反応したデュラハン。
瞬間、ウルの腹が蹴り飛ばされ内臓が飛び散る――
「――ウル!!!」
映像が脳裏に過り血の気が引く。それと同時に気が付くと俺は『外套』を纏いデュラハンへ飛びかかっていた。
(死なせない死なせない絶対に死なせない!!!!!!)
デュラハンの拳が頭目掛け飛んでくる。それをすれすれで躱し、頬が裂け鮮血が舞う。
弱点である頭部が兜で隠れている。だが、兜の目の隙間、そこから短剣伝いに『魔弾』をフルパワーで撃ち込めば……!!
そう目論むもデュラハンの動きは俺を軽く凌駕していて、隙間を狙うどころか攻撃をまともにあてる事すらかなわない。腹部へ蹴りが当たり、またも壁へ直撃大きく城が揺れ埃が舞い落ちる。
「――『ヒール』、『ヒール』!!」
叫ぶように魔法を数度発動し、痛みも無視し再び立ち向かう。俺ですら躱せない攻撃。ウルがいつ被弾してもおかしくない。ウルにはさっき『付与』スキルを使用しバフをかけている。
だが、今のデュラハンの火力の前ではそれも殆ど無意味。
脳裏にさっきのシーンがまた過る。
あれはおそらく『直感』による予知に近い予測。
(絶対にやらせるわけにはいかない!!)
『彗星』を出現させ、斬りかかる。運よくヒット。だが、あの時のように斬れない。
(――纏っている魔力が膨大過ぎて『彗星』ですら刃が通らない!!?)
「くっそ……!!!」
魔力をフルに使用し、持てるスキルを全て駆使し応戦する。だが、全ての攻撃に対応してくるデュラハン。
何度か致命傷一歩手前の攻撃を受け、幾度となく死線を潜る。
しかし、そのたびに少しずつ僅かにだが俺も攻撃速度に慣れ切り結ぶことができるようになってきた。
(――けど、……魔力が、もう……)
底をつく。
――ドゴッ
躱しガードし、後手に回り続け、後が無くなった一瞬の穴。
魔力密度が薄くなった部分へのデュラハンの一撃がヒット。
それにより俺の腕が千切れ宙を舞った。
「――……ッ、ぎゃああああああ」
激痛。瞬間、意識が飛ぶ――
衝撃と浮遊感、そしてまた衝撃。何かが崩れ落ちる、音。
――ウルの……悲鳴がした。
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