平凡なまま死ぬ
福原そら
俺◯◯
とにかく飽き性。俺を一言表すとしたらこれだ。うん、絶対そう。何をしても数カ月でやめてしまう。せいぜい長続きしたのは魚捕りくらいか。まぁそれも同業者に川場を取られたことを機にやめてしまったが。そんなこんなで平々凡々な生活を送ってきた俺はもういい年だ。今年で何歳になるだろうか。それすら数えることをやめてしまった。まったく生き物というものは恐ろしい。何かしたいあれやらなきゃと思ううちにあっという間に年をとっている。今日も何もせずゴロゴロして終わるのか…。このままだと俺は平凡なまま死んでしまう。危機感を感じていないわけではないが特に何をしたいという訳でもない。何か行動を起こすきっかけさえ降ってきてくれれば良いのだ。いつまでたっても受け身だから何も始まらないのは分かっている。でもそれが心地よいのが悪いのだ。そうさ、俺は悪くない。このままでもいいではないか。
どれくらい寝ていただろうか。太陽は一番高いところにある。まだ頭がぼんやりしながらものそりと起き上がる。腹が減った。何か食わねば。俺はその辺の道を歩き始めた。ふと角を曲がると、いつも「おすそ分け」してくれる近所のおばあちゃんに出会った。少し遠いがばあちゃんを呼んでみる。どうやら遠すぎたのか、おばあちゃんは俺に気づかず家に引っ込んでしまった。ちぇ、耳が遠いばあちゃんだぜ。
どれくらい歩いただろうか。そろそろ腹が減って倒れそうだ。ふと横をみると狭い路地がある。ごみ箱が倒れてる。俺は藁にでもすがる思いでふらふら歩いていった。倒れたごみ箱から飛び出たよく分からない袋を漁ろうとしたその時—バサバサバサッと大きな黒い物体が降ってきた。その黒い塊は真っ黒な目で俺を睨み、ギャーッと大きな声を上げた。俺は思わず飛びのき、負けじとシャーッと叫んだ。
どれくらい時間が経っただろう。俺とあいつの戦いは日が沈むまで続いた。もうくたくただ。結局えさにはありつけず体もボロボロだ。俺—このまま死ぬのかな…。全てを諦めゆっくり瞼を下ろした時、
「あー!!ねこちゃんだ!かわいい!」
なんだ?俺に言ったのか?
「あら、可愛い黒猫。ゆうちゃんこっちおいで。ばい菌があるかもだから触ったら駄目だよ。」
俺のことをばい菌呼ばわりするなんて…生意気な野郎め。
「まま!このねこちゃんけがしてる!」
「あらほんと。かわいそうにカラスにでもやられたのかしら。」
俺は警戒する気力もなく、じっと小さい人間の目を見つめる。
「ねぇまま!このこあたしがかう!ペットにする!」
「えぇ?でもゆうちゃん猫ちゃんを飼うのはすごく大変なんだよ?それにこの子、大分弱ってる。」
「うん、いいの!このこのおめめとってもきれい!!ゆうがおともだちになる!」
小さな人間に抱き上げられて少し目線が高くなる。あぁ、あたたかくてなんだか眠い。今日はいつもと違った1日。なんだか平凡な俺の生活が変わる予感がした。頭を撫でられ、あくびと共ににゃあんと小さく鳴いた。
平凡なまま死ぬ 福原そら @soramoyo
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