第3話 サチホちゃんとの初練習
俺とVoが部室に行くと、既にDrとサチホちゃんが居て、何か喋っていた。他に先輩が2人、タバコを吸ってギターマガジンを見ながら、何かに対して文句を言っていた。楽器を弾いてる人はいなかった。俺らが部室に入ると、
「練習かぁ、じゃあレコ研行くかぁ、」
「いや、もうゾウさんとかミッチー先輩とか来てて麻雀やってたよ。」
「あそこは麻雀やる人しか行かないから。」
「じゃあうるせーから学食行かない?」
「混んでない?この時間。」
とかなんとか言いながら、出ていった。練習が始まるとマイクを使わないと会話できないほどの爆音になるので、よっぽどそのバンドを聴きたい人以外は、部室を出て行くのが普通だった。
「Bはまだ来てないの?」
「まだ来てない。今日は少し遅くなる授業の日かなぁ?」
「なんか合わせてようか?ベース無しで。」
「あーやってようか。Voさぁ、ベースぐらい弾けるでしょ?」
「いやー無理。ギターは絶賛練習中!AmとCだけ押さえられるようになった。」
「サチホちゃんは?ベース弾ける?」
「うーん、合わせる程度ならいけるかなー?」
「じゃあ俺がドラムじゃなくてベース弾こうか?」
「ベース弾けるの?」
「いちおう弾けるかな、ぐらいだけど。高校の時、キーボード以外はひと通りやったんだよねー。」
「じゃあサチホちゃんドラム叩いてよ。」
「わー、嬉しい、さっそくやれるなんて!」
「20thセンチュリーボーイ聴いた事ある?」
「Tレックス?」
「そうそう!」
「知ってる知ってる。それとゲットイットオンだけは唯一知ってる。」
「テレグラムサムは知らないの?」
「あーそれも聴いた事ある!バウハウスがカバーしてたよね?」
「そうそうそう!うちのバンドはそっちバージョンでやってたよね。」
「でも、今やるのはセンチュリーボーイ。」
「そう。一曲目にジャムるのに1番良い曲なんだよねー。盛り上がるし!」
とかなんとか言いながら、各々楽器をアンプに差して、チューニングしたり、エフェクター繋いで音色の調整したり、マイクをセッティングして、他のアンプとハウらないように位置や向きを変えたり(狭いので、色んな所ですぐハウリングする)、シンバルやハイハットの高さを変えたり、試して音を鳴らしたり、いろいろ準備していく。そのうちにフレーズをいろいろ弾いていく。そのフレーズに合わせてドラムを叩いたり、また高さを調整したり。またそのうちに俺がギターで20thセンチュリーボーイのリフを弾き始める。他の楽器はまだいろいろやってて合わせない。俺はアドリブで、ソロのような、フレーズのような、カッティングのような感じで、しかしコードはセンチュリーボーイのコードで色々弾いていく。セッティングに納得のいった他の楽器は、これも適当にそのコードで演奏していく。そろそろみんな準備OKかなーと思ってた矢先に、ドラムのサチホちゃんがスネアの連打から、短いドラムソロみたいなのを叩いた。来たー!サチホちゃん勘がいい!そして、そのブレイクのタイミングで、俺はあの有名な出だしのギターリフを弾いた。サチホちゃん、テンポもピッタリだった。俺たちがよく合わせてたテンポだ。
そこから、しばらくそのギターリフと、各々のソロをやってまわしていった。全然Aメロに入らなかった。まず俺が散々ギターソロをやる、Drは思ったよりベースが上手くて、簡単なソロっぽいのも弾いていた(すぐ通常パターンに戻ってたけど)。
驚いたのはサチホちゃんだった。ドラムめちゃくちゃ上手い!テクニックだけならDrより持ってる。手数もめちゃくちゃ多い。叩いて叩いて叩きまくってた!こんなに上手いとは思わなかった。それも凄い気持ち良さそうに叩いてる。
イントロだけでけっこうな時間やって、ようやくVoがAメロを歌い始めた。Voにしては珍しく、英語の歌詞を覚えてる。俺でも覚えちゃうぐらい、何回もやってるからかなー。それにしても気持ちいい。最近、この曲をジャムってる時が1番幸せだ。
やっと曲が終わったと同時にBが部室に入ってきた。
「やっぱりサチホちゃんが叩いてたのかー、いつもと違うと思ったよ。」
「めちゃくちゃ上手くない?彼女。」
「上手い!」
「なんとかこのドラマを活かしたいよね。」
「やっぱりダブルドラムかー!」
「いや、それよりもサチホちゃんをドラムにして、俺がボーカルになって、ツインボーカルは?」
「じゃあ、俺はラップメインでやろうかな。」
「え?ラップ出来るの?」
「いや、やった事はないけど、ちょっと興味あるんだよね。」
「スチャダラみたいなやつか?」
「いや、ムロくんじゃない?」
「イーストエンドプラスゆり(笑)」
「Mキャットさん(笑)」
「タイニーパンクスだ!」
「近田春夫!」
「佐野元春!」
「あ、い、をこめーて、コンプリケイションブレイクダーウウンーーー!」
「はい、その辺にして、そろそろやろうか。まず一通りやっていくか。最初はマテリアルイシューやろう。」Bの仕切りで、いつもの練習がスタートした。
そこから丸々2時間練習して、また帰りにモスに寄っていた。
サチホちゃんは、あの最初の一曲以外はドラムを叩くチャンスは無かった。適当にコーラスしたり、ただ聞いてたり、時々外に出て、タバコ吸ったりしていた。
だから、モスではサチホちゃんのドラムをどう活かすか?の話になっていった。
「やっぱりさー俺がボーカルに移って、Voがラップするのが1番みんなの望み通りじゃない?」
「うーん、サチホちゃんのドラムは凄く良いんだけど、俺の作りたいバンドのイメージと少しズレがあるんだよなー。いや、サチホちゃんは悪くないんだよ、むしろ良すぎなんだけど、」
「あー、サチホちゃんいじめるなよー。」
「いやいや、全然違うよ、悪く言いたいんじゃなくて、何ていうか、」
「いえいえ、私は全然気にしないんで、正直に言って下さい。」
「ていうか、お前の作りたいバンドって、どんなのなの?」
「イギリスのギターバンドだよね。ビートルズから続く流れの、正統派ギターバンド。」
「ビートルズみたいなバンドがやりたいってこと?」
「ビートルズみたいではなく、その流れの上で、その歴史にそってて、その現代版というか。」
「要は今だとストーンローゼスとかプライマルスクリームとかだろ?」
「ハイヤーザンザサン、太陽よりも高くもっと高くか。」
「ビートルズの流れというと、次のバンドは何だったの?Bの解釈だと。10CCとか?」
「Tレックスとかデビットボウイかな。そしてジャム、スタイルカウンシル。で、スミス、アズテックカメラとかのネオアコがきて、その後がプライマルスクリームとかストーンローゼスとかのセカンドサマーオブラブ勢。」
「あーそういう流れね。何となく分かるような。」
「えーサチホちゃん分かるの?俺は全然わからない。」
「私のドラムはその路線よりも、少しファンク色が強いかもね。」
「そうそうそう、そういう意味だよ。決してサチホちゃんを悪く言いたかったわけじゃなく。」
「ファンクよりもまだテクノっぽい方がイメージに合うんじゃない?」
「そうそうそう、さすがサチホちゃんはよく分かってるね。」
「ても惜しいよねー、あのドラムを潰すのは。」
「いや、潰すわけじゃなくて、」
「じゃあさー、別のバンド組めば良いんじゃない?別ユニットというかさ。」
「別のバンド?」
「そうそう、サチホちゃんのドラムを活かすバンドで、サチホちゃんのやりたい方向性のバンド。」
「サチホちゃんはどんなのやりたいの?」
「そうねー、インストでも良いかなー、ブランニューヘビーズとか、ブラックバードとか、ギルスコットヘロンとか。」
「いやー全然知らない。」
「まあ、Drは知らないだろうなー。」
「俺は手伝うこと無さそうだなー。外から応援してるよ。」
「アシッドジャズだね、流行りの。」
「そう言われると、ちょっと恥ずかしいんだけど、流行りに乗ってるみたいで、」
「ジャミロクワイ!ガリアーノ!」
「そしてオリジナルラブだ!」
「天才、田島貴男!」
「いや、あれは事務所の社長がやらせてるらしいよ。何だっけ?元東京ロッカーズ系の人。キングコブラだっけ?」
「全然わかんねぇよ、お前らのオタクぶりには呆れるよ。」
Drはわからない話ばかりで、飽きてきていた。
「その辺好きなやつ知ってる?」
「Bはその辺も大好きだろ?ベースやってあげれば?」
「そうだねー、やってもいいけど、まずは自分のバンドを固めたいかなー。」
「冷たいねーお前は、サチホちゃん嫌いなの?」
「いやいや、そういう訳じゃないよー!サチホちゃん違うからね。」
「私ショックですー(笑)。」
「あー!泣かすなよー女をー!」
「いえいえ、冗談です冗談。」
「ベースは毛布さんはどう?うちのサークルで1番上手いベースだし、横ノリも好きでしょ、チョッパーも凄い上手いし。」
「先輩じゃん、先輩がいると俺緊張するんだよなー。」
「え?G、お前入るつもりなの?」
「え?ダメ?俺だってガリアーノとか初期のアースウインドアンドファイアとかカーティスメイフィールドとか好きだよ。」
「アシッドジャズとファンクとニューソウルとごっちゃにしてる感じだけど、近いのは近いか。」
「そういうさージャンル分けして頭でっかちになるのは良くないよ、良くない。」
「Gさん、一緒にやりましょう、お願いします。」
真正面から見つめられて、少し照れたかもしれない。
「ほ、ほらーサチホちゃんが良いって言ってるんだから、良いんだよ!」
「Voはベースはー?弾けないんだよね、ごめんごめん。」
「俺、、、そのバンドにラップで入れないかな?インストメインでも良いけど、たまにラップ入れたらカッコよくない?ターンテーブルでやるだけがヒップホップじゃないよ、生演奏にラップ入れるのもカッコ良いと思うんだけど。」
「めっちゃ良いと思います。トーキョーナンバーワンソウルセットとかのフレーズを生で弾く感じですよね?」
「そうそうそう、アメリカにもたまにいるんだよね、そういうの。ザルーツとか。」
「そのグループは知らないですけど、けっこう著作権関係が厳しくなりつつあって、サンプリングするのにも金がかかるようになるらしいですよ、アメリカでは。」
「そうなんだ、じゃあ余計、生演奏にラップが流行るかもよ、」
「じゃあそれでいこうか。」
「メンバーはサチホちゃんがドラム、Gがギター、Voがラップ、あとはベースだね。」
「キーボードというか、オルガン的なの欲しくない?ジミーハモンドスミスみたいな。」
「いーねー。オルガンジャズ!入れようよ。」
「いるかなぁ?ディープパープルとかTMネットワークみたいなキーボードなら、いっぱいいるけど。」
「そうだねー、ベースは別に適当でもいいけど、ジャズオルガン系のを弾く人はなかなか、、、」
「いえ、ベースは大事です。まず私のドラムとベースでノリを作るのが、こういうジャンルでは大切だと思うんで、ベースはこだわりたいです。」
「そっかー、それはそうかもねー、、、」
そうはいっても、なかなかいない感じだった。ハードロックやヘビメタのベースやギターは何人もいたが、ファンクが好きなベースはいなかった。
「あ、ごめーん、俺、そろそろ行かないと、シロー達が今から会おうってメールきてたから。」
シローというのは、Drのバイトしてるジンムジのバーガー屋で、一緒にバイトしてる高校生だ。彼もバンドをやってて、意気投合して、何かやりましょうと盛り上がってるらしい。
「いよいよジーンバンドの始動?」
「まだ分かんないけど、やってみたさはある。」
「ジーンってそんなにいいかなぁ?」
「ヤーオヤオヤオヤオー!だろー?全然良くないよなー(笑)。」
「ばーか、お前らにはあのバンドの良さが分からないんだよ!」
「サチホちゃん知ってる?ジーンってパンクバンド。」
「日本のバンドですか?うーん、聞いた事ないですねぇ。」
「ほらー、誰も知らないって。」
「ばーか、これからだよ。あのバンドは売れると思うよ。」
「はいはい、だといいね。まあ、がんばんなよ。」
Drは足早に出て行った。その後、ダラダラと2〜30分話して解散となった。サチホちゃんとVoは電車で、俺とBは自転車で。
ニケツしてる後ろでBは少し不安なような不満なような感じだった。
「なんか、このバンドうまくいかないかもなー。」
「え?何で?」
「なんか、なんとなくだけど。」
「サチホちゃんのせい?」
「いやー、そうじゃなくて、俺とみんなのバンド活動に対する熱量に、差があるというか。」
「みんなあんな感じだけど、やる気あると思うよ。」
「サチホちゃんの新バンドで熱くなったり、Drは高校生とジーンのバンドだろ?なんかなー、」
「でもそれはあくまでソロ活動的な、サイドユニット的な、さ。」
「まずはメインのバンドをカッコよく仕上げないとって気にならないのかなー、」
「それは、」
それは趣味的な気持ちだから、と言いかけてやめた。そんな事を言ったら、このバンドはもう辞めるとか言いそうだった。確かにBだけ、熱量が違うのかもしれない。
「メタリカのベースがさー、ソロ出したいって言ったらさー、メタリカのボーカルとドラムに怒られたんだって。そんな事は許さない、何故なら俺たちはメタリカだからだ!って言われたんだって。どうしてもって言うならメタリカを首にするまで言われたらしいよ。俺さー彼らの気持ち分かるんだよなー、バンドってそういうもんなんだよなー、俺もメタリカに入りたいよ。」
いろんな活動する方が面白いんじゃない?って言いそうになったけど、やめといた。俺だけでも共感しないと、それこそバンドがバラバラになる気がした。
太陽よりも高く、もっと高く 横浜いちよう @yagosan8569
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