第2話 おばさんはおじさんち、プリンセスはプリンスに
朝の気配がする。
エヴァが入ってきた。
ルカに、晒しを巻いている。
私はいったい何を着れば?
キョロキョロしてたら、昨日キレイにした服を、エヴァが持って来た。
エヴァは驚いてる、ジェスチャー!
オーマイゴット!みたいに肩をすくめている。
いきなり煤が無くなって、綺麗になってたから?
とりあえず着る。
濃いカーキグリーンのパンツに、袖だけグレーに見える、煤が付いたチェックのシャツ。
ネイビーのベストに、足元は汚れたベージュ、むしろ茶色に近い、足首まであるトレッキングシューズ。
ルカはプリンス仕様で、白いチュニックシャツ。胸元は紐で閉めるタイプ。
茶色の皮のベストと、ズボンに編みあげのブーツ。
よく見たら、私の服装とほぼ同じで、笑えた。
素材や機能、ファスナーなんかは無いけど、今も昔もあまり変わって無さ過ぎる感じ?
腰に剣を刺してるのが違う。
プリンスでも、普段はこんな格好なのかと。
食堂のような場所で、パンとチーズのような物を食べて、ルカの後を付いていく。
奥の少し高い場所に、ちょっと値が張りそうな椅子があり、ルカはそこに座った。
エヴァのジェスチャーで、近くの横に立った。
扉が開いて、おじさんが入ってきた。
今なら、ゴリラマッチョと呼ばれるような、がっしりした背は低め、髭を生やした、50代ぐらいの男性。
見た感じの雰囲気は、格闘技をやってた角田さん、角田信朗を思わせる。
名前がよくわからないから、佳代の中では角田として覚える。
何やら報告をしているようだ。
感じる雰囲気からも、彼は頭を使うより身体を使うような仕事をしている匂いがする。
窓の外を指差して、話す。
ルカは椅子から立ち上がって、窓から外を見た。
佳代も気になるから、横から覗いてみた。
若い男子〜中年ぐらいまで、男性たちが、等間隔に並んで、組み合ったり、投げたり投げられたりしている。
どうやら、これは軍?訓練?な様子。
ルカの様子を見る限りでは、角田はルカに信頼されているようだ。
親衛隊?警護隊のリーダーのような者なのか?
角田は知らない間に出て行って、外にいた。
大声で整列させて、何やら話している。
男たちは、僅かに100人ほど。
入り立てのような、身体付きの線が細くて、身体が出来上がってないような、10代半ばの若い子もいる。
ルカは佳代に話かけてきた。
国を見て回ると。
国が攻められて、父が亡くなって、今皆がどんな状況なのかも、知らない。
まずは一緒に見てくれないか?と。
警護は隊長含めて、6人ほどしか連れて行けないが、大丈夫かと。
大丈夫か?と聞かれても、いざとなれば、自分の身は自分で守るしか無い。
窓から見る景色は、緑が多く山が見える。のどかな田舎に見える。
が、よくよく見ると、城の城壁の一部には、焼け焦げた跡や、山も禿げたように緑が無い場所もある。
近くの畑らしい場所には、多分麦が薙ぎ倒されている場所も。
秋からずっとこのままだったのか?
ワープして来たけど、季節はほぼ同じ春を感じた。
咲いている花や、鳥の様子から。
春は種蒔きの季節。
前の年の麦を、放置したままは良くない。
これでは、今年の秋から冬の食料が無くなる。
ルカと外に出ると、馬が用意されていた。
ロクな鞍は付いていないけど。
おじさんだから、助けを借りずに、鎧に足を乗せて、ひょいっと乗る。
角田はやはり、護衛隊長のような感じで、一緒に馬に乗った。
残る5人は若そうに見えた。
20代後半から30代ぐらい。
ルカに角田の歳を聞いてみた。
はっきりは知らないが、多分40歳になるかぐらいらしい。
あー昔の人は、スキンケアもシャンプーもしないから、禿げるのも早い?
食べ物も粗末だし、外にいる時間も長いから、シワも深くて、老けて見えるのか?と。
なら、私はいくつぐらいに見えてるのか?
来た時代でも、50歳を過ぎてるようには、見えないとはよく言われた。
なら、ここだと30代ぐらいに見える?
角田を先頭に、馬で進み出した。
佳代は最後尾から2番目。
城はどうやら山の前に立っているようで、坂を降りていく。
攻め込まれたが、城は残っている。
周りを山に囲まれて、そう広くは無い。
佳代が育った街と似ているように感じた。
盆地で、真ん中の平たい場所に、人が住み、畑を作っている。
麦畑は、やはり放置されている場所が、たくさん見受けられる。
家も焼けた残りが、そのままになっていたり。
どんな戦さがあったかは、わからないけど、国は荒廃しているのは、見て取れた。
畑は草だらけ、家は応急処置で直した部分だけ、木が新しく被害が目でわかる。
山の裾を、まずはぐるっと回るようだ。
山道?に近い木の茂った道を行く。
日が暮れて、火を起こして、焚き火を囲んで、パンとチーズにワインを飲んだ。
毛布に包まり寝て、また馬で移動する。
昼でも少し薄暗い場所に入った。
いきなり、山賊のようなボロ布を来たような男たちが、6人ほど出てきた。
ロクな武器も持っていない様子。
木の棒を振りかざして、馬の足元を狙って殴りかかってきた。
馬は大切な移動手段。
怪我をさせられない。
皆一斉に馬から降りて、男たちと向かい合うことに。
護衛たちは剣を抜いたが、山賊はラグビーかアメフトのタックルのように、低い姿勢で倒してにかかってくる。
あちらは死にものぐるいのようで、飛びかかってくる。
佳代は素早く動いた。
タックルをかわして、後ろに回ると、背中に突きをお見舞いした。
次の相手は、投げ飛ばし、気がつけば、半分の3人は佳代が倒した。
全員もう戦意は無くなり、大人しく座った。
角田が襲った理由を聞いている。
山賊の親分らしい、50絡みに見える男は、話し出した。
自分たちは農民だったが、先の闘いで家を焼かれ、畑も荒らされ、食べ物も無くなった。
妻や子供も亡くしたから、この先どうすれば良いか、わからない。
そんな仲間が集まって、食べ物を欲しさに、山へ入った。
秋のうちは食べ物もあったが、冬には底をつき、脅して食べ物を置いて行かせる、追い剥ぎをするようになったらしい。
食い詰めた者が、山賊になるのは、日本でも西洋でも変わらない。
戦さの後には、こんな破れかぶれの人間が現れる。
生きる希望が無くなると、そんな風になるのだろう。
角田はルカにどうしますか?と聞いた。
佳代はルカの耳元で、「殺してはいけない」と囁いた。
人間死ぬ気になれば、出来ないことは無い。
プリンスの一行と知って襲ったわけじゃでも無さそうだ。
彼らに生きるための気力を与えれば、必ずまた国のためになってくれると感じた。
佳代が山賊たちに、3歩近づいた。
彼らは縮み上がっている。
さっき、投げ飛ばした奴は、目に恐怖が見える。
全員の目を見た。
ルカに「城には食べ物はあるのか?」と聞いた。
「少しは」と答えた。
「連れて行けないけど、彼らを城にやって、何か仕事をさせてみたら?」
しばらく考えて、ルカはうなづいて、角田に指示を出した。
護衛のうちの1人が、城まで付き添い、ひとまず警護隊に入れることになった。
角田がルカに聞いていた。
佳代のことだ。
どんな人なのか?どんな武術をやっているのか?
ルカは詳しくは知らないと答えた。
でも「強かったな」と。
それ以降は、警護の者たちは佳代を見る目が変わった。
お荷物扱いから、戦力として。
若い1人は話しかけてきた。
「自分より大きな者を、どうやって投げ飛ばしたのか?自分にも教えて欲しい」と。
ひとまず視察が終わるまでは、言葉が不自由でもあるし、わからないフリをしようと決めた。
実はこのおばさんは、只のおばちゃんでは無い。
でも、色々と明かすのは、皆に信用されてからで無いと、反発もあるだろうし。
それから、2日ほど進むと、山と言うより丘に近いなだらかな斜面の場所に差し掛かった。
ルカは、この丘も国の中で、紹介したい人がいると言った。
丘の上は平らになって、また山へと続いている。
平らな辺りには、羊がたくさんいた。
中程に小屋と言うには、大きく羊を飼うような小屋もある、建物が見えて来た。
あちらからは、登って来るのが見えていたのか、今度は西洋人の割にには、アジア風のあっさりした顔付きの、若い男性が馬に乗ってやってきた。
ルカに挨拶する声を聞いて、イケボだと思った。俳優の中村倫也に声が似てる。
佳代は倫也と名付けた。
顔も雰囲気が優しそうな感じも、倫也さんに似てるように感じた。
ルカの説明では、ここは父の親友、盟友が領地として治めている土地で、貴重な収入源の羊を主に飼っていて、チーズなども作ってくれている領地だと。
話す雰囲気からも、父も倫也もルカが味方と考えている人たちだとわかった。
なんなら、ルカは倫也に好意がありそうなことも。
向こうは歳下の、昔からよく知る弟分と考えているだけだろうけど。
私はもうおばさんだから、すぐに恋に落ちたりはしないけど、ルカの若さで男のフリを続けるのは、それなりに大変なのかも?と少し同情はした。
その夜は、倫也の家に泊まり、父親とも会った。
信頼できる人柄のように感じた。
翌朝また、丘を降りて、また山裾を進んだ。
変わらず畑は放置された場所が多い。
また2日歩くと、次に大きな石造りの城に似た建物が見えてきた。
そこは、ルカの1番の敵でもある、領主の中では1番力を持つらしい。
「リボンの騎士」だと、ジュラルミンに、ナイロンの悪賢さを足したような奴?
この人にも、ナイロンのような腹心がいるのかも?
ボンクラだけど、悪賢いプラスチックのような息子もいるらしい。
ここの家は、リボンの悪役一家のような人たちと、佳代は認識した。
家の中は、城より豪勢な感じで、財力はありそう。
領民からの取り立ても厳しく、領地替えを望む農民もいるらしい。
肉が初めて出て来た。
何の肉かはわからない。
ローストしたポークのような、見た目と味だった。
城に肉があるのかは、知らないけど来客に肉を出せる、大きな塊があるのは、裕福な証拠。
その夜は、ルカと同じ部屋に寝て、扉の前には警護が交替で付いた。
やはりかなり警戒はしているようだ。
ルカは小さな声で、話した。
この前の戦では、このジュラルミンが裏切って、敵と通じた可能性が高い。
疑いはあるし、簡単に領内に攻め込まれたのも、父が居た場所も知らせたのも、彼らが疑わしい。
が、1番多くの兵力を持ちあ、財力もあるから、簡単に追い払えない存在だと。
やはりそんな疑いもあったのか。
おばさんの観察力を舐めるなよ。
口にする言葉が、わかりにくいだけに、表情や仕草がより伝わる。
国が弱っている今、彼らが事を起こすことは、充分に考えられる。
翌朝出て、また2日ほど行くと、1番険しい山が見えて来た。
この山を超えた向こうが、攻め入って来た、あの国らしい。
「この山から攻めて来たのか?」とルカに尋ねると、
「この山からは難しい。だから国の1番の弱点から、入り込んだ」そう言った。
もう2日ほど行くと、弱点の場所に出た。
盆地だけど、このあたりだけは、山が無い。
開けた土地から、緩やかな坂になり、坂の上に門がある。
「この門から入ってきた。助けを求めた、他の国の兵を装って。誰かが中から門を開けたとしか、考えられない」
ルカは、険しく悲しい顔になった。
整理すると、隣国で敵なのが、ウステバン。
ルカの父が同盟を結んで、信頼していたのは、ウステバンの反対の隣の、バリューと言う国。
同じ敵を持つ、似た地形の穏やかな国。
ウステバンはほぼ平坦で、交通の要所でもあるが平坦なために他から、攻められやすい。
周りは敵と考えている。
出来れば、自然の地形的に守りやすく、小さな国のルカの国が欲しい。
そんな理由があり、曽祖父の時代から、何度か襲撃を受けてきた。
門を強固にし守ってきたのに、いきなり破られた。
その道は、外へと開かれた唯一の道でもあるから、閉じてしまう訳にはいかない。
領内で出来た物を売るにも、他から買うにも、門は必要だ。
道から続くあたりには、畑が広がっているが、焼かれたり放置されている。
また1日馬で移動して、城へ戻った。
さて、何から手を付けるか?
夜、ルカに国について聞かれた。
正直にこのままだと、また攻められたら、国はもたないだろう。
とにかく、あの門だけは直す必要があることは伝えた。
塀を高くして、頑丈な扉や工夫も必要だと思うと話した。
「兵は前に見た、あれだけしかいないのか?」と聞いた。
ルカはうなづいた。
今は訓練より先にやることがある。
領内の年貢や、畑の話もした。
門も先決だけど、畑も一刻を争う。
領内へ触れを出して、民を集めるには、どうしたら?と聞いてみた。
馬で書状を領主に届けて、そこから村の長を通じて、話して貰うらしい。
ならば即刻、領主と長を城に集めて、話すしか無いのでは?と。
ルカは、渋々ながらうなづいた。
「何の命で、皆を呼び寄せる」と聞いた。
「やはり、国王に就任する旨を伝えれば、皆が集まるのでは?」と返した。
門の修復や、畑の話ではおそらく集まらない。
ルカは「私に国王が務まるのか?」と心細そうに言った。
「アナタがやるしか無いでしょ?他に誰もいない。このまま放置したら、冬には国全体で、餓死するしか無くなりますよ。腹をくくるしか無いです。国を何とかしたいなら」
「そうですね」
少し前向きになったか?
「皆が飢えて死ぬのを見たく無ければ、やるしか無いです。詳しい話は明日、また改めて」
そう言って2人は寝た。
佳代は眠る前に、頭の中を整理した。
門の修復と強化。
畑の修復と種蒔き。
これは、とにかく急ぎでやるしかない。
闘いで領主が亡くなって、治める者のいない地は、とりあえずは国王直轄として、治める。
門から繋がるあの場所は、今は領主が不在。
あの場所に、統治の機能の一部を写す。
城は今の場所は、守りやすいが、国の端にあるから、何かを伝達するにも、集まるにも時間がかかる。
国の中央に、城では無いが、国王以下役人が集まれる場所は必要だ。
そして市も開いて、他の国との関係を強化し、協力を仰ぐ。
やるべきことリスト作りは、佳代の得意技だ。
リュックには、アナログ人間だから、小さいノートと鉛筆にペンもある。
ここの筆記用具を借りるにしても、自分の頭の中の整理をしなくてはと。
ウステバン以外の周辺の国にも、国王を支えるレベルの腹心を派遣して貰って話をする必要がある。
城にはどれくらいの食料と、お金があるのかも、至急知りたい。
豪華な料理や、就任の儀式はやってる場合じゃない。
簡素に、だが今は国の危機で、皆の力を貸して欲しいことが、伝わるスピーチをするのが、1番大切だ。
お金が無いなら、王冠だって売るぐらいの覚悟だと、ルカ自身にもわからせ無ければ。
門はとりあえず修復するにしても、より強固にするために、レンガを大量に作らないと。
陶器を作る窯は、確かあったし、炭焼きの窯も使えそうだ。
もう1つ気になるのは、川の存在。
今は川からは攻められてはいない。
川上の国とは、関係は良好だから。
が、関係が悪くなる前に、水門を作り船での行き来は、管理する必要はある。
川下は言わずもがなのウステバン。
川下から攻め入るのは難しいが、放置も出来無い。
こちらも対策は必要だ。
ウステバン対策では、山を超えて来る可能性は、捨てきれない。
もしもに備えて、あの山にも策は必要だ。
時間がある時は良いが、戦さの知らせは、書状で呑気にやり取りしていてはいけない。
国の真ん中に、塔を建てて鐘を鳴らす。
遠くて聞こえないなら、途中にも中継する塔と鐘を置く。
リレー方式なら、10分もあれは、国の端まで伝えられる。
連打30回は戦さとか。
20回は緊急招集など、決めておく必要はある。
ノロシは見張る人がいないと、気づかない場合もあるから、鐘が第1候補。
今回招集する、領主たちは城で迎えるにしても、民を集めるのは、門が良いのでは?とも。
多くの人が集まれるし、復興の象徴にもなる。城より国の中心に近く、時間もかからない。
ルカには、高い台のような物に立たせる。
家の再建には、木材も必要だ。
個人の家の再建の前に、集会所や役所で使う目的の大きな建物を建てて、家が出来るまで、そこで凌いで貰う。
親が亡くなった子供たちは?
学問もさせ無ければ。
親の無い子は、ひとまず城の敷地に学校と寄宿舎のような物を作って、食事は城の料理人に頼む。
子供たちにもしばらくは、門の修復や、種蒔きを手伝って貰う。
親の無い子が、今どうやって生きているのか、佳代は心配だった。
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