ちょっといいことあったんだ。

一筆書き推敲無し太郎

第1話

夕方に出かけるとちょっといいことあったんだ。18時過ぎに夜風とは程遠いビル風を浴びながらなんか歩きたい。そんな気分だったんだ。いつもはもう風呂に入っているし、夕飯も食べてるくらいなんだけど、無性にね。そう、晴れてたからかな。でもお日様はもう沈んじゃってもう一度拝むには寝ないとならない。でも星は見えない都心にいるから。そういう気分ってことで許してもらおう。そう、駅まで歩こうかなって歩き出したんだ。でもね、向かうにつれて「ああそうじゃん。ラッシュ帯じゃん」って。人波が押し寄せるとまではいかないけどもクタクタのリーマンが帰ってきているな。学生服着た夕方にしては元気な児童生徒がキャッキャしているのを尻目に駅からは遠ざかろう、そう思った。駅から自宅に戻る気分じゃなかったから西に向かったんだ。北に行くと自宅で、南に向かってたのが駅。ちょっと迂回する感じで散歩は継続する意志があるくらいの感覚。いつもこっちにはなーんにもないけど夕方だから犬の散歩に出くわしたんだ。大型犬がノシノシ歩いて、小型犬が飼い主にだっこされてて、かわいいなあって思うけど飼うのは大変だろうなぁって思って目の保養ってことにしておく。なんだかホクホクした気分でもう20分とか歩いてる。さすがに明日に響いたらやだなあと思って、もう帰るよ。散歩を終わらせるかどうかは自分にしか決められない。通り雨とかあるけどね。でも今日は降ってないから自分で終了を告げるんだ。帰り際に「そうだ、帰りたくないから最短距離じゃなくてジグザグ歩いて長く歩いて帰ろう」って家の場所と現在地をなんとなくアッチに行く、程度に捉えて帰ればいいんだ。普段と違う景色でこんなとこに接骨院があるんだとか、私塾なんかがあるのねとか、個人居酒屋があるんだとか。普段通らない道を歩くだけで見識が深まる気がしてさ。なんかうれしいんだ。でも嬉しさの原因はそれじゃなくて、いつも行く肉屋に寄ったことなんだよね。生の肉を買う時はスーパーじゃなくてここで買うくらいにはいつも行ってるんだけど、今日はフライヤーを買おうってね。財布はもってきてないけど公衆電話代くらいはもってるからなんか買えないかなって覗いたんだ。

コロッケ100円 メンチカツ130円 ハムカツ120円 からあげ4個200円 焼き鳥各種130円 こんなラインナップで展開されている。手持現金が虚しいから一つかな。店長と談笑しながら今日はからあげを頼もうって思ったんだ。

「店長、からあげくださいな」「おうよ、明日雨降るから売り切らないとならねぇ、いつも贔屓にしてくれてるから良かったら7個全部持っていくかい?」

なんという幸運だろうか。散歩してただけなのに、家に帰ろうとしなかっただけでこうなる運命にあった日なんだと。いつもはフライヤーを頼まないから雨の前日が狙い時なんて知らなかった。でもね「ごめん店長、イマ200円しかないんだ」帰って財布を取りに行くのも微妙な感じ、ごめん店長。自分200円しか支払い能力がないんだ。小学生かなってくらい雀の涙の金額を握りしめて店長の提案を断るしかない自分を恥じた。Paypayも使えない個人店とはいえ。

「200円でいいよ!それともダイエット中かい?」

店長はなんて優しいんだ。気遣いの天才じゃないか。そんなに言ってくれるならって。サービス精神に肖った。私は気分で行動しただけなのになんか運に恵まれている。引き寄せられたように肉屋へ行ったことが大正解だった。店長的には今夜雨降るから買ってくれないと廃棄になる予定だったって。フードロスに貢献できた。店長は店じまいが早まって良し、私は施しを受けられてうれしくて良し、からあげは私に美味しく食べられるから良し。三者良しってwin-win-winじゃん。ハッピーすぎて今思うとちょっといいことに留まらないかも。かなり幸せかも。

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ちょっといいことあったんだ。 一筆書き推敲無し太郎 @botw_totk

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