第25話

025

「これが娘の書き残した遺書になります」

篠原美玲と別れた片桐は、車を運転し、月岡家へとやってきていた。

月岡の両親に頼んで、月岡志乃の残した遺書を見せてもらう。

「これは…!」

一ノ瀬玲央、吉田彩花、雨宮謙信、白石沙耶、そして黒瀬春人。

遺書には篠原美玲の言っていた5人の名前が確かに書かれてあった。

一ノ瀬玲央、吉田彩花、雨宮謙信。

すでに死んだ3人の名前もはっきりと記されている。

果たしてこれが偶然だろうか。

篠原美玲の言っていた、死体に取り憑く悪霊の話を全て信じるわけではないにしても、月岡志乃の自殺と三件の殺人事件を関連づけて考えないことはもはや不可能だった。

「あの、刑事さん。どうかされました?」

呆然としている片桐に、母親が声をかける。

「念の為、写真を撮ってもいいでしょうか?」

「はい。それは構いませんが」

片桐は写真を撮り、遺書を両親に返した。

「娘の遺体は見つかりましたか?」

「いいえ、まだ見つかっていません。しかし重要な手がかりを掴んだような気がします」

「…また殺されたんですってね。S高校の生徒が」

「ええ」

「雨宮謙信…娘の遺書に出てきた生徒ですね」

「はい。そうなります」

「…死んだ2人も娘の遺書に出てきた生徒たちでした。刑事さんはこのことについてどう思われます?」

「…そうですね。偶然とは言い難いかもしれません。前にお伝えしたように、現場からは月岡志乃さんのDNA情報も見つかっています。二つの事件に繋がりがある可能性は高いです」

「あの、刑事さん、私、変なこと言うかもしれないですけど…」

母親は自分で自分の言葉が信じられないような口調で言った。

「その……おかしくなったと思わないでくださいね……私、まだ娘がどこかで生きているような気がするんです」

「え…?」

「なんとなくですよ…?母親の勘というか……血のつながった娘が、まだしっかりあの世に行けていないような……この世界から離れられていないような気がするんです…」

「はぁ」

片桐は黙って母親の話を聞いた。

母親は、月岡志乃の遺書を指差して行った。

「きっとこの3人を殺したのは、娘なんだわ。この3人は娘に呪い殺されたんです」

「…」

「私にはわかるんです。だって母親ですもの。娘のことは私が1番わかっています」

「…」

「きっとこのままだとここに名前の書かれてある残り2人も殺されてしまいます。私がこんなことを言うのも変かもしれないですが。刑事さん、この2人を助けてあげてくれないかしら」

「え…?」

片桐は驚いて母親を見た。

母親は複雑そうな表情を浮かべていた。

「私は母親としてこの5人が憎いです。娘を自殺匂いやってなんの罰も受けなかった彼らが許せませんでした。でも……だからと言って彼ら5人が残酷に死んでもいいなんて、そうは思えません」

母親は目尻に涙を浮かべながら言った。

「次に狙われるのはこの2人だと思うんです。だからこの2人を守ってあげてください。刑事さん、お願いします」

「はい」

片桐は頷いた。

母親の言葉をおかしいと否定することはしなかった。

片桐はただ黙って母親の言葉を聞いていた。

「もし娘にあったら、こう言ってください。もう大丈夫だから。安らかに眠りなさいって。いじめに気付いてあげられなくてごめんねって」

「わかりました。そう伝えます」

片桐は頷いた。

母親は安心したように、その口元に穏やかな笑みを浮かべた。




「準備は大丈夫か?」

「ああ、大丈夫だよ親父」

「よし、それなら出発だ」

父親が頷いて、車を発進させた。

自動で家の門が開き、一礼する使用人の脇を通り過ぎた。

車が家を遠ざかるにつれて、黒瀬は安堵を覚えていた。

これからしばらく、黒瀬は街を離れる。

2週間か、あるいはそれよりも長く、黒瀬は父親と共に旅行をする予定だった。

旅行は黒瀬から提案した。

「少し気分を変えたいんだ。この町で暮らすのが、今は息苦しい」

そういうと父親は二つ返事で了承してくれた。

「わかった。友人たちに死なれてお前も辛いだろう。お前の安全のためにも、少しの間学校を離れたほうがいいかもしれないな」

父親は、友人を亡くした黒瀬の慰安旅行として、学校を休むことを認めてくれた。

担任も、普段から成績も良く、生徒たちからも慕われている黒瀬に慕われており、学校を休む許可をくれた。

「言ってこい黒瀬。お前には心の休息が必要だ。大丈夫。学校を休んでもお前の内申点は下げないようにしておいてやる」

車は町を離れ、高速道路を走っていた。

黒瀬は、後ろへと流れていく景色をぼんやりと眺めながらほくそ笑んだ。

(これで俺は大丈夫だ。犯人に殺されることはない)

自分が帰ってくる頃には、全てが終わっていることだろう。

犯人は逮捕され、自分の身の安全は確保される。

もしかしたら町に残った白石沙耶は殺されるかもしれないが、まぁどうでもいい。

友人はまた作ればいい。

1番大事なのは自分の命だ。

生き延びるためには、町を離れるのが黒瀬にとって最善の策だった。

「ん?なんだぁ?」

運転席の父親がこちらを振り返った。

「どうしたの親父」

「いや、今変なものが見えたようなきが」

「変なもの?」

「車の後ろを、誰かが走っていたような気がしたんだ。バックミラーに……人影のようなものが…」

「…」

まさかと思い、黒瀬は思わず振り返った。

後ろの窓から、車の背後を確認する。

誰の姿も確認できない。

後列車が見えるだけで、人影なんて見えなかった。

「何言ってんだよ父さん。人影なんてあるわけないだろ」

「確かに見た気がしたんだが…」

「今何キロ?」

「60キロだ」

「そんな速さで人が走れると思う?あり得ないよ」

「…それもそうか。疲れてるのかな」

父親は首を傾げ、前に向き直った。

(大丈夫。犯人は俺を追ってこれない。謙信が死んだのは昨日だ。俺が町を出たのを犯人が知っているはずがないんだ)

胸の内に抱いた一抹の不安を、黒瀬はなんとか紛らわせようとする。

黒瀬と父親を乗せた車は、夜の高速道路を時速60キロでひた走っていた。

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